新型コロナウイルス感染症は、2019年12月に中国湖北省武漢市で報告されて以来、全世界で感染が拡大している病気です。糖尿病などの基礎疾患を持っている人や高齢者などは重症化しやすいといわれており、なかには命を落とす人もいます。日本でも感染が拡大しつつあるなか、糖尿病患者やその家族はどんなことに気をつければよいのでしょうか。
本記事では、糖尿病患者の新型コロナウイルス感染症に関するリスクや注意点、定期通院の方針などについて、京都大学医学部附属病院 前院長 日本糖尿病学会 常務理事 稲垣 暢也先生にお話を伺いました。
※本記事は2020年4月28日時点の医師個人の知見に基づくものです。
糖尿病患者は、一般の人よりも新型コロナウイルスに感染しやすいといわれています。ただし、これは新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザウイルスや、SARS、MARSなどほかのコロナウイルスでも同じことです。つまり、糖尿病患者はウイルス・細菌による感染症全般に感染しやすいといえます。
糖尿病患者が感染症に感染しやすくなるメカニズムについては、まだ完全には分かっていません。明らかなのは、糖尿病患者は白血球のはたらきが悪くなるため、免疫機能が低下し感染症にかかりやすくなると考えられています。また、糖尿病によって高血糖が生じている場合にも免疫機能が低下するといわれています。
糖尿病患者に限らず、新型コロナウイルス感染症は重症化すれば命を落とす可能性のある病気であるということを認識していただきたいです。インフルエンザの致死率が0.1%程度であるのに対し、新型コロナウイルス感染症の致死率は各国でばらつきはあるものの世界的に見ると数%です。
また、新型コロナウイルス感染症が重症化し肺炎を起こすと、仮に命が助かったとしても肺に障害が残る可能性があります。これは、新型コロナウイルス感染症による肺炎がウイルス性の肺炎だからです。たとえば、インフルエンザでも肺炎が起きることはありますが、インフルエンザの肺炎はインフルエンザによって免疫力が落ち、肺炎球菌に感染してしまうことで起きる肺炎で、新型コロナウイルス感染症による肺炎とは機序が異なります。
新型コロナウイルスに感染しないよう、一般的な感染症対策を徹底することです。具体的にはマスクの着用、こまめな手洗い、密閉・密集・密接の“三つの密”を避けることなどです。
また、同居の家族がいる場合、家族も感染症対策を徹底しウイルスを自宅に持ち込まないよう心がけていただきたいです。自宅では家族がウイルスを持ち込んでしまった場合を想定し、家庭内でも三つの密をなるべく避け、使用する食器やタオルを使い分けるなどの対策をとっていただきたいと考えます。同じ家に住んでいるとなかなか難しいと思いますが、糖尿病患者に新型コロナウイルスをうつさないための工夫をしましょう。
中国の論文などで、糖尿病患者は一般の人より新型コロナウイルスにかかった場合の重症化リスクが高いことが報告されています。
糖尿病患者が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすくなってしまう理由のひとつは、免疫力の低下に加えて、糖尿病の人の全身に元々炎症が生じているためではないかといわれています。新型コロナウイルス感染症にかかると、炎症反応が起こることで炎症サイトカイン*が強く出て、サイトカインストームと呼ばれる状態に陥ります。サイトカインストームとは、感染症などを原因にサイトカインが急激に上昇し、ショック状態や多臓器不全などを引き起こすことをいいます。糖尿病の人は、元々全身に炎症が生じているためサイトカインストームが増悪しやすくなり、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすくなるのではないかと考えられています。なお、糖尿病のほかに高血圧症、高度肥満症なども全身に炎症が生じやすいため、サイトカインストームが増悪しやすいと考えられ、注意が必要です。
*サイトカイン:細胞から分泌されるたんぱく質の一種。細胞同士の情報伝達を行う。
中国湖北省武漢市のデータなどによれば、新型コロナウイルス感染症にかかると、糖尿病患者は基礎疾患のない一般の人に比べて重症化するリスクが2〜3倍高いといわれています。
一方で、糖尿病患者における新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが、ほかの基礎疾患を持つ人よりも高いかについては検証できるデータも少なく、今のところ分かりません(2020年4月28日時点)。
特にご注意いただきたいのは、高齢の糖尿病患者、糖尿病の合併症が進行している人、糖尿病のほかにも新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい基礎疾患を持っている人などです。また、2型糖尿病患者は、糖尿病のほかに高血圧症にかかっていたり高度の肥満症があったりすることが少なくありません。これらの条件が重なると、重症化するリスクがより高まるといわれています。
