2型糖尿病はこれまで肥満の方がなりやすいと考えられてきました。しかし、近年の研究により、マグネシウムの不足が糖尿病につながるということが明らかになりました。そのマグネシウム不足を予防するために、横田先生は独自の食事スタイルを提唱されています。東京慈恵会医科大学教授 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長の横田邦信先生のご研究に基づいたお話をしていただきました。
『マグネシウムが不足するとどうなる? マグネシウムは健康維持・増進に欠かせない栄養素』でも述べましたが、マグネシウムが不足すると、インスリンの働きが悪くなったり(「インスリン抵抗性」という状態です)、インスリンの分泌がうまくいかなくなってしまいます。
●インスリンの働きが悪くなる
インスリンの働きによって、血液中のブドウ糖は細胞内に取り込まれます。マグネシウムが不足すると、この過程が正常に行われず、ブドウ糖が血中に淀んでしまい、インスリン抵抗性という状態に陥ります。
●インスリンの分泌がうまくいかなくなる
インスリンは膵臓で作られています。インスリンを作り出すプロセスのうち、最初に「ATP」という物質を作り出す必要があるのですが、マグネシウムが不足していると、このATPがうまく産生されなくなります。最初のステップで不具合が生じてしまうので、結果として、インスリンの分泌がうまくいかなくなるのです。
現代の日本人には、マグネシウムが不足しています。昔は、主食として大麦や雑穀を食べていました。大麦や雑穀には、マグネシウムをはじめとしたミネラルが豊富に含まれています。しかし、現在では精製された白米が主流です。また、塩も精製され、摂取できるマグネシウムの量はガクリと落ちました。
マグネシウムはどのような食材に含まれているか、スラスラと出てくる人は少ないでしょう。そんなときは、次の言葉を唱えてみましょう。
「そばのひ孫と孫は(わ)優しい子かい? 納得!!」
なんのことやら、と思うかもしれませんが、これは、マグネシウムを豊富に含む代表的な食材の頭文字をつなげたものです。ひとつひとつを見ていきましょう。
●そ:そば<27mg/100g(ゆで)>
そばの実にはマグネシウムが豊富です。市販のそばは、つなぎとして小麦粉が使われています。なるべくそば粉の割合が多いものを選ぶとよいでしょう。
●ば:バナナ<32mg/100g>
加工せずに食べることができるのがいいところです。また、カリウムやカルシウム、食物繊維も豊富なので、高血圧の方にもおすすめです。朝食に果物の王様といえるバナナ1本を習慣にするのもよいでしょう。
●の:海苔<300mg/100g(焼き海苔)>
海藻類はマグネシウムが豊富な食材の代表格です。100gあたりのマグネシウム含有量は多いのですが、量をたくさんとるのが難しいのが難点。日常的にとるようにしましょう。
●ひ:ひじき<620mg/100g(乾)>
ひじきは煮ると煮汁にマグネシウムが流出してしまうので、煮汁はうまく利用するようにすると無駄なくマグネシウムを摂取できます。
●ま:豆<220mg/100g(大豆・乾燥)>
豆類は全般的にマグネシウムが多く、いんげん豆(乾燥)なら150mg/100g、えんどう豆(乾燥)なら120mg/100g含まれています。茹でてもマグネシウムが残りやすいのが特徴です。
●ご:五穀<220mg/100g(大豆・乾燥)、110mg/100g(あわ)、84mg/100g(きび)、25mg/100g(おおむぎ)、24mg/100g(胚芽精米)>
古来から日本人が主食として食べてきた雑穀です。歯ごたえがあるので、少量でも満腹感が得られ、効率よくマグネシウムが摂取できます。
●と:豆腐<44mg/100g(絹)、31mg/100g>
豆腐を固める際に用いるニガリは、マグネシウムを豊富に含んでいます。豆腐を選ぶときは、成分表示に「塩化マグネシウム(ニガリ)あるいは粗製海水塩化マグネシウム(ニガリ)」とあるものにしましょう。
●ま:抹茶<230mg/100g>
抹茶は、マグネシウムを含む茶葉をまるごといただくことができます。一回量は少ないものの、毎日飲み続ければ、塵も積もれば山となり、マグネシウムを補うことができます。
●ご:ごま<360mg/100g>
ごまはさまざまな料理に取り込むことができるので、積極的に利用しましょう。抗酸化物質のセサミンも見逃せません。ただし、ごま油にはほとんどマグネシウムは含まれませんので注意が必要です。
