新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、日本生殖医学会は2020年4月1日、不妊治療の一時延期を推奨する声明を発表しました。同年の5月18日には再開を考慮する新たな声明が出されたものの、今後、新型コロナウイルス感染症は不妊治療に対してどのような影響を及ぼすと考えられているのでしょうか。
今回は、2020年6月現在における不妊治療の状況や、妊娠時の新型コロナウイルスへの感染リスク、病院の取り組みについて、恵愛生殖医療医院の院長である林 博先生に伺いました。
日本生殖医学会は2020年4月1日、妊娠につながるような不妊治療(人工授精、体外受精・胚移植、生殖外科手術など)に関して、延期が可能な場合には延期を推奨するという声明を出しました。
その後、政府による新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が解除され、今後は感染防止と社会経済活動の両立が求められるという情勢から、日本生殖医学会は2020年5月18日、不妊治療の再開を考慮する必要性を提言しました。
日本生殖医学会の認定研究施設に指定されている当院は、同会の声明に従って、一部の患者さんに対し人工授精や体外受精などの延期を推奨することを判断しました。
しかし、高年齢の方や、卵巣機能が低下している方にとって、不妊治療は“時間との戦い”です。不妊治療を延期した場合、妊娠できたはずの方ができなくなってしまう可能性を考えて、患者さん一人ひとりの状況に応じて不妊治療を進めたケースもありました。
特に不妊治療のプロセスの中でも、直接的に妊娠につながらないものは適宜実施していました。具体的には、体外受精における採卵(卵子を卵巣から採取すること)、卵子凍結(将来の妊娠に備えて卵子を保存すること)などについては、感染対策を徹底したうえで継続して行いました。2020年6月現在は、当院でも不妊治療を全面的に再開しています。
新型コロナウイルス感染による赤ちゃんへの影響はほとんどみられないと報告されています。流産のリスクや、生まれつきの障害のリスクが高くなったという報告もありません。しかし、新型のウイルスなので感染報告例が少なく、赤ちゃんへの感染の影響についてはよく分かっていない部分も多いことが現状です。
日本生殖医学会は、2020年4月1日に発表した声明文の中で、不妊治療の延期を推奨した理由として主に次のようなことを挙げています。
妊娠中は新型コロナウイルス感染症の症状が重症化しやすい可能性が指摘されています。大きくなったお腹が肺を圧迫するなど、妊娠中には特有の体の変化がみられ、呼吸器疾患や感染症が悪化するケースがあるためです。
重症化の可能性については、新型コロナウイルス感染症に限らず、インフルエンザや肺炎でも同じことがいえます。妊娠中は、しっかりと感染対策を行うことが大切です。
新型コロナウイルス感染症の治療薬候補として挙げられている抗インフルエンザウイルス剤には、催奇形性といって、妊娠中の女性が服用したとき胎児に形成異常が起こる危険性があることが分かっています。妊娠または妊娠している可能性がある女性には禁忌(投与できない)のため、妊娠中は新型コロナウイルス感染症の治療が制限されることが考えられます。
当院は、最先端の技術をできるだけ早く取り入れるよう努めることを病院方針としており、今後は新たにオンライン診療の導入を検討しています。
初診時のカウンセリングや相談、通院患者さんの卵子凍結保存に関する結果のご報告、妊娠された方の卵子凍結の更新手続きなどは、オンライン診療に置き換えることができると考えています。患者さんの来院の負担を少しでも減らせるよう、システムの構築に引き続き取り組んでいきます。
不妊症の検査の中でも、目で見たり触ったりして行う内診や、機器を腟内に挿入して行う経腟超音波検査は、直接来院して行う必要があります。これらの検査をオンライン診療に置き換えることは難しいと考えています。
しかし将来的に、お腹に機械を当てるだけで卵子や卵巣の状態を調べる検査や、自宅に居ながらわずか一滴の血液で女性ホルモンの数値を測定できる検査など、新たな検査方法が登場すれば、患者さんの負担を減らすことにつながるでしょう。新型コロナウイルス感染拡大が心配される今こそ、研究開発が進むことを期待しています。
当院では、オンラインによる無料の不妊治療セミナーを開催しています。不妊治療を検討中の方や、“もしかして不妊症かもしれないな”と少し不安に思われている方などを対象としたセミナーです。
新型コロナウイルス感染拡大により外出自粛が要請された2020年5月頃に、自粛期間中でもオンラインでご相談に応じられればという思いから企画したものですが、今後も継続して行っていく予定です。
本セミナーの主な講演内容は次のとおりです。
- 不妊症ってどういうこと?
- 不妊症の原因はなんだろう?
- どんな検査をするの?
- 不妊治療をはじめるには?
- どんな治療をするの?
- お金はどれくらいかかる?
- 体外受精ってなに?
【恵愛生殖医療医院WEBサイトより】
そのほか、妊娠に適した年齢のことについてもお話しする予定です。女性は年齢を重ねると妊娠する力が下がっていきます。新型コロナウイルスへの感染が心配な時期とはいえ、感染拡大の影響が完全に落ち着くまで待っていたら妊娠が難しくなることも考えられるため、特にしっかりとお伝えしたいと思っています。
2020年6月現在、不妊治療の再開を不安に思われている方や、まだ不妊治療を自粛されている方もいらっしゃるかと思いますが、皆さんが安心して不妊治療に取り組めるようサポートできればと思います。
当院で体外受精治療を受ける場合、まずは無料の体外受精セミナーを受講していただいています(治療経験がある方など、体外受精治療を十分理解されている場合には、必ずしも必要ではありません)。
体外受精とは、体外に卵子を取り出して受精させ、 受精卵を子宮に戻す方法です。一定の安全性が確立された治療法といわれていますが、卵巣の腫れ、出血、感染症などのリスクがあることや、自由診療で費用が高額になること(標準的な費用は30~60万円)、治療の進め方など、治療を始める前にご確認をお願いしたい事項がいくつかあるため、セミナーで詳しくお伝えしています。
2020年6月現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、対面での講義形式による開催を中止しています。体外受精セミナー動画を作成しましたので、ご自宅でご視聴ください。
“不妊治療の専門医院”というとハードルが高く感じられて、受診をためらっている方も多いのではないでしょうか。しかし、不妊治療を早く始めることができれば、妊娠可能な方は多くいらっしゃいます。そのような方々の一助となるべく、不妊治療オンラインセミナーを企画しました。妊娠や不妊治療についての正確な情報を、できるだけ参加者の負担にならない形で届けたいと思っていますので、ぜひご参加ください。
恵愛生殖医療医院 院長
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本産科婦人科学会認定 内視鏡技術認定医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
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