たとえば、糖尿病患者でそのほかに以下のような基礎疾患を抱えている人は重症化するリスクが高いため注意が必要です。
など
現在さまざまな治療薬の治験が進められていますが、現時点では新型コロナウイルスに明確な治療方法はありません(2020年4月28日時点)。そのため、糖尿病患者だからできないという治療も特にありません。
ただし、万一糖尿病患者が新型コロナウイルス感染症にかかった場合、シックデイには注意が必要です。シックデイとは、糖尿病患者が感染症にかかることで食欲不振・吐き気・下痢・嘔吐などの症状を呈する状態のことをいいます。シックデイ状態になったときは、食欲がなくてもできるだけ水分を取るように心がけ、お粥や麺類など食べられるものを少しでも食べるようにしましょう。
シックデイのときの薬の服用については、あらかじめ医師に聞いておきましょう。特に1型糖尿病の場合、シックデイに陥ってもインスリンを中止しないようにしてください。シックデイにインスリン注射をやめてしまうと、ケトアシドーシスになる恐れがあるため、決して自己判断で中止しないようにしましょう。一方、2型糖尿病の場合、シックデイのときには服用を控えるべき薬もあります。
シックデイになると糖尿病患者はパニックになり、どうしていいか分からなくなってしまいます。そのため、本人はもちろん、家族もあらかじめシックデイ対策を理解しておきましょう。また、困ったときは電話でかかりつけの医療機関に相談し、必要に応じて受診を検討しましょう。
今までよりもさらに意識的に血糖コントロールを心がけていただきたいです。新型コロナウイルスに関してはまだ明らかでないのですが、同じコロナウイルスの仲間であるSARS、MARSでは血糖値が高い人ほど感染しやすく、重症化しやすいというデータがありました。そのため、血糖値を良好に保つことをいつも以上に強く意識してください。
しかし、緊急事態宣言などによって外出が難しくなった今、運動不足やストレスなどにより、従来よりも血糖値が上がりやすい環境になっています。そのため、人が居ない場所、少ない時間帯などをねらって散歩をするなど、適度な運動・気分転換をするようにしてください。外出が難しい場合には、室内でできる運動をしてみるのもよいでしょう。
まずは、かかりつけの医療機関に相談することをおすすめします。血糖コントロールが良好な場合であれば、受診を延期することも可能でしょう。実際、私たちも血糖コントロールが良好な人で希望があれば1度に処方する薬の量を増やし、たとえば、通院の間隔を通常の1か月に1回から2〜3か月に1回に変更するなどしています。
しかし、血糖コントロールがあまりよくない場合など、患者によってそれぞれ状況は異なりますので、かかりつけの医療機関に相談してください。通院をやめることで糖尿病が悪化してしまう可能性もあるため、自己判断せずに必ず医師の指示にしたがってください。
また、医療機関によっては定期通院の人を対象にオンライン診療や電話診療を行っているところもあります。通っている医療機関がオンライン・電話診療を行っている場合、病気の状態によっては医療機関に足を運ばず、自宅からオンライン・電話診療を受けることができるかもしれません。
繰り返しになりますが、一般的な感染症の予防対策です。医療機関へ行く際はマスクを着用し、なるべく人混みを避けるようにしましょう。また、外出後はせっけんを使用して手洗いをしましょう。
糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症に感染すると、重症化しやすいことが分かっています。そのため、本人はもちろん、家族も感染予防対策をしっかり行い、まずは新型コロナウイルス感染症にかからないことを目指しましょう。
また、万が一糖尿病患者が新型コロナウイルス感染症に感染してシックデイ状態(食欲不振・吐き気・下痢・嘔吐などの症状を呈す状態のこと)になった場合に備え、あらかじめシックデイ対策について医師に相談しておくようにしましょう。
そのうえで、体調が優れないときや気になることがあったときは自己判断をせず、まずは電話でかかりつけの医療機関に相談してください。医療機関で必要に応じて受診や薬の服用などの指示を行います。
日本糖尿病学会では、糖尿病患者向けに新型コロナウイルス感染症に関するお知らせを掲載しています。
新型コロナウイルス感染症に関して不安なことや知りたいことがある場合は、以下のURLをご覧ください。
京都大学 名誉教授、公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 理事長
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