「健診」や「人間ドック」という言葉を聞いたことはあるでしょうし、少なくとも健診は受けたことがある方が多いかもしれません。しかし、具体的な違いを説明できる方は少ないのではないでしょうか。
介護いらずで健康に生きる「健康寿命」が注目されるなか、改めて健診や人間ドックのあり方やその意義について高橋 大介先生にお聞きしました。また高橋先生が院長を務めるライフメディカル健診プラザで行っている取り組みについてもご紹介します。
健康寿命とは、日常生活において健康上の大きな問題を抱えることなく過ごせる期間のことです。高齢化が進む日本では健康寿命が注目を集めていますが、これには2つの理由があります。
医療の発展は、これまで難しかった病気の早期発見や、治療が難しいとされていた病気の治療を可能にしました。そして、医療といえば「治療」でしたが、近年は「予防」を重視する新しい医療の概念が形成されました。
これにより、高齢者人口が増加傾向にある日本では、「QOL向上のため、いかにして健康寿命を延ばすか」、つまり「健康に対する不安をいかに少なくするか」ということが重視されはじめました。
介護は受ける本人だけでなく、その家族にとっても大きな負担となります。健康に長生きすることは、決して自分だけの問題ではないのです。
2015年の段階で、国民医療費は約40兆円にまで膨らんでいます。このうち65歳以上の方が使用している医療費は59.3%、これは金額にして23兆円以上となります。
70歳以上75歳未満の方の医療費は1割負担でしたが、2014年4月以降、収入に応じて2~3割負担に増額することで財政の負担を削減しました。しかし、それでも高齢化が進む日本では、国が負担する医療費がさらに増加すると見込まれています。国家財政における医療費の負担軽減は、根本的に病院のお世話にならないこと、つまり健康寿命がカギを握っているといっても過言ではありません。
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健康寿命を延ばすために必要となるのが、定期的な検査の実施です。代表的な例として、健診を挙げることができます。
健診とは「健康診断」の略称で、さまざまな病気の可能性を踏まえたうえで全身を調べることにより、病気の早期発見につなげます。
加入している健康保険ごとに多少の違いはありますが、年に1回、年齢に応じて検査項目が多少変わっていく、という基本に変わりはありません。
病気によって進行スピードが異なるため、前回の検査では問題なしと診断された方でも翌年の検査で異常ありと診断され精密検査が必要になることもあります。会社にお勤めの方の場合、従業員に年1回の健康診断を受診させるよう、会社側に義務付けられています。
病気の早期発見・早期治療につなげるためにも、毎年欠かさず健康診断を受けるようにしましょう。
会社にお勤めの方の場合、従業員に年1回の健康診断を受診させるよう、会社側に義務付けられています。
船の修理や点検を実施する場所のことを「ドック」と呼びます。次の航海の準備のため、船の状態をくまなくチェックし異常がないことを確認します。これになぞらえ、体表など見える部位から内臓や脳など目視による確認が難しい部位まで、全身の状態を検査することを「人間ドック」と称するようになりました。
日本では1954年に開始した人間ドックは、2012年度の段階で300万人が受診し、病気の早期発見・早期治療に役立っています。
人間ドックでは健康診断と比べて多くの項目をチェックすることが可能ですが、さらに「乳がん検診」「胃がん検診」などのがん検診を追加することで、ご自身の健康状態について総合的に知ることができます。
特にがんは、2015年の日本人の死因第1位になっている病気です。早期発見により完治が可能な場合も少なくないので、人間ドックと併せてがん検診を受けることをおすすめします。
健康診断と人間ドックに共通する検査目的の1つに、生活習慣病の発見があります。
生活習慣病の放置は他の病気を引き起こしたり、それによってQOL低下を招いたりすることがあるため、早めに発見することが大切です。
具体的な例として、生活習慣病の1つである糖尿病(II型糖尿病)を挙げてみましょう。膵臓からのインスリン分泌量が低下すると、血中のブドウ糖を細胞内へと取り込む力が低下します。糖尿病が慢性化すると毎食前のインスリン注射が不可欠となるほか、「糖尿病三大合併症」とも呼ばれる糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害を発症する確率が急激に上昇します。
