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新型コロナウイルス感染症の流行に伴う精神状態への影響とは〜不安や恐怖を持つことは正常な心理反応〜

新型コロナウイルス感染症の流行に伴う精神状態への影響とは〜不安や恐怖を持つことは正常な心理反応〜
明智 龍男 先生

名古屋市立大学病院 こころの医療センター センター長、 名古屋市立大学病院 緩和ケアセンター ...

明智 龍男 先生

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは、2019年12月に中国・湖北省武漢市で報告されて以来、全世界で感染が拡大している感染症です。

感染拡大を防ぐため、全世界でさまざまな策が講じられており、日本でも2020年4月7日に緊急事態宣言が発令され外出の自粛が求められるなど、生活環境の変容が生じています。これらの環境の変化は私たちの精神面にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

今回は、新型コロナウイルス感染症の流行による精神状態への影響や精神面を整えるための対策などについて、名古屋市立大学大学院 医学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授の明智(あけち) 龍男(たつお)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年5月13日時点の医師個人の知見に基づくものです。

今回の新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、多くの人の精神に変化が生じていることと思います。特に見受けられる精神状態としては、“不安”“恐怖”“抑うつ”“怒り”が挙げられるでしょう。

四つともよく耳にする精神状態ですが、ここでは医学的な解釈に基づき、これらの状態についてご説明します。

不安や恐怖を持つことは正常な心理反応である

不安や恐怖は“恐れ”という感情からなる精神状態です。まず不安とは、医学的には“漠然とした未分化な恐れへの感情”です。私たちは今、新たなウイルスという不確実な驚異に直面し、その流行がいつ終息するのかも、これからどうなるのかも分からないという境遇に立たされています。先行きが不透明な状態では、まさに不安という精神状態に陥りやすいといえるでしょう。

次に恐怖とは、医学的には“明確な対象に対する持続的な恐れ”と言い換えることができます。新型コロナウイルス感染症という未知のウイルスを前に、自分がいつ感染してしまうか分からない、家族や周囲の人が感染するかもしれないという状態が続けば、ウイルスに対して恐怖心を抱くのは当たり前のことです。

以上のように、今の状況下で不安や恐怖を感じることは生物として正常な心理反応であるといえます。むしろ、適度に不安や恐怖を感じることは生体に危険を知らせる警報と捉えることもでき、不安や恐怖を感じるからこそ感染拡大の予防をしようという気持ちになる部分もあるでしょう。不安や恐怖がない人ほど「自分は絶対に大丈夫」だと考え予防対策を怠る傾向にあるため、不安や恐怖が少なすぎるのも問題といえます。

ただし、不安や恐怖を過度に持ちすぎても精神的・肉体的なダメージが強くなり、生活に支障が出てくることがあるため注意が必要です。

喪失からくる抑うつ状態

抑うつ(落ち込み)とは、医学的には“正常な範囲を超えた悲しみの感情”のことをいいます。抑うつは主に喪失によって生じることの多い精神状態です。

今回の新型コロナウイルス感染症の流行に関して言えば、感染症の流行に伴い仕事や収入を失ってしまった人、感染症によって身近な人を亡くしてしまった人に生じやすい精神状態といえるでしょう。特に、感染症によって身近な人を亡くした場合、入院後の面会も許されず症状が現れてから急速に亡くなることも多いほか、亡くなったあとも遺体に対面できないなど、精神的に受け入れ難い死別になりやすいため抑うつ状態になりやすいと考えられます。

不当・無念の思いからくる怒り

また、場合によっては怒りを感じることもあるでしょう。怒りはさまざまな言葉で表現できますが、分かりやすく言えば「なぜこんな思いをしなければならないのか」という不当・無念の感情といえます。

新型コロナウイルス感染症の流行によって、外出自粛を強いられている人からすれば、当たり前にできていたことができなくなったことに怒りを感じるかもしれません。また、入学式や卒業式ができなかったこと、家族や友人に会いにいけないことに怒りを感じる人もいるでしょう。さらに、医療従事者など一部の職種では、子どもが保育園に登園することを拒否されるなど、残念なことに新型コロナウイルス感染症の流行による差別を受けている人もいます。このような不当な扱いから怒りを感じることもあります。加えて、不安や恐怖の延長線として怒りを覚える人もいます。

日本ではSARSMERSがほとんど流行しなかったため、実感のない人も多いと思いますが、諸外国ではこれらの感染症により多くの人の精神状態や関係性にさまざまな変化がみられました。

