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新型コロナウイルス感染症の治療法~重症度別の治療法や治療薬の研究・開発状況を解説~

新型コロナウイルス感染症の治療法~重症度別の治療法や治療薬の研究・開発状況を解説~
谷口 俊文 先生

千葉大学医学部附属病院 感染制御部・感染症内科 准教授

谷口 俊文 先生

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年01月28日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症にかかった場合、どのような治療が行われるのでしょうか。現在の医療体制や重症度別の治療法、自宅療養時の注意点、最新の研究・開発情報など、CoV-Navi(こびナビ) 幹事、千葉大学医学部附属病院 感染症内科 講師の谷口 俊文(たにぐち としぶみ)先生にお話を伺いました。

オミクロン変異体の感染拡大を受けて、日本は第6波に突入しました。感染者の急増に伴い、各自治体はコロナ診療のための病床の確保に動きました。

しかしながら第5波と比較して、オミクロン変異体で肺炎が重症となる患者さんが少ないこと、すでに日本では国民の8割ほどがワクチン接種を終えていることなどから、病床が埋まっている状況ではありません。その代わり、自宅療養者が急増しています。第6波は20歳代の若年者から感染拡大しましたが、高齢者や子どもに感染者がシフトしていくと重症者がそれなりに出てくる見込みです。

軽症の場合は基本的に対症療法を行います。ただし、高齢者や基礎疾患がある方は、発症から7日以内であれば中和抗体による治療を受けられる場合があります。

そのためまず、オミクロン変異体に有効な中和抗体であるソトロビマブを使用できるか検討しますが、これは点滴静脈注射薬です。入手可能で環境が整っていれば、発熱外来で投与するか、病院に入院して投与することができます。

まずは中和抗体や抗ウイルス薬の投与を考える

ウイルス薬のレムデシビルは重症化リスクのある軽症患者さんに対しても、重症の肺炎を予防する効果があります。現在適応は中等症以上になっていますので、軽症患者さんに使用する際には適応外使用となります。レムデシビルは点滴静脈注射薬なので、主に使用できるのは入院できる患者さんとなり、自宅や宿泊施設で療養している方には使いづらいというのが現状です。

将来的にはレムデシビルと同じくらい有効性が認められている経口抗ウイルス薬であるニルマトレルビル/リトナビルが承認されますので、使用できるようになったら重症化リスクのある軽症患者さんにも幅広く使われるだろうと思っています。

日本ですでに承認されて使用できる経口抗ウイルス薬の“モルヌピラビル”は、ニルマトレルビル/リトナビル(未承認)、ソトロビマブ、レムデシビルが使用できない場合に使用するという位置付けです。日本の現状を考えると、重症化リスクがあるが軽症のため自宅療養となり、中和抗体の投与を受けられない患者さんに対して処方されることが想定されます。

基本的には肺炎がある状態が中等症に分類されます。厚生労働省のガイドラインでは、酸素が不要な患者さんを中等症I、酸素投与が必要な患者さんを中等症IIとしています。

まずは抗ウイルス薬を使う

中等症I、IIどちらも最初に抗ウイルス薬(レムデシビル)を使うことが原則です。また患者さんを診ていると、抗ウイルス薬を使うのが早ければ早いほど回復も早くなる印象です。

第5波の時は患者さんが多く、発症して時間が経ってから病院にいらっしゃる方が多かったので、抗ウイルス薬だけでは治療できないこともありました。

抗ウイルス薬を使った後、さらに酸素を必要とする患者さんに関しては、免疫抑制薬であるステロイド(デキサメタゾン)を使います。

ただし、患者さんの体の中でウイルスが増幅している時にステロイドを使ってしまうと、ウイルスが暴走し、より重症の肺炎になってしまいます。そのため、使用するタイミングの見極めが重要です。ある程度肺炎が進行してしまうと抗ウイルス薬の効果が限定的となってしまいますので、ステロイドを同時に始めることが多いです。

また新型コロナウイルス感染症は血栓ができやすいので、酸素の投与が必要な患者さんに対してヘパリンという抗凝固薬を使用することがあります。

たくさんの酸素(高流量酸素)を必要としている患者さんや、人工呼吸器、人工心肺装置(ECMO)が必要な患者さんに対しては、抗ウイルス薬(レムデシビル)とステロイド薬(デキサメタゾン)に加えて、IL-6受容体拮抗薬*(トシリズマブ)、JAK阻害剤**(バリシチニブ)も併用します。

*IL-6受容体拮抗薬:IL-6受容体を阻害して炎症を抑える薬。新型コロナウイルスに感染するとIL-6が放出され、IL-6受容体と結びつくことで炎症によるさまざまな症状を引き起こす。

**JAK阻害剤:細胞の中にあるJAK(酵素)のはたらきを抑えて炎症などを防ぐ薬。

感染症法に基づき、新型コロナウイルス感染症を発症した方は基本的に全員入院する必要がありました。2020年の10月からは入院勧告・措置の対象者が限定されることになり、症状が中等度あるいは重度の方、または重症化のリスクが高い方となりました。しかし、感染拡大に伴ってベッドが足りなくなり、病状に応じて宿泊療養施設への入所や自宅療養も行われるようになったというのが実情です。また新しい変異体による流行が始まった時には、その特徴が分かるまで全例入院することになります。

感染拡大した状況下では、肺炎が進み酸素濃度が93%以下というのが入院の1つの目安になるのではないかと思います。もちろんこの基準に当てはまらなくても、医師や保健所が必要と判断した場合には入院の適応になると思います。

