インタビュー

新型コロナウイルス感染症とPCR検査

新型コロナウイルス感染症とPCR検査
大毛 宏喜 先生

広島大学病院 感染症科教授

大毛 宏喜 先生

目次
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年12月24日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

ワクチン接種が進み、感染者数の減少もみられたことで新型コロナウイルス感染症の収束への期待が高まるなか、2021年11月末にオミクロン株という新たな変異ウイルスが日本国内においても確認され、感染拡大が懸念されています。このような状況下において少しでも体調がすぐれないと、「ただのかぜなのだろか」「もしかしたら新型コロナウイルスに感染しているかもしれない」と不安になる方も多いのではないでしょうか。ですが、感染の有無をすぐに確認できる検査体制が確保されていれば、そうした不安を感じることなく安心して社会生活を送れるようになると考えられます。

今回は、広島大学病院感染症科長を務め、広島県の感染症対策に尽力してきた大毛 宏喜(おおげ ひろき)先生に新型コロナウイルス感染症の検査方法の1つであるPCR検査の重要性を中心にお話を伺いました。

新型コロナウイルス感染症においては「かかっているかもしれない」と思ったとき、すぐに検査を受けられることが重要になります。感染したかもしれないという不安を抱えている方が迅速に検査を受けられる体制が確保されていれば、感染の有無を確認できるだけでなく、感染者を早い段階で囲い込めるため感染拡大の防止にもつながるといえます。

新型コロナウイルス感染症は、治療薬の選択肢が増えて、もはや治療できない感染症ではなくなりました。ただし、抗体カクテル療法も国内での承認を目指している内服薬においても発症後早期でないと有効性が期待できません(2021年12月時点)。したがって、感染拡大防止に加えて、早期診断・早期治療という観点からも検査は重要になります。

新型コロナウイルス感染症は人の移動(人流)、特に県をまたいだ移動によって感染者が増えることが明らかになっています。各自治体はどの時期に人流が増加するかという基礎データを持っていますから、それに合わせて検査場所を増やし、検査体制を確保する対策を講じる必要があるでしょう。

検査の中でもPCR検査は精度の高い検査ですから、いつでも無料で受けられる体制の整備は非常に大切であると考えています。広島県では、県内に予約制のPCRセンターを6か所、予約不要なPCRセンターを4か所設置しています(2021年12月時点)。これらのPCRセンターでは、県内にお住まいの方や県内にお勤めの方であれば唾液を用いたPCR検査を受けたいときにいつでも検査を受けられる体制を確保しており、いずれも無料で受けることが可能です*。なお、人流の増加が予想された2021年7月30日~8月31日の期間に、県外から広島県に帰省される方向けの無料PCR検査を集中的に実施し、家庭内感染の防止対策を行いました。

*やむを得ない事情で広島県に来られた県外の方も無料PCR検査の対象になる場合があります。

無料でPCR検査を受けられる体制を整備したことによって、「かかったかもしれない」と思われるときにすぐに検査を受けられるようになりました。一方で、感染者が増えて検査ニーズが高まると、県内でできる検査のキャパシティを超えてしまう可能性があり、その課題解決が急務となっていました。

その対策の一環として、私が勤務する広島大学・広島大学病院では、各研究室にあるPCR検査の機器を使って一斉に検査ができる体制を整えました。検査数が増加する時期においても件数を処理できたのは、広島県と大学との連携(官学連携)を構築し、広島県の支援によって広島大学・広島大学病院が検査体制を拡充した成果といえるでしょう。加えて、民間の検査機関との連携を強化し、感染が拡大している時期においても検査が滞ることがないように尽力しています。

2021年12月時点では、以下の症状が当てはまる方はPCR検査を受けるべき対象と考えられます。これらの症状や条件に当てはまる方は積極的に検査を受けて、早期診断・早期治療につなげることが重要です。

  • 呼吸困難感や倦怠感、高熱などがある場合
  • 高齢の方で発熱のある場合
  • 基礎疾患(糖尿病心疾患、呼吸器疾患など)があり、発熱がある場合
  • 味覚・嗅覚障害がある場合

新型コロナウイルス感染症の問題点として、無症状の方であってもその後に肺炎にかかるケースがあることが挙げられます。新型コロナウイルス感染症は無症状であっても急に悪化してしまう恐れがある感染症ですから、今後は無症状の方の検査ニーズがさらに高まると予想されます。

2回目のワクチン接種が完了している方は、新型コロナウイルスに感染したとしても症状が分かりにくいとされています。ですから、高熱や呼吸困難感に限らず、少しでもかぜの症状が出たら積極的に検査を受けてください。特に若い方が感染した場合には嗅覚障害が現れやすいため、何となく味やにおいが分かりにくいと感じた際には念のために検査を受けることをおすすめします。

また、最後のワクチン接種を受けてから6か月以上経過すると感染するリスクが高まります。高齢のご両親や基礎疾患のある方に会うときなどには、そのときの流行状況にもよりますが、念のため検査を受けるのが望ましいでしょう。

なお、2021年11月末に国内でも新たな変異株であるオミクロン株の感染者が確認されました。オミクロン株はスパイクタンパク(細胞の表面に存在するタンパク質)に変異が集中しています。PCR検査ではスパイクタンパクに変異が起こってもほかの部分で検出可能です。その点においても、今後も“いつでも”“すぐに”検査を受けられる体制を確保することは重要であると考えられます。

新型コロナウイルス感染症の検査はPCR検査だけでなく、抗原定性検査といった方法でも行われています。それぞれの検査方法の特徴やメリットとともに解説します。

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画像提供:PIXTA

PCR検査とは、新型コロナウイルス感染症をはじめとするウイルスの遺伝子配列を調べる検査です。鼻咽頭(びいんとう)ぬぐい液や唾液から採取したウイルスが少量であっても検出できるため、感度(感染の有無が分かる割合)が高い点がメリットです。ただし、機器を用いてウイルスの検出を行うため、検査結果が出るまで時間がかかります。

PCR検査は、症状があれば公費負担(検査費用は無料、ただし外来診察料が別途発生します)、無症状であれば自己負担となります。しかし、広島県のように症状の有無にかかわらず無料で検査を実施している自治体もありますので、お住まいの地域の情報をご確認ください。

抗原定性検査は、ウイルスを特徴づけるタンパク質を調べる検査です。鼻咽頭ぬぐい液あるいは鼻腔(びくう)ぬぐい液を採取し、検査キットを用いて検査を行います。機器を用いることなく検査ができるため、15分程で結果が出ます。そのため、その場で結果が知りたい場合には選択肢として十分に考えられる検査といえます。

ただし、PCR検査に比べて感度が低い検査ですので、抗原定性検査で陰性だったからといって安心せずに、疑わしい場合には必ずPCR検査を受けてください。

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実際にPCR検査を受けるときは、まずかかりつけの医療機関に電話相談を行います。かかりつけの医療機関がない場合にはお住まいの自治体が設置している受診・相談センター(センターの名称は自治体ごとに異なる場合があります)に電話しましょう。

医療機関の指示にしたがって受診、検査を実施します。このとき、マスクの着用や手指の消毒を徹底し、感染対策に努めましょう。なお、唾液によるPCR検査を行う場合には、検査の30分前から歯磨きやうがい、飲食を控えるようにしてください。

検査結果が届くのは検査後3時間から翌日とばらつきがありますが、有症状の方や濃厚接触者は、検査結果が出るまでの期間は不要不急の外出は避けるようにお願いします。一方、無症状で検査を受けた方については検査後の注意点は特にありません。

PCR検査は以前に比べて簡便に行うことができるようになり、検査