未知の感染症が流行すると最初のうちは病気だけが広がっていきますが、次第に不安が広がるようになり、最終的には差別が広がります。感染症には、感染する、うつすという現象があるため、加害者・被害者という構図を生みやすく、そのためそれがもとで差別を生み、地域やネットでの誹謗中傷などが白熱します。世間で差別が広がると、感染症が疑われる症状があっても病院を受診することを避け、症状がないフリをして社会に出ていく人が増えるため、さらに感染症が広がってしまうという負の連鎖に陥ってしまうのです。

日本赤十字社では、このような感染症の負の連鎖について分かりやすく動画をまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。

【日本赤十字社】「ウイルスの次にやってくるもの」

今回の新型コロナウイルス感染症では、ウイルスの特性について明らかになっていないことが多く、ウイルスの感染に関して不透明で誰も先を見通せないことや予防を含め自分で完全にはコントロールができないことが精神に影響を与えていると考えられます。治療方法も確立されていないため、ほかの感染症と比較して不安を感じやすいといえるのではないでしょうか。

また、病気には自分で予防することが容易なものと予防しにくいものがあります。たとえば、糖尿病を予防するには食事に気をつけるなど具体的な予防方法があります。しかし、新型コロナウイルス感染症の場合、自分でできる予防方法が限られており、常にいつ誰にうつされるか分からない、誰かにうつしてしまうかもしれないという不安を抱えることになります。

さらに前述の通り、感染症にはうつす人とうつされる人による加害者・被害者関係が生じやすいため、感染者や感染者と関わる医療従事者への誹謗中傷が広がり、感染者を精神的に追い詰めたり、医療従事者が燃え尽きを感じてしまったりすることもあります。これは、東日本大震災の際の原発事故による放射線の被害に似た現象ともいえます。放射線もウイルス同様目に見えないものですが、この事故によって福島に住む人達はさまざまな誹謗中傷を受けることとなりました。対峙すべきなのはウイルスであり、放射線であるはずなのに、矛先が人に向かってしまうと差別を生むことにつながります。

主に不安や抑うつを感じると、以下のような身体症状が現れることがあります。

自分の精神状態に気づけないときでも以下のような身体症状が見られた場合、「自分は今不安な状態なのだ」「自分は今落ち込んでいるのだ」ということを認識する目安になります。また、自分の精神状態が把握できるだけでも気持ちが少し楽になることがあります。

不安による身体症状

  • 息苦しさ
  • 胸が苦しい、ドキドキする
  • 吐き気や気持ち悪さ
  • 下痢、便秘
  • めまい
  • トイレが近い
  • 肩こり、頭痛
  • ふるえ
  • 不眠

など

抑うつによる身体症状

  • 体のだるさ
  • 食欲の低下
  • 不眠
  • 集中力や思考の低下

など

抑うつによる症状は、新型コロナウイルス感染症の流行によって収入や仕事を失った人に多くみられるのではないでしょうか。

孤独が精神に及ぼす影響としては、不安・恐怖・抑うつなどの精神状態が生じやすくなることのほか、生活リズムが崩れやすくなることが挙げられます。

孤独が不安・恐怖・抑うつを招く原因としては、他者からのサポートがなくなることにより、自分の考えが感情的で偏った方向に向いてしまいがちになることなどが挙げられます。また、外からの刺激がなくなるので昼夜逆転など生活リズムが乱れ、これによってさらに精神的・肉体的な健康が害されることも懸念されます。

現在の一般的な不安や恐怖から精神疾患にかかってしまうという人はまれだと考えます。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって収入や仕事を失った人や家族など周囲の人を失った人に対しては注意が必要です。これらの人は喪失感も強く、今後の生活が立ち行かなくなる恐れもあるからです。

もしこの先、感染症対策がうまくいかなくなって緊急事態宣言が長期化したり、医療崩壊などが起きたりすれば、収入・仕事を失う人、家族や周囲の人を失う人はさらに増えてしまうことでしょう。このようなことを防ぐためにも、国民全員が感染症予防対策をしっかり行い、感染拡大を防ぐことが肝要です。同時にさまざまな困難を抱えておられる人々への生活の支援や経済状態の立て直しもとても重要です。

新型コロナウイルス感染症の流行に際し、精神面で影響を受けやすい人としては、もともと繊細な人のほか、新型コロナウイルス感染症にかかった場合に影響の大きい人が挙げられます。