糖尿病性網膜症は失明、糖尿病性腎症は透析、糖尿病性神経障害は知覚機能の低下により「しびれ」を起こす原因となります。糖尿病になると細菌等への抵抗力が低下するため、糖尿病性神経障害と相まって壊疽(壊死に陥った組織が、乾燥や感染などで2次的変化を受け、性状や外観が著しく変化したもの)を起こす原因となることもあります。
このように生活習慣病は、対策を何も行わずに放置すると、さらなる重篤な病気を引き起こす原因となるのです。生活習慣病やその前段階の異変を早期発見するためにも、健康診断や人間ドックなどの定期的な受診が不可欠となるのです。
生活習慣病を放置すると、あらゆる病気の罹患率が上昇します。健康管理の観点からも“生活習慣病健診”は重要視されています。生活習慣病健診では以下の項目を実施します。
自分の体が病気になっていないかを知るためにも、定期的な医療機関での検査が推奨されています。
人間ドックと健康診断には、現在の健康状態を明らかにし、健康異常に対する早期発見と健康を保持するという目的があります。この検査の違いをご存じない方も少なくないかもしれません。
健康診断と人間ドックの違いは何か、まずはそれぞれの特徴についてご説明します。
人間ドックは自分が受けたいときに受ける健診です。人間ドックは自費で実施する健診のため、自分が受けたいときに自分で予約をして受けます。
一方、健康診断は企業に対して年1回の実施が法律で定められています。個人事業主や就業していない方には、自治体から特定の内容の健診を受診するよう通知されます。
人間ドックの対象は、通常の健康診断でも調べる一般的な内容から特殊な検査まで幅広いことが特徴です。そのため人間ドックを受ける方は、特に自分が気になる部分の検査を重点的に選んで受診できます。
具体的に言うと「がん検診」と呼ばれるような、がんの早期発見に適した検査や、「脳ドック」「心臓ドック」と呼ばれるような、やや踏み込んで早期の病気を発見するための検査になります。選択する検査によっては、病気の確定診断も可能です。
これに対し、健康診断は基本的な全身状態を調べるために行う検査のため、検査項目が少なく、病気を特定するものではありません。つまり、健康診断を受けた結果異常が認められた場合には、その異常がどこにあるのか、異常の原因は何かを調べるために、さらなる検査が必要になります。
検査にかかる費用の負担についても、人間ドックと健康診断では異なります。
人間ドックは任意の検査、つまり受けたい方が受ける検査のため、費用は基本的に全額自己負担になります。受ける検査の数や医療機関によって多少違いはありますが、一般的に3~5万円(税別)が相場とされています。
健康診断は国によって義務付けられている検査です。そのため検査に必要な費用は企業(事業主)が負担し、従業員は基本的に無料で検査を受けることができます。自治体の健康診断でも検査費用は無料です。
健康診断は企業や自治体が費用を負担するのに対し、人間ドックの検査費用は全額自己負担です。最近では福利厚生の一環として人間ドックの費用を負担する制度を導入する企業もあります。
人間ドックにおける費用の負担とコース内容について、当院で取り扱っているコースを例にご紹介します。
当院が実施している人間ドックの中で、もっともベーシックなプランとなります。このプランをお申し込みいただくと、身体測定をはじめとした14種類の検査を半日で行うことが可能です。土曜日の午前中も検査を実施しているため、休日を利用して検査を希望される方もいらっしゃいます。
健診プランにはX線検査で胃の状態を確認するAコースと、経鼻内視鏡による検査を行うBコースがあります。Bコースでは、同じ金額で経口内視鏡検査へと変更することも可能です。
検査結果は、身長や体重など基礎的な内容は当日お伝えすることが可能ですが、組織を採取する検査は結果が出るまでに時間が必要なため、検査結果をコメントとともに郵送しています。X線写真も、検査を担当する医師と放射線科の専門医によるダブルチェックを実施しているため、同様の扱いとなります。
基本コースにMRIを使用した脳ドック、胸腹部CT検査、大腸内視鏡検査、喀痰検査を追加し、より綿密に健康状態を調べることが可能なコースです。
検査項目は1日目16種類、2日目3種類となります。全ての検査が終了するのは、1日目が13時ごろ、2日目は夕方が目安となります。お忙しい方で1日で検査を済ませたい場合は、個別にご相談させていただいています。なお、年に数名の方は2日間コースを1日で検査しています。
人間ドックは、予約・受診準備・受診・結果の流れで進んでいきます。検査結果によっては、これに再検査が加わることもあります。
それでは、実際にどのような流れなのか確認してみましょう。
1:予約
人間ドックは、いつ・どのような検査を受けるのか予約をするところから始まります。
