ライム病とは、野ネズミや小鳥が保菌している細菌がマダニを媒介して人間に感染することで引き起こされる感染症です。皮膚の発疹や発熱、倦怠感などインフルエンザのような症状から始まり、放置すると神経症状や心疾患、関節炎、筋肉炎、目の症状など、さまざまな症状が現れるようになります。ここではライム病の原因を中心に、予防法やマダニに関連するほかの病気などについても詳しく解説します。
ライム病は、スピロヘータという細菌の一種“ライム病ボレリア”による感染症です。これは人畜共通の細菌で、特に野ネズミや小鳥などが保菌しており、マダニを媒介して人に感染するとされています。また、ライム病ボレリアにもいくつかの種類があり、日本ではボレリア・ガリニ、ボレリア・ババリエンシスが主な病原体となっています。
媒介するマダニの種類も国によって異なり、日本では主にシュルツェ・マダニというマダニに刺されることで感染します。このマダニは本州、九州、四国では山間部に生息していますが、北海道と青森県の一部では市街地を除く平野部にも生息することが確認されています。欧米では年間数万人のライム病患者が発生しており、海外(主にアメリカ、ヨーロッパ)で感染して日本で診断される方もいます。一般的な家庭内にいるダニから感染することはありません。
ライム病にはワクチンが存在しないため、予防のためにはマダニに刺されないようにすることが重要です。マダニは春から初夏、秋に活動期を迎えるため、この時期はマダニが生息するやぶなどに立ち入らないように注意しましょう。
もしマダニの生息地に立ち入る場合は長袖や長ズボン、登山用スパッツ、足を完全に覆う靴、帽子、手袋を身につけるなどして、肌の露出を避けます。裾はズボンや靴に入れる、首にタオルを巻くなどすることで、さらにマダニの付着を防ぐことができます。また、衣服は白色など、マダニがついた場合でも確認しやすい明るい色を選ぶとよいでしょう。補助的ではありますが、虫よけスプレーも有効とされています。
帰宅後は早めに入浴して、マダニに刺されていないか確認をしましょう。手首や胸の下、腋、足のつけ根、膝の裏、頭部まで確認することが大切です。もしマダニに刺されていた場合、無理に引き抜くとマダニの体液が逆流して感染のリスクが高まったり、マダニが皮膚に残って化膿したりすることがあるため、皮膚科を受診し適切な処置をしてもらう必要があります。
ダニやマダニに刺されることで引き起こされる病気は、ライム病以外にもさまざまなものがあります。日本における代表的な病気は、ライム病のほかに、ツツガムシ病と日本紅斑熱の2つがあります。
ツツガムシ病は、ダニの一種であるフトゲツツガムシに刺されることで引き起こされる感染症で、日本での発症数は年間500~1,000件程度です。刺された後10日~2週間程度の潜伏期間を経て、悪寒を伴う38~40℃の発熱のほか、頭痛や筋肉痛、全身の倦怠感などの症状が現れます。さらに、発症から2~3日後に1~2cm程度の赤や紫の発疹が現れたり、目の充血、喉の赤み、肝臓や脾臓の肥大、全身のリンパ節の腫れなどが現れたりすることもあります。
また、治療が遅れた場合、肺炎や脳炎の合併、心不全などで死に至ることもあるため注意が必要です。ツツガムシは小さいため、刺された自覚がないことが一般的です。
リケッチア(細菌よりも小さい微生物)を保有するダニに刺されることで感染する感染症です。感染症法では第4類感染症(鳥インフルエンザや狂犬病と同等)に分類されており、年間200件以上の発症が報告されています。
症状としては、刺された後2~8日程度の潜伏期を経て頭痛、発熱、倦怠感、発疹などが現れることが一般的です。ツツガムシ病との区別が難しいとされていますが、体幹部よりも四肢末端部に発疹が強く現れやすく、ツツガムシ病と比べて刺し口の中心のかさぶたが小さいといった違いがあります。
ライム病はマダニに刺されることでライム病ボレリアに感染して引き起こされる感染症です。また、マダニはいろいろな病原体を保有しているともいわれています。そのため、マダニに刺されないように注意が必要です。マダニは春から秋に活動期を迎え、特に山間部に多く生息しているため、そのような時期に山間部に入る際は服装などに注意し、帰宅後はマダニに刺されていないかよく確認しましょう。万が一刺されていた場合は皮膚科を受診し、適切な処置を施してもらいましょう。
千葉大学医学部附属病院 感染制御部・感染症内科 准教授
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