全世界で流行が広がっている新型コロナウイルス感染症。日本では2020年1月に最初の感染確認があって以来、国内全域に感染が広がりました。また、現在までに日本国内では感染者の多い地域を対象とした緊急事態宣言が計2回発出されているほか、感染拡大を防ぐためにさまざまな対策が講じられています。
国立国際医療研究センター国際感染症センター長を勤める大曲 貴夫先生は、感染症専門医として新型コロナウイルス感染症の患者さんの対応はもちろん、医療機関内の体制構築、行政機関との連携、医薬品の承認や審査に携わるなど、さまざまな取り組みをされています。今回は大曲先生に新型コロナウイルス感染症流行後のあゆみや、2021年2月中旬から接種が開始される新型コロナウイルスワクチンについてのご意見を伺いました。
※本記事は2021年3月2日時点の医師個人の知見に基づくものです。
新型コロナウイルス感染症の流行が生じてからおよそ1年が経過しましたが、この1年はまだよく分かっていない病気に対応する大変さに追われ、とにかく無我夢中に駆け抜けたという感じです。
当センターではじめて患者さんが新型コロナウイルス感染症と診断されたのは2020年1月末のことで、日本国内では3例目でした。当初はここまで流行するというイメージが持てなかったので、ごく少数日本に入ってくる“まれな感染症”の1つというように捉えていました。
しかし世界中で流行が広がるにつれ、中国・武漢市に暮らす日本人を帰国させるミッションや集団感染のあったダイヤモンド・プリンセス号の対応など、特殊な事例の対応が生じるようになり、深刻さが増しました。当時は現在のように緊急医療体制も整っていなかったので、当院でも真夜中までずっと患者さんを受け入れながら、体制づくりを考える必要がありました。また、厚生労働省の方々も対応に追われながらさまざまな判断をしなければならず、昼夜問わず相談の連絡が来ていたことを覚えています。
医療現場にいて、とりわけ緊張感が高まったのは2020年3月末~4月にかけてのいわゆる“第一波”の時期です。
病気について今以上に分かっていないことが多いなかで、重症の患者さんがどんどん増えていくという恐怖感がありました。また、当時はメディアでイタリアやアメリカなどの医療機関がひっ迫している姿が多く報道されていたため、私自身も「いずれ日本もそうなるのではないか」と本当に心配していました。そして第三波を迎えた今でも、「少しでも対応を誤れば、医療崩壊に陥る」という危機感を持っていることは変わりません。
さらに第二波、第三波と時間が経過していくにつれて、最初は未知の病気に対する不安やストレスが大きかったものの、徐々に経済・学業など社会情勢に対する不安・不満が露出していくのも感じられました。このような変化の激しい状況のなかで、さまざまな判断を行いながら対応するのは本当に骨の折れることでした。また、この先も読めない未来が待っていますので、引き続きその時その時のベストな方法を考える作業が必要になると思っています。
新型コロナウイルス感染症は、感染症のなかでも比較的珍しい特徴を持つ病気だと私は思っています。
感染症の特徴について述べるとき、感染した場合に人が亡くなる確率を示す“致命率”と感染の広がりやすさを示す“感染力“という2つの軸が考えられます。たとえばインフルエンザの場合、致命率はそこまで高くありませんが、感染力が高く多くの方がかかりやすいという特徴があります。一方、エボラ出血熱は致命率が非常に高いものの、感染力が低く広がりにくいという特徴があります。このように、感染症の多くは致命率と感染力のどちらか一方が強い傾向にあります。
しかし、新型コロナウイルス感染症は致命率も中等度に高く、感染力もインフルエンザと同等かそれ以上に高いという特徴があります。つまり、致命率も感染力も高いという比較的珍しい特徴を持っているために、既存の対策では立ち行かない部分や先が読めない部分がありました。
たとえば医療機関においては、比較的致命率が高く感染者も多いという新型コロナウイルス感染症の特徴を受けて、新型コロナウイルス感染症の患者さんにパワーを割くために、他の診療を縮小することも検討されました。しかし、事故で外傷を負って運ばれてきた患者さん、心筋梗塞で一刻を争う状態の患者さんを放っておくことはできませんので、現実的には他の診療を縮小するにも限界があります。新型コロナウイルス感染症の患者さんを診ながら、そうでない患者さんもしっかり診ていくために、私たちは現在も試行錯誤を繰り返しています。
私は新型コロナウイルスワクチンの有効性について、驚くほど効果が高いと感じています。実際にファイザー社のワクチンについては、発症予防効果はおよそ95%と報告されており、発症率が低下することによって重症率の低下も期待できます。多くの方が接種することによって、感染者・重症者が減少し、新型コロナウイルス感染症に対する現在の危機感を緩和させることが期待できると思っています。
新型コロナウイルスワクチンの開発には、最先端の技術が利用されています。おそらく、この感染症が流行するよりも遥かに前から行われてきた基礎的な研究の積み重ねが活用されていると思います。最新の技術を使えばここまで有効性・安全性の高いワクチンを作ることができると知って、私自身も研究者として衝撃を受けました。
前述のとおり、新型コロナウイルスワクチンは最先端の技術によって開発されたため、従来のワクチンよりスピーディーに完成した経緯があります。また、新型コロナウイルスの流行前から行われてきた基礎的な研究が土台となっていますので、これらの準備の成果として速やかにワクチン開発に至れた側面もあります。そのため私は、速く開発されたからといって安全性が低いということは考えにくいと思っています。
また、今回の新型コロナウイルスワクチンは日本国内でも特別承認として異例の速さで認可されたことから、安全性を懸念する方がいます。しかし、私自身が新型コロナウイルス感染症に関する医薬品の特別承認の審査に関わった経験からすると、決して承認までの工程を省略しているというわけではなく、より速く新型コロナウイルスワクチンを届けるために、審査をするうえで必要なことを全て行いながらもタイムラインを縮めていく努力がされていると感じます。そのため、承認についても速く認めるために手を抜いているわけではなく、正しい行程を経て有効性・安全性が確認されたうえで認められていると考えています。
一方懸念することがあるとすれば、完全に新しい医薬品なので使用された実績はなく、現時点では長期的な影響が分からないということです。ただし、それは新しい医薬品であれば何でも同じことなので、使用が開始された後の調査をしっかり行い、データをフィードバックしていくことで安全管理を行うことになります。
「ワクチンが通常よりも速く開発できた理由」について詳しくはこちら
新型コロナウイルスワクチン接種後も、新型コロナウイルスに感染する可能性はゼロではありません。ただし、接種しなかった場合と比較すると感染する確率は明らかに下がるといわれています。
新型コロナウイルスワクチンは従来の他の病気に対するワクチンと比較すると、発熱、悪寒、倦怠感、局所の痛みなどの副反応は出やすいと考えられています。副反応は主に若い方に生じやすく、1回目の接種より2回目の接種で強く出ることが多いといわれています。副反応について恐怖心を抱く方も多いと思いますが、どんな副反応が出るか分かっていれば怖くない部分もあると思いますので、適切な情報をしっかり知っていただきたいと思います。
また、長期的にみた場合の体への影響を懸念している方もいます。仮に何らかの影響があった場合でも、多くは処置によって対応できると考えていますが、影響が現れるかどうかについては、正直なところ医師である私たちも分かりません。さまざまな専門家の意見に耳を傾けて、理解を深めてほしいと思っています。
ワクチンのリスクについて理解する際は、まず副反応と有害事象の違いについて知っておくとよいでしょう。副反応とはワクチンを打ったことによる免疫の付与以外の反応をいいます。つまりはワクチン接種が理由で生じていることが明らかな反応です。
一方、有害事象とはワクチン接種後に生じた因果関係の分からない事象をいいます。たとえばワクチン接種後に発熱が生じた場合、ワクチン接種による副反応としての発熱である可能性もあれば、ワクチン接種と関係なく風邪をひいたなどの有害事象としての発熱である可能性もあります。有害事象には一見ワクチンの摂取と関係がなさそうなものも含まれますが、データを集めることによって新たなリスクなどが見つかることもあるため、医学においては重要なデータとして取り扱われます。
「ワクチンの“副反応”と“有害事象”の違い」について詳しくはこちら
まだ分からないものに対して恐怖や不安を感じることは当然だと思いますので、まずは正確な情報を収集・理解していただいたうえで判断していただきたいと思います。メディアやSNSで流れる情報は玉石混淆で、必ずしも正しいとは限りません。私たち感染症を専門とする医師も引き続き情報発信をしていきますので、適切な情報を知ったうえで、接種するかしないかの判断をしていただきたいと思います。
新型コロナウイルスワクチンは、現在の深刻な状況を打破するゲームチェンジャーになりうると思っています。接種によって個人レベルでの防御ができるほか、多くの方が接種すれば社会レベルでの防御につながりますので、新型コロナウイルス感染症による不安が緩和され、みんなが流行前の状態に近い生活を送れるようになる可能性があるからです。一方、ワクチンを打つ人が少ない場合、このような大きな状況の好転は期待できません。いつ収束するか分からない状況のなかで、引き続き厳しい現実に接し続けることになります。
この状況を打破するために使える手段は、今のところワクチン接種しかありません。さまざまな考えがあるとは思いますが、自分の身を守るため、そして経済や医療など社会情勢を守るためにも、適切な情報を知って接種を検討していただきたいと思います。
国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター センター長、AMR臨床リファレンスセンター センター長
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