新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは、中国湖北省武漢市より全世界に広がったウイルスによる感染症です。2020年3月11日には、WHO(世界保健機関)よりパンデミック宣言が出されており、現在ヨーロッパ、アメリカなど各地で感染が広がっています。日本でも感染経路の分からない感染者が報告されるなど、今後さらに感染が広がることが懸念されています。
重症化すれば命を落とすこともある新型コロナウイルス感染症ですが、妊婦や胎児にはどのような影響をもたらすのでしょうか。今回は、新型コロナウイルス感染症が妊婦・胎児へ与える影響について、日本産婦人科学会 理事長の木村 正先生に伺いました。(※本記事は2020年4月10日時点の医師個人の知見に基づくものです。)
今のところ、妊婦がコロナウイルスにかかりやすい、という報告はなく、妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、妊娠していない人と比較して重症化するリスクが高まるという報告もありません。(2020年4月時点)。
ただし、妊娠中はさまざまな原因による肺炎にかかると重症化しやすいことが分かっています。これは、妊娠によってお腹にある横隔膜が持ち上がり、肺の中の換気がしにくくなること、妊婦が妊娠していない人と比較してうっ血しやすいことなどが原因です。
また現段階では、新型コロナウイルス感染症による形態異常・流産・死産など胎児への影響は報告されていません。ただし、母親が新型コロナウイルスに感染すると、子宮内感染(子宮内にいる胎児が母親の感染したウイルスに感染すること)が生じることも、ごくまれに報告されています。子宮内感染を起こした場合でも、今のところは胎児の命に別状がないケースが一般的ですが、母親が肺炎を起こし早産となったケースでは胎児も子宮内感染をしており、重篤な肺炎や敗血症があったという一例報告がありました。
妊婦が新型コロナウイルスに感染しても、今分かっている限りでは症状や経過に違いはありません。
症状のある人では、発熱や体のだるさ(倦怠感)などの症状が4日以上継続します。そのまま快方に向かっていく人のほうが多いようですが、なかには重症化し肺炎を起こす人もいます。
なお、新型コロナウイルスに感染しても無症状の人(不顕性感染者)もいます。
職場まで電車で通勤している人などは、勤務先と相談してテレワークや時差通勤などを検討しましょう。通勤が必要な場合には、なるべく人混みを避ける工夫をし、体調が悪いと感じたときは無理をせず休むようにしてください。
通勤・健診などの外出時は、手洗い、マスク着用などの感染症対策を徹底し、手洗いは帰宅時だけでなく、トイレに入った後や食事の前、電車の吊り革・手すりに触れた後など、こまめに行うことが有効です。
手洗いのできない環境では、アルコールによる手指の消毒を推奨しています。また、マスクの着用は自身の感染予防にはならないという意見もありますが、現状では着用して外出することが望ましいです。
妊婦健診に関しては、妊婦本人やそのご家族が新型コロナウイルスに感染した恐れがある場合、受診の延期を検討します。かかりつけの産婦人科にその旨を相談し、延期した場合には自宅でお過ごしください。
自宅待機中は、血圧測定・記録をしておくと役に立ちます。どれぐらいの血圧になったら連絡・受診するかなど、あらかじめ担当医と打ち合わせてください。不正出血やお腹の痛みなど妊娠に関して気になる症状がある場合には、新型コロナウイルスに感染している可能性があっても受診が必要です。まず、電話で状況を説明してください。かかりつけの産婦人科では対応できない場合には帰国者・接触者相談センターへ相談し、指示を仰いでください。
基本的な予防対策は妊婦でもそうでない人でも同じで、流水とせっけんを使用した手洗いが非常に大切です。手洗いには流水を使用し、20秒以上かけて手首まで洗いましょう。また、1・密閉空間、2・密集場所、3・密接場面という三つの“密”が同時に重なるような場所を控えてください。これは妊婦に限らず、全ての人に共通することです。
これらは新型コロナウイルスが流行していなくても、ほかの感染症を予防する意味合いで妊娠中の方には特に徹底していただきたいことです。
前述の通り、マスクの着用による自身の感染予防への有効性は議論があるところです。しかし、マスクをすることによって手で鼻や口を触る頻度が減る、他人の唾液などの水滴で汚染されない、などという意味でリスクを下げているという考え方もあるため、なるべく着用してください。
なお、マスクを着用する場合には、鼻や口をしっかり覆う正しい装着方法をし、使用済みのマスクは紐部分を持って外した後、なるべく触れないようにして処分してください。
また、喫煙は新型コロナウイルス感染症を重症化させる可能性があるといわれています。妊婦本人の禁煙はもちろん、受動喫煙を避けるため、ご家族や周囲の人にも配慮してもらい、家庭内や周囲の人に発熱・咳などの症状がある場合は極力接触を避けるようにしましょう。
