マグネシウムは人体を構成し生命活動をするために欠かせない必須・主要ミネラルのひとつですが、カルシウムやナトリウムに比べてなじみが薄く、あまり意識して摂取することを考えたことがない、という方も多いでしょう。しかし近年、このマグネシウム摂取量は年々減少しており、それに伴って様々な疾病が増加していることが指摘されています。東京慈恵会医科大学教授で、同附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長の横田邦信先生のご研究に基づいたお話をしていただきました。
マグネシウム(鎂)は、鉄や亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素などと並び体内で合成できないので、ヒトが必ず摂取しなければならない必須ミネラルのひとつです。
必須ミネラルは全部で現在29種類あり、それぞれが人体にとって重要な働きをもたらしますが、なかでもマグネシウムは骨や歯の形成・柔軟性・弾力性を高めて骨折しにくくさせるほか、神経の興奮を抑えたり、カルシウムの作用をコントロールして筋肉の収縮・弛緩を調整したりする役割を果たします。また、血圧を適度に調整する作用もあることから天然のカルシウム拮抗薬とも呼ばれていますが、その他にも様々な生理作用が非常に多彩であることが特徴です。また、抗動脈硬化作用があることからアンチエイジングミネラルともいわれています。
マグネシウムは350種類以上といわれている酵素の活性にも関与しています。
酵素にはアミラーゼやリパーゼなどの消化酵素をはじめ、酸化酵素、エネルギー代謝酵素など非常に多くの種類が存在しますが、なかでもエネルギー代謝酵素にマグネシウムは大きく関わります。
ヒトはブドウ糖をエネルギーに変化させることで、それを利用して生命活動を維持しています。ATP(アデノシン三リン酸)という高エネルギー物質が産生され、このATPを利用して細胞を働かせます。ブドウ糖からATPが産生されるとき、当然ながら、エネルギーを代謝するための酵素(これをエネルギー代謝酵素といいます)が使われます。そして前述のとおり、マグネシウムはエネルギー代謝酵素を活性化するための重要なミネラルです。つまり、マグネシウムによって解糖系で7種類の酵素が活性化することでエネルギーを生み出すことができるわけです。
マグネシウム食事摂取基準の(推奨量)は、上記の表のとおりですが、2012年国民健康・栄養調査結果によると、日本人の平均マグネシウム摂取量は236~248㎎、充足率にしてわずか65%(男性)にとどまっているという現状があります。1日あたり130㎎程度(男性)、80㎎程度(女性)で、明らかに不足しているのです。
マグネシウムは、かつて日本人が伝統的に食していた食品(穀物・特に全粒穀物)、海藻類、豆類など)に多く含まれます。
1960年以前、日本人の糖尿病有病率はごくわずかでした。このことからもわかるように、かつての日本人はマグネシウムを豊富に含む食材を習慣的に摂取していたため、酵素の働きが十分に作用するとともにインスリン抵抗性が改善し、さらにインスリン分泌も良くなるために糖尿病リスクが下がっていたといえます。
マグネシウムを多く含む食材は、「原食品」です。原食品とは、精製、添加、加工などをする前の、採れたものそのままの食材のことを指します。具体例としてわかりやすいのは、玄米です。玄米は100gあたり49㎎のマグネシウムを含んでいますが、精白米になったとたんに7㎎に減少してしまいます。一部例外はあるものの、調理や加工をするたびにマグネシウムは減っていくと覚えて差し支えありません。
特に私が重要視しているのは、全粒粉や未精製の穀物です。現在は雑穀米や玄米などを食す機会が激減し、効率よくマグネシウムや食物繊維を摂取することができなくなっていますが、本来日本人が行ってきた食生活であれば未精製の穀物を3食当然のように食べていたため、マグネシウムや食物繊維が不足することはほとんどなかったのです。
マグネシウムを豊富に含む食品を、ゴロで覚える方法があります。私は「そばのひまごとまごはやさしいこかい、なっとく」と提唱し、糖尿病の患者さんに覚えていただくよう心掛けています(詳細は『マグネシウムで糖尿病予防・改善』)。
たとえば、「そ」はそばの「そ」です。そばはそばの実という雑穀に分類されますが、そばには大変マグネシウムが豊富に含まれます。また、「ば」はバナナの「ば」です。バナナには32㎎程度のマグネシウムが含まれており、通常はそのまま食すため、含有量そのままのマグネシウムを摂取することができます。
このようにわかりやすくマグネシウムを含む食品を覚えていただければ、日常的に少し意識することでマグネシウムの摂取量を増やすことができるでしょう。
マグネシウムが不足すると、生活習慣病(糖尿病、メタボリックシンドローム)をはじめとして、足のつり(こむら返り)、心筋梗塞、脳梗塞、うつ病、不整脈、悪阻、尿路結石(特にシュウ酸カルシウム結石)、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症、不眠、片頭痛、月経全症候群(PMS)、便秘などの様々な症状を引き起こします。なかでも糖尿病とメタボリックシンドロームの危険性は飛躍的に高まるため、注意が必要です。(詳細は『マグネシウム不足で糖尿病リスクが上がる。マグネシウムと糖尿病の深い関係』と『メタボリックシンドロームの基準とは? メタボリックシンドローム予防と改善にはマグネシウムが効果的』にて紹介)
動脈硬化や動脈石灰化のリスクとマグネシウム摂取量との間に深い関係があることから、マグネシウムは抗動脈硬化作用を有するといえます。さらに、皮膚細胞の角質細胞間脂質であるセラミド、特にアシルセラミドが皮膚のバリアー機能に重要な役割を果たしていますが、その合成にマグネシウムが重要であることから、マグネシウムはアンチエイジングミネラルといわれています。
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医
東京慈恵会医科大学・同大学大学院卒業後、富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵医科大学准教授、同附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長、同大学医療保険指導室長、同大学教授(大学直属)を経て2017年定年退職し現在東京慈恵会医科大学客員教授、糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。糖尿病や生活習慣病にはマグネシウムが深く関係しているという観点から、医学的に糖尿病やメタボリックシンドローム発症のメカニズムや治療法を説く。日本社会全体に貢献している医師の一人。(横田先生が共同設立してマグネシウムに関する新しい情報を提供している(MAG21研究会):http://mag21.jp/ )
横田 邦信 先生の所属医療機関
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