●わ:わかめ<1100mg/100g>
海藻類なので、例に漏れずマグネシウムが豊富な食品といえます。ビタミンなども含まれます。
●や:野菜<51mg/100g(オクラ)、54mg/100g(ごぼう)、69mg/100g(ほうれん草)>
野菜はマグネシウムだけではなく、ビタミンや食物繊維なども豊富ですので、ぜひたっぷり摂りましょう。特に緑黄色野菜は、マグネシウムが多いのでおすすめです。
●さ:魚(魚類)<100mg/100g(あさり)、73mg/100g(金目鯛)>
糖尿病の方であれば、主菜には肉より魚類を選ぶことが推奨されます。
●し:しいたけ<110mg/100g(乾)、14mg/100g(生)>
干ししいたけの場合は、水で戻した際の戻し汁も調理に使うようにしましょう。
●い:いちじく<14mg/100g(生)、62mg/100g(乾)>
干したいちじくはそのまま食べられます。また歯ごたえがあるので早食い、食べ過ぎを防止できます。ポリフェノールやビタミンなど、マグネシウム以外の栄養素も豊富です。
●こ:昆布<540mg/100g>
昆布はダシとしてだけなく、ダシをとったあとの「ダシがら昆布」を調理に使うと、マグネシウムを余すことなく摂ることができます。
●か:牡蠣<74mg/100g>
牡蠣にはたんぱく質やリン、亜鉛なども豊富で海のミルクともいわれています。食中毒(ノロウイルス感染)を防ぐため、念のため火を通して食べるようにしましょう。
●い:いも<28mg/100g(やまといも)、25mg/100g(さつまいも)、20mg/100g(じゃがいも)>
白米のマグネシウム含有量は7mg/100g。主食として食べるのであれば白米よりも優秀な食材と言えます。
●なっ:納豆<100mg/100g>
納豆1パックは50~60gです。つまり、1度に50~60mgを摂取できます。善玉コレステロールを増やすはたらきもあるので、生活習慣病が気になる方にはぜひ摂ってもらいたい食材です。
●と:とうもろこし<37mg/100g>
とうもろこしは茹でるとマグネシウムが流出してしまうので、電子レンジで加熱するのがおすすめです。
●く:くるみ<150mg/100g>
くるみだけでなく、ナッツ類はマグネシウムが豊富です。特にくるみはコレステロールに効果的な「オメガ3脂肪酸」を豊富に含みます。ただし、カロリーは高いので食べ過ぎには注意が必要です。
献立を考える際、レストランでメニューを選ぶ際には、「そばのひ孫と孫は(わ)優しい子かい? 納得!!」と頭のなかで唱えて、食材選びをしてみてください。おのずとマグネシウムを補える食生活になっていくはずです。
マグネシウムに関する様々な情報提供を、マグネシウム啓発サイト『MAG21研究会』でUPしておりますので是非ご活用ください。また、マグネシウムのレシピ本を監修しましたので、具体的なレシピについては、『糖尿病ならすぐに「これ」を食べなさい!レシピ(主婦の友社)』をご参照ください。
標語に挙げた食材のほかにも様々なものにマグネシウムが含まれていますので、ご自分の好きなものでマグネシウムの多いものもいろいろ覚えて頂けるとよりよいかもしれません。
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医
東京慈恵会医科大学・同大学大学院卒業後、富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵医科大学准教授、同附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長、同大学医療保険指導室長、同大学教授(大学直属)を経て2017年定年退職し現在東京慈恵会医科大学客員教授、糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。糖尿病や生活習慣病にはマグネシウムが深く関係しているという観点から、医学的に糖尿病やメタボリックシンドローム発症のメカニズムや治療法を説く。日本社会全体に貢献している医師の一人。(横田先生が共同設立してマグネシウムに関する新しい情報を提供している(MAG21研究会):http://mag21.jp/ )
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