検査を受けたいけれど、どのような検査があるのか分からない、自分の不安を解消する検査はどれなのか知りたいなど、分からないことがあるときには当院までお問い合わせください。
全身くまなく検査できるコースもあれば、アラカルトでさまざまな検査を組み合わせていくこともできますので、検査目的に合わせたプランをご提案することも可能です。
2:受診の準備(食事・水分摂取など)
検査を受けるにあたって、事前準備が必要です。
検査2~3週間前になると、人間ドックの案内・当日持参していただく問診票・検査項目に合わせた検査キットが送付されます。検査を受けるまでに、日常生活に関するアンケートや既往症の記入を済ませておきましょう。また、日常的に服用している薬があれば、こちらに記入するようにしましょう。
人間ドックが終了するまで、飲食と喫煙が制限されます。前日21時までに消化のいい食事を済ませておくのが理想ですが、どの程度の摂取制限が設けられるのかについては検査項目によって異なります。事前に人間ドックの案内の内容を確認しましょう。
持病により服薬を欠かすことができない方は、コップ半分程度の水で服薬し、どの薬を飲んだのかを検査時に申請してください。
大腸がんなど検査内容によっては、検査当日に検体の提出を求められます。検体を入れるケース等は検査キットに同封されていますので、指定のケースに入れて持参してください。
3:受診
当院の窓口で氏名と予約した検査内容を伝え、問診票や検体を提出します。
更衣室で検査着に着替えたのち、予約していた検査がスタートします。
予約していた検査内容を終えたら、最後に医師による診察を行い検査は終了です。
4:結果
基本的な検査のみを行った場合は当日に結果をお伝えすることができますが、検体・X線・血液検査など所定の検査を行った場合は、医師のコメントとともに検査結果が郵送されます。
5:精密検査が必要な場合
人間ドックの結果、異常が見つかった場合には病院を受診し、精密検査を行うこととなります。当院は藤沢湘南台病院と連携しており、スムーズな受診が可能です。
日本国内における乳がんや卵巣がん、子宮がんなど女性特有の病気に対する検診受診率は、欧米に比べて低いとされています。これは検査を行う医師や技士に男性が多いことが原因ともいわれています。そのため、たとえ受診が義務付けられている健康診断でも、「男性が検査を担当することに抵抗感がある」という声はよく聞かれます。
こうした流れを受け、女性が婦人科検診を受けやすい環境づくりが全国で行われています。藤沢湘南台病院の関連施設である「ライフメディカル健診プラザ」では、女性医師による女性専用の検診施設として「ウィメンズセンター」を併設しています。
またウィメンズセンターでは、婦人科検診以外に通常の婦人科診療も実施しており、月経に関する相談、不正出血や異常帯下(おりものの異常)、外陰部の異常、下腹部のしこり、更年期障害、骨盤内臓器脱、不妊治療などの診療を受け付けています。
特定の病気に関する検査を実施した際には「次の検診は◯年後に受けてください」と個別のアドバイスをすることができます。しかし人間ドックを受診された方に同じように、人間ドックの受診に関して一定のスパンを提示することは非常に難しいことです。
病気の発生リスクは、家族歴や生活環境など、個人によって異なるさまざまな要因に基づいて総合的に判断されます。そして病気によって進行スピードも異なります。また、検査を受ける方も、かけられる時間や金銭的な状況、そして健康に対する意識は違います。
このように条件が異なるため、「自分にとって必要となる検査を必要なときに受けてください」というご提案をすることになります。
検査を受ける方が自身の健康上のリスクについて把握したうえで検査を実施、特にリスクが高い項目を重点的に検査するのが理想的な人間ドックの受診方法といえるでしょう。
言い換えれば、人間ドックは「いかに健康に対して投資するか」という個人の意思が反映されやすいのです。
当院で提供している人間ドックのメニューは、健康状態確認のために必要な検査をしていますが、これ以外に「アラカルトドック(検査項目別健康診断)」もご提案しています。これには関連する複数の検査をパック化したものと、個別の検査があります。
たとえば女性の場合、女性特有の病気の早期発見を目的とした「ウィメンズパック」をご提案、乳がんに対する乳腺エコー・マンモグラフィ検査、子宮がんに対する組織診・経膣エコー検査、がん細胞が分泌するタンパク質を測定する腫瘍マーカーテストを一括して受診することが可能です。ほかにも胃がん・大腸がんの有無を確認する「胃・大腸パック」、肺がんの有無を確認する「肺パック」もあります。
財団法人同友会 ライフメディカル健診プラザ 院長
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