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新型コロナウイルスの“変異ウイルス”は何が問題となりえるのか?【2章】

新型コロナウイルスの“変異ウイルス”は何が問題となりえるのか?【2章】
峰 宗太郎 先生

米国国立研究機関 博士研究員

峰 宗太郎 先生

目次
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月01日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

世界中で混乱を巻き起こし、私たちの生活にさまざまな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。中国の武漢で初めて報告された新型コロナウイルスですが、のちにイギリス型の変異ウイルスが発見され、さらに南アフリカ型、ブラジル型の変異ウイルスが報告されたことで、その流行が懸念されています。新型コロナウイルスの基本的な知識から気になるワクチンのお話まで、峰 宗太郎(みね そうたろう)先生(米国国立研究機関 博士研究員)に詳しくご解説いただきました。【2章】

こちらのページで、新型コロナウイルスの遺伝情報(設計図)は(+)鎖RNAに書き込まれているとお伝えしました。ここをもう少し詳しく説明します。遺伝情報はA、C、G、Uという4つの文字(塩基)で書き込まれていて、新型コロナウイルスでは約3万“文字”の情報があります。

この(+)鎖RNAを1本に伸ばしてみましょう。すると、その中にはORF(オープンリーディングフレーム:タンパク質にコピーされる可能性のある配列部分)をはじめとして、タンパク質や酵素などさまざまなパーツの設計図が入っています。

新型コロナウイルスにおける“変異”とは、RNAに書き込まれた設計図が書き換わることをいいます。そして、設計図が変わることでタンパク質の形が変化したり、それに伴ってウイルスの性質が変わったりすることがあるのです。これは、変異を考えるうえで大事なポイントです。

新型コロナウイルスの変異に関してはさまざまな用語が使われていますが、専門的に考えるといくつかの間違いが含まれています。

まずは“変異種”について。これは明らかな間違いです。変異種というのは、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスくらい、あるいはサルとヒトほどの違いがあります。

次に“変異株”です。これが実は微妙なところで、株(strain:ストレイン)が変わるというとウイルス学的な特徴が大きく変わったことを指します。たとえば、新型コロナウイルスなら今までACE2に結合していたものが別の受容体に結合するようになる、といった違いです。ただし、現在の新型コロナウイルスの変異はそこまでの違いがあるとは明らかになっていません。ですから変異株という呼び方は正しくない可能性があります。

今回のように変異が生じて異なるウイルスが現れた場合、変異体(variant:バリアント)、あるいは変異同源体(clade:クレード)、系統(lineage:リニエージ)と呼びます。そして、実際に採取された変異したウイルスのことをisolate(アイソレート)といいますが、ややこしいことにisolateを“株”と訳すことがあるのです。これが日本での“変異株”いう呼び方につながっているのかもしれません。

専門家の間では、新型コロナウイルスの変異について“変異体”と呼称することが多いです。あるいは現段階では、“変異ウイルス”と表現するとよいかもしれません。

ニュースなどで変異ウイルスについてたびたび報道され、何か特別なことが起こっていると感じる方も多いかもしれません。しかし実際、ウイルスの変異というのは流行が続いていれば“常に起こっている”のです。新型コロナウイルスがヒトの細胞にエントリーすると増殖が始まり、その過程でエラーが起こることがあります。このように1人の体内にいくつかの変異ウイルスが存在することを“quasispecies(準種)”と呼びます。そして、この準種は意外と容易に起こります。

つまり、ことさら注目していないだけで世界中にはもう何万種類の変異ウイルスが存在すると考えられるのです。多数の変異ウイルスが発生しているなかで、特に性質や振る舞いが変わった変異ウイルスに人々が注目した結果、監視・対策・研究の対象となっている、ということです。ウイルスが変異することそのものは珍しいことではないので、変異という現象そのものについて過度に騒ぐ必要はないでしょう。

では、どのような変異が起こると問題になりえるのか。それは主に▽伝播性(でんぱせい)の上昇▽病毒性の上昇▽ワクチン逃避、薬剤の耐性の獲得――の3つです。

ウイルスの性質

伝播性(でんぱせい)の上昇とは、人から人へ伝播(でんぱ)(感染)しやすいこと、すなわち感染がひろがりやすくなることを指します。伝播性(でんぱせい)のことを“感染力”と呼んでいるメディアを見かけますが、これは間違いです。感染力というのはウイルスが細胞に入りやすくなること、新型コロナウイルスでいうとスパイクタンパク質がACE2に付着しやすくなることなどを意味しているともとらえられますので、ここは厳密に言葉を分けたほうがよいですね。病毒性の上昇というのは、そのウイルスに感染したときの重症化率・致死率が上がることを指します。そしてワクチン逃避、薬剤の耐性の獲得とは、ワクチンや薬が効きにくくなったり、効かなくなったりすることです。

以下のグラフは“nextstrain”というウェブサイトで公開されている新型コロナウイルスの変異の系統樹です。大きく枝分かれしたところから先を“系統”いいます。小さな丸は全て変異体で、どのように系統が分かれたのかを時間経過とともに示しています。

報告されてデータベースに載っているだけでもこれだけの変異ウイルスが分かっているわけですから、実際にはより多くの変異ウイルスが存在することが容易に想像できます。

次に、新型コロナウイルスが変異する頻度・速度を見てみましょう。以下は縦軸がウイルスの変異数、横軸が時間経過になっています。この傾きを求めると、1年におよそ21.2か所(1か月におよそ1.8か所)変異していることが分かります。つまり、1か月に2回弱は新型コロナウイルスの変異が起こっている、ということです。

変異の頻度/速度
※グラフ提供元:https://nextstrain.org/ (Phylogeny of SARS-like betacoronaviruses including novel coronavirus SARS-CoV-2. Built with blab/sars-like-cov. Maintained by Trevor Bedford and Emma Hodcroft.)

それでは、変異の速度はどうでしょう。同じRNAウイルスの中で、新型コロナウイルスの変異は極めて遅いことが知られています。というのも、新型コロナウイルスはRNAの中に“校正機能”を持つ酵素を持っており、RNAがコピーされる際のエラーを起こりにくくしているからです。

次のページでは、変異ウイルスに現行のワクチンが効くのかについてお話を伺います。

  • 米国国立研究機関 博士研究員

    日本病理学会 病理専門医

    峰 宗太郎 先生

    日本病理学会 病理専門医。病理医としての専門は血液腫瘍と感染症。
    基礎研究者としてはウイルス学と免疫学を専門としており、特に、EBウイルスによって生じる病気の研究を行っている。

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