4月7日に非常事態宣言が出されていますが、急に里帰りを決められても出産できる場所がないことも多く、かえって移動も含めたリスクが高くなってしまいます。一般の方同様、移動はなるべく避けていただくようお願いいたします。
厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症対策について以下リーフレットを公表しています。併せてご参照ください。
妊婦の場合、37.5℃以上の発熱や体のだるさが2日以上続く場合には、帰国者・接触者相談センターに相談してください。帰国者・接触者相談センターでは、相談者の体調や住まい、状況に応じて、指定の医療機関の受診など指示を行います。
妊婦が新型コロナウイルス感染症にかかった場合、産婦人科・呼吸器科・感染症科の医師が協力して治療を行います。
受診の際は処方された薬は飲むなど、医師の指示にしたがってください。新型コロナウイルス感染症には現段階で特効薬はありませんが、場合によってはHIVの薬や吸入ステロイドが有効なことがあります。ただし、これらの薬には副作用や妊娠中の方への投与制限があるため、妊婦への投与は慎重に検討されます。
妊婦は高熱が続くと早産になりやすいという特徴があるため、必要に応じて解熱剤などが処方されることもあります。これは新型コロナウイルス感染症だけでなく、インフルエンザや細菌性の肺炎、腎盂腎炎による発熱でも同じことです。
ただし、イブプロフェンなど一部の解熱剤にはコロナウイルス感染症を重症化させる可能性があるため、アセトアミノフェンなどの解熱剤が望ましいといわれています。
妊婦自身が新型コロナウイルス感染症にかかっている場合、感染症への対応が可能な医療機関での出産が行われます。医師や看護師などの医療スタッフは、ガウン・アイガード・マスクを着用して診療にあたり、妊婦や胎児の状態によっては出産時に帝王切開が選択されることがあります。
また、入院中は院内のほかの患者への感染を防ぐため、陣痛室・分娩室・病室は全てトイレ付きの個室となり、部屋の外に自由に出ることはできません。なお、母親と新生児が共に新型コロナウイルス陰性となるまで、新生児との面会・授乳などもできません。
現在、産婦人科では院内における新型コロナウイルス感染防止のため、感染の有無にかかわらず、家族の立会分娩・面会などを控えるようにしています。具体的な措置は医療機関によって異なるため、詳しくはかかりつけの産婦人科の指示にしたがってください。
また、退院後は母親・新生児共に感染症予防を習慣として行ってください。退院後、日常生活に戻ると家族など周囲の人との交流が増えるほか、外出の必要性も出てくるため、入院中より感染リスクが高まる恐れもあります。周囲の人にも協力を求め、母子共に感染しないよう心掛けることが重要です。
近い将来妊娠を希望している方の中には、新型コロナウイルス感染症が妊娠にもたらす影響について懸念している人も多いでしょう。前述の通り、今のところ妊婦だから新型コロナウイルス感染症は重症化しやすいという報告はなく、妊婦が新型コロナウイルス感染症にかかったとしても、胎児の形態異常や死産・流産をもたらすという報告はありません(2020年4月時点)。
ただし、妊婦は肺炎になると重症化しやすく、高熱が続けば早産のリスクが高まることから、ほかの感染症と同様に、妊娠をした場合には感染症の予防を意識してください。
前述の通り、妊婦は肺炎が重症化しやすいため、新型コロナウイルス感染症に限らず、あらゆる感染症にかからないように日頃から予防を心掛ける必要があります。不要な外出を避けるとともに外出時は人混みを避け、手洗いやマスクの着用などを徹底してください。ウイルスへの抵抗力を高めるため、質のよい睡眠・バランスのよい食事などを心掛けることも効果的です。ただし、現段階では新型コロナウイルス感染症は妊婦だから重症化しやすいという報告はなく、胎児の形態異常や死産・流産などをもたらすという報告もないため、感染が疑われても過度に不安にならないで焦らず冷静に対応していただきたいと思います。
また、妊婦の感染を予防するためには周囲の人のサポートも必要です。ご家族も手洗いなどの感染予防を行い、発熱・体のだるさなどの症状を感じたら妊婦との接触を避けましょう。喫煙は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高めるといわれているため、周囲の人も禁煙を心掛けるか、あるいは副流煙を妊婦に吸わせないような配慮をお願いします。
日本産婦人科感染症学会では、妊娠中の方や妊娠を希望している方向けに新型コロナウイルス感染症に関するお知らせを掲載しています。妊娠中、新型コロナウイルス感染症に関して不安なことや知りたいことがある場合は、以下のURLをご覧ください。
また同学会では、医療従事者向けにも以下のようなガイドラインを作成・公開しています。医療従事者の方は以下URLを参照ください。
なお、これらの情報は適宜更新されますので、最新の内容に関しましては以下URLをご覧ください。
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