「EBM」や「エビデンス」という言葉を耳にしたことのある方は多いのではないでしょうか。医療では非常に重要な意味を持つ言葉ですが、医療の進歩とともに誤った解釈がなされてしまっているという問題もあります。これらの言葉はどのように解釈すればよいのか、EBMに関する著書を執筆された千葉大学医学部附属病院 感染症内科 助教の谷口俊文先生にご自身のご経験もふまえてご説明頂きました。
私がEBMを意識したきっかけは、自らが行っている治療は根拠に基づいた治療であるのか、標準的な治療であるのかという疑問を研修医のときに持ったことです。当時は、その治療が根拠に基づいているのか否かを評価する術も知りませんでした。
このような疑問を解決するため、2001年に名郷直樹先生のEBMセミナーに参加し、EBMの5つのステップを学びました。
ステップ1 |
臨床的疑問の定式化(患者さんの問題を明確化) |
ステップ2 |
情報収集 |
ステップ3 |
情報に対する批判的吟味 |
ステップ4 |
情報の患者への適用 |
ステップ5 |
ステップ1〜4の評価 |
このように、臨床的な疑問(日々の診療で出てくる疑問)を持ったときは自ら論文を調べ、その論文自体が根拠になりうるものか、信頼できるかを検討することが大切です。その後、論文に記載されているような治療法が患者さんに適用できるのかを検討するという手順を学び、実臨床で活かしています。
EBMとは、論文に記載されている治療法や医療情報を患者さんと共有してから治療方針を決めるまでのプロセスです。エビデンス(病気にかかった方に対して実際にある治療を行い、その効果が確かめられているという事実)は個々の患者さんに適用するためのツールです。「論文=EBM」というイメージが先行していますが、本来のEBMは目の前の患者さんに適用できるかどうかまでを検討するものです。
患者さんと治療法を話し合うとき、一例ではありますが、ある治療法の5年生存率はどの程度か、また治療を行わなければ生存率はどの程度かという伝え方をすることがあります。副作用や今後の生活への影響も説明し、患者さんとともに患者さんにとって最も良い方法を探します。画期的な治療法であっても金銭面や副作用を考えると選択されない方もいますし、治療効果が低くても副作用が少ない治療を選択される方もいます。論文の結果から、この治療法は治癒率が良いので、その方法で治療すべきだと押しつけるのはEBMではありません。
近年、「シェアード・ディシジョン・メイキング」という言葉が広がっています。これは患者さんとエビデンスを共有して一緒に治療方針を決定するというもので、EBMのステップ4〜5に値するところかと思います。このような言葉が意味するように、患者さんと共有し個々の患者さんに適用するためにエビデンスがあるのだと考えています。
エビデンスと同様のものとして、「ガイドライン(治療の指針)」があります。ガイドラインもEBMに含まれる言葉です。これも必ず遵守しなければいけないものではなく、あくまでも治療を補助してくれるものと考えると良いでしょう。患者さんには、ガイドラインに掲載されている治療であることを説明して治療方針を決めます。論文同様、ガイドラインは患者さんに説明するツールとしては非常に重要です。
千葉大学医学部附属病院 感染制御部・感染症内科 准教授
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