もともと繊細な人は外的な刺激に対しても反応しやすく、ストレスをためると精神面に影響が及びやすいという側面があります。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、さまざまな環境の変化が生じているため、以前よりストレスが増えたという人も少なくないでしょう。

また、新型コロナウイルス感染症にかかった場合に影響が大きい人とは、主に高齢者・基礎疾患を持つ人など、重症化リスクが高いといわれている人たちです。これらの人たちは感染しないように常に細心の注意を払っているほか、感染した場合に命を落とす危険も高いため、不安が強く精神的にも疲弊しやすいといえるでしょう。

また、感染拡大がみられる都市部に住んでいる人も警戒態勢が続いているため、精神面に影響が生じやすいのではないでしょうか。

第一に、新型コロナウイルス感染症に関する情報との付き合い方を工夫していただきたいと思います。具体的には、正しい情報を得ることと、受ける情報の量を適度にすることを意識しましょう。全く情報を知らないことも問題なのですが、過度に情報に触れることも精神面へ影響を及ぼします。一日中テレビやSNSを見ている人は、1日2〜3時間で構わないので、メディアに触れない、新型コロナウイルス感染症について考えなくてよい時間を作ってください。

そのほかの注意点としては、一般的なことですが健康的な生活を送ることです。生活リズムを乱さず食事や睡眠を十分に取り、適度な運動をしましょう。また、過度な飲酒は睡眠の質を下げるほか、感情を不安定にさせるため控えましょう。ストレッチや入浴など自分がリラックスできることを見つけ、意識的に取り入れることも大切です。

さらに、外出の自粛に伴い人と関わる回数が激減している人は、テレビ電話やSNSなどを利用して意識的に人と関わることもよいでしょう。不安な気持ちを人に話すことで、心が少し楽になることもあります。できる限り声を聞くことができ、顔を見ることができる通信手段がよいでしょう。

必要以上に情報を見ないことは不安解消に大きな効果があります。意識的に情報を遠ざけ、新型コロナウイルス感染症について考えない時間をつくるようにしましょう。

また、残念ながら現在はワイドショーやインターネット上で誤った情報が流れることもあります。全てを鵜呑みにせず、冷静に対処することも大切です。

新型コロナウイルス感染症の流行により、ほとんどの人が何らかの不安を感じていると思いますが、同じ家族であっても感じ方は人それぞれです。そのため、お互いをいたわりあって接する気持ちを忘れないようにしましょう。

また、ずっと同じ空間にいると、いくら家族でもストレスを生じることがあります。意識的に自分の時間をつくるなど、距離を取る時間を作りましょう。

今だからできることを率先して行っていただきたいと思います。先程、外出自粛などによって孤独になりやすいという話がありましたが、ひとりの時間が十分にあるということは、誰にもじゃまされない贅沢な時間を得られるというポジティブな面もあります。

たとえば、読書や映画鑑賞、めったに会えない人とのオンライン通話など、いつもなら忙しくてできなかったことに時間を使ってみてはいかがでしょうか。このような刺激は、精神面の改善にもよい影響をもたらすでしょう。

食べられない・眠れないといった症状が続いた場合、あるいは不安や恐怖から日常の生活に支障が出てしまうという状態に陥った場合には、心療内科や精神科の受診を検討しましょう。今まで心療内科や精神科を受診したことがない人でも、上で述べたような症状が長く続く場合には、1人で悩まず病院を受診していただきたいと思います。

今、私達が対峙すべきものは感染した人ではなくウイルスです。不安や恐怖から気持ちが乱れると、対峙するものがウイルスではなく他人にすり替わってしまうことがあります。他人を攻撃するようになると差別に発展し、さらなる感染症の拡大を招くこともあります。

自分たちが対峙しているものは何なのかを理解し、私たち一人ひとりが自分にできることを考え、責任のある行動を取ることができると、その力はとても大きなものになるのではないでしょうか。

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  • 名古屋市立大学大学院学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授、名古屋市立大学病院 副病院長、名古屋市立大学病院 ・こころの医療センターセンター長、名古屋市立大学病院 ・緩和ケアセンターセンター長

    明智 龍男 先生

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  • 名古屋市立大学大学院学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授、名古屋市立大学病院 副病院長、名古屋市立大学病院 ・こころの医療センターセンター長、名古屋市立大学病院 ・緩和ケアセンターセンター長

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