ただし、今後の感染状況などに応じて、入院の基準は今後も変わっていく可能性があるでしょう。

新型コロナウイルス感染症に有効な経口薬はまだ販売されていないので、熱が出ていれば熱さましの薬(アセトアミノフェンやロキソプロフェン)、咳が出ていれば咳を鎮める薬などで対症療法をしていくことになります。

モルヌピラビルの処方を受けた場合、催奇形性があるので女性は少なくとも最終投与から4日間の避妊が必要です。

ステロイド(デキサメタゾン)も処方されることがありますが、使用のタイミングには注意が必要です。体の酸素濃度が低下していないのに飲んでしまうと、肺炎が悪化してしまうことがあるためです。熱が続いてつらいというだけで服用するべきではない薬ですので、必ず医師の指示に従うようにしてください。

重症化の目安になるのが血液中の酸素濃度です。実は酸素濃度が低下しても息苦しさを感じないことも多くありますので、パルスオキシメーターでの計測が重要です。自宅療養でパルスオキシメーターが配られている場合、酸素の濃度が93%以下くらいに低下したら、保健所などの担当者にすぐに連絡をしましょう。

また酸素濃度が低下したときは、チアノーゼといって唇などの粘膜が青紫色や青白くなることがあります。見た目が変わってきたり、元気がなくなってきたり、食欲が低下したりした場合も注意が必要です。

また、新型コロナウイルス感染症のよくある症状の1つに下痢があります。下痢による脱水や食欲低下から低栄養になってしまうこともあるので、水分や食事が取れない場合は入院が必要になることもあります。

家族の方はワクチンを接種しているかどうかにかかわらず、患者さんとなるべく生活空間を分けましょう。洗面や浴室、トイレなどの共用スペースは換気をよくして、小まめな消毒を心がける必要があります。食器はなるべく分けて、別々に食事を取ったり、会話をする時はお互いが不織布マスクを付けたりするなどの工夫も必要です。

また、コロナウイルスは洗濯用の洗剤で死滅しますので、衣類などは通常どおり洗濯すれば問題ありません。ただし、洗濯前の寝具や衣類を触る場合はできれば手袋やマスクを着用する、できない場合は触った後はせっけんで手洗いをし、アルコール消毒を徹底していただければと思います。

新型コロナウイルスに感染すると、肺炎の後遺症が残る、血栓ができやすくなって脳梗塞(のうこうそく)心筋梗塞のリスクが上がる、心筋炎のリスクが上がる、集中できなくて霧がかかったような感じになる、脱毛や味覚嗅覚異常が続くといった後遺症が残ることがあります。

新型コロナウイルスはいろいろな臓器に影響を及ぼすということが分かっているので、回復してもすぐに激しい運動をすることは避けましょう。もし何かしらの症状が続いたり、新たに胸の痛みや息切れなどの症状が現れたりした場合は、すぐに医療機関を受診してください。

また、1度感染して免疫ができても、ウイルスが変異すれば再び感染することがあります。新型コロナワクチンは、多少の変異が起こっても対抗できる抗体が作れるようになっているので、感染後であってもワクチンを打ったほうがよいと思います。

ファイザー社の経口抗ウイルス薬であるニルマトレルビル/リトナビルは臨床試験で入院や死亡のリスクを89%減らすと報告され、米国で承認されており、日本でも承認申請を行っている状況です。

ただ現段階では、上述の抗ウイルス薬単独で軽症の方から重症の方まで全ての患者さんが劇的に回復することはないと考えています。たとえば、抗ウイルス薬は全般的に、症状が進んだ入院患者さんには効果が薄いことが分かっています。

経口抗ウイルス薬の使用と併せて、ワクチンで予防を進めたり、中和抗体と組み合わせた治療を行ったりすることで、重症の肺炎に至るケースを減らせるのではないかと期待されています。

現在日本ではmRNAワクチン、アデノウイルスベクターワクチンが使われていますが、ノババックス社が新たに組換えタンパクワクチンを開発しています。

アメリカでもまだ承認されていませんが、大規模な臨床試験を全て終えていて、極めて有効性が高く安全性も優れているといわれています。冷蔵保存が可能で取り扱いやすく、接種もしやすくなるため、接種の面でいろいろと変わっていくと考えています。

米国では、ワクチンの接種ができない患者さんのために中和抗体であるチキサゲビマブとシルガビマブの投与が承認されています。中等度から重度の免疫不全状態にあり、新型コロナワクチン接種に対する免疫反応が不十分な可能性がある方、または新型コロナワクチンまたはその成分に重篤な副作用の既往歴があるため、入手可能な新型コロナワクチンを十分に接種できない方が対象です。

ノバルティス社は単回静脈注射薬(エンソビベプ:ensovibep)を開発中です。これはdesigned ankyrin repeat proteinといって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインを高活性かつ協調的に結合してブロックして抗ウイルス活性を示します。主要評価項目である8日間のウイルス量減少を達成、副次評価項目である新型コロナウイルス関連入院、救急受診、死亡リスクはプラセボと比較して78%減少した臨床試験の結果が報告されています。

点滴で使用している抗ウイルス薬(レムデシビル)の吸入薬の開発も進んでいます。将来的には、曝露後(体内にウイルスが入った後)の発症予防や、感染リスクの高い場所に行く前の予防として使えるようになるかもしれません。

新型コロナウイルスの感染経路は、変異ウイルスでも大きく変わりません。そのため、マスクの着用は大変有用な予防方法になると思います。

第5波が収まった理由がまだ明確に分かっていないので、ワクチン接種によって感染拡大がどれぐらい制御できるか、今後の動向を見る必要があります。そのため、ワクチン接種をしても引き続きマスク着用を心がけていただければと思います。

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