新型コロナウイルス(COVID-19)感染症は2019年12月に中国・湖北省武漢市で発生した患者が最初の症例として報告されて以来、世界各地で感染が広がっている感染症です。日本でも感染経路不明の感染者が続出し、外出自粛や手洗い、マスクの着用など国民全員に感染症対策を講じることが求められています。
今回は新型コロナウイルスの感染経路やマスクの着用効果、国民一人ひとりができる予防策などについて、広島大学病院 感染症科教授 大毛 宏喜先生にお話を伺いました。
※本記事は2020年5月20日時点の医師個人の知見に基づくものです。
新型コロナウイルスの感染経路は、“飛沫感染”と“接触感染”の二つと考えられています。
接触感染とは手に付着したウイルスが口や鼻に入り感染することをいいます。たとえば、感染者がドアノブなど不特定多数の人が触る物にウイルスの付いた手で触るとドアノブにウイルスが付着します。そのドアノブをほかの人が触るとほかの人の手にウイルスが付き、その手で口や鼻を触ることでほかの人がウイルスに感染してしまう可能性があるのです。
したがって、感染しやすい場所としては人が集まる所や不特定多数の人が触るようなものがある所と考えられます。不特定多数の人が触る物のある場所には駅の手すりやエレベーターのボタンなどが挙げられ、これらにはウイルスが付着している可能性が高く、触ることで感染のリスクが高まる恐れがあります。
飛沫感染とは感染者の飛沫(くしゃみ・咳・唾液など)を吸い込むことによって感染することをいいます。
いわゆる“三つの密”が想定されるような場所で飛沫感染が起こりやすくなります。三つの密とは、“換気の悪い密閉空間”“多数の人が集まる密集場所”“間近で会話や発声をする密接場面”を指します。これらが想定される場面としては飲食店やスポーツジム、エレベーターなどが挙げられます。
症状のない人から感染する可能性もあります。ここでは症状のない人を“不顕性感染者”と“発症前の感染者”に分けて考える必要があります。
ウイルスに感染しているものの症状が出ることはない無症状の人を指します。このような感染者からも感染する可能性はありますが、その確率は発症者から感染する確率よりも低いといわれています。
その段階では新型コロナウイルス感染症の症状が現れていないものの、以後に症状が現れ新型コロナウイルス感染症と認められる人のことをいいます。新型コロナウイルス感染症の場合は発症する直前にウイルス量が増加すると考えられており、発症前後がもっとも人に感染しやすいと考えられています。そのため、感染者と発症の2日前から隔離開始までの間に接触した人を“濃厚接触者”と定義し、発症前の感染リスクに配慮しています。
新型コロナウイルス感染症にはまだ治癒の定義がないためこの質問にお答えすることは難しいです。
医療機関では症状の軽快後にPCR検査で2回連続陰性が確認された段階で退院を認めています。しかし、一度退院しても再び陽性となり入院する人もいるほか、症状が軽快してもなかなかPCR検査が陰性化せず入院が長引いている人もいます。症状がなくPCR検査で陽性が出ている人からどの程度感染が広がるかは明らかではありませんが、念のため退院後もしばらくは外出を控え周囲の人にうつさないように心がけましょうと指導しています。
さまざまな要因が考えられるため一概にはいえません。
しかし、スーパーマーケット内での感染経路としては主に接触感染が考えられます。スーパーマーケットの商品、かご、階段の手すりなどにウイルスが付着しており、それに触れた手で口や鼻を触ることによって感染してしまうという可能性はあるでしょう。
そのため、スーパーマーケットで買い物をする際は店内に入る前だけでなく、買い物が終了した後にも手指の消毒を行うとよいでしょう。現在多くのスーパーマーケットではお店の入口にアルコール消毒液が設置されており、入店時に手指の消毒をする人は多くいます。しかし、出口にアルコール消毒液が設置されていることはほとんどなく、多くの人はウイルスが手に付着したまま帰宅する結果となっています。したがって、退店時も手指の消毒を実施することでスーパーマーケット内での接触感染を予防できると考えます。
外出が必要な場合はできるだけ人の少ない時間帯や公共交通機関を利用しなくても行けるような場所を選ぶとよいでしょう。また、生活必需品の買い出しは極力少人数で行き、帰宅後は手洗いなどを徹底してください。
なお、子どもの外出に関しては子どものストレス解消などの観点から完全に控えることは難しいと考えます。ただし、今は公園の混雑が激しく人の多い時間帯に公園へ足を運ぶことは感染リスクが高いと考えますので、外出の時間帯にご注意ください。また、外出時は子どもにもマスクの着用をさせましょう。しかし、年齢によってはマスクを正しくつけることができない、マスクをしていても口や鼻を触ってしまうということが考えられますのでそのような年齢の子どもに対しては外出を控えさせることも検討してください。
布マスクであっても大部分の感染について予防効果があると考えます。
まず、飛沫感染の観点では布マスクでもおおよその飛沫感染は予防できると考えます。布マスクは使い捨てマスクより目が粗いので細かい飛沫は防げないという意見もありますが、使い捨てマスクが手に入りにくい現状を考えるとマスクを着用しないよりは布マスクをしたほうが飛沫感染を予防できるでしょう。
また、接触感染の観点で、マスクの素材にかかわらずマスクを着用すること自体に予防効果があると考えます。マスクを着用していると手で口や鼻を触る回数が減るため自然と接触感染の確率を下げることができるのです。
さまざまな意見がありますが今のところ“布マスクだから予防効果がない”というデータはありません。そのため、口と鼻を覆う正しいマスクの着用方法を実践していれば布マスクであっても大部分の感染は予防できると考えます。
使用した布マスクはほかの衣類・リネン同様、洗濯機で洗濯し乾燥させましょう。ただし、布の素材によっては繰り返し洗濯をすることで生地が縮んでしまうことが想定されます。生地が縮み口と鼻を両方覆うことができなくなるとマスクが正しく着用できません。そのため、縮んでしまった際は新しいマスクを用意するようにしましょう。
使いまわしであってもマスクは着用したほうがよいと考えます。特に今は人が集まる場所へ行く機会も少なく、マスクの表面に付着するウイルスの量もそこまで多くないことが予想されます。少しの外出を繰り返す分には同じマスクを繰り返し使用することを検討してもよいでしょう。
咳エチケットとは、咳やくしゃみによる飛沫を広げないための対策です。具体的には、咳やくしゃみをマスクやハンカチ、洋服の袖などで受け止めることをいいます。
咳エチケットの注意点としては、咳やくしゃみを手で受け止めないことです。咳やくしゃみを手で受け止めてしまうと手に大量のウイルスが付着し、接触感染の原因になる可能性があります。必ずマスクやハンカチ、洋服の袖などで受け止めるようにしましょう。
帰宅したらすぐに手指の消毒、あるいは手洗いを行うことです。帰宅後ウイルスに汚染された手でドアノブや電気のスイッチなどに触れてしまうとそこにウイルスが付着し、家庭内での接触感染が生じる可能性が高まります。そのため、何よりもまずは手をきれいにしてから次の行動に移るように心がけましょう。
アルコール消毒液をお持ちであれば玄関に置き、帰宅したらまず手指の消毒をするとよいでしょう。アルコール消毒液のない家庭では帰宅後はそのまま洗面所に直行し、石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。
広島大学病院 感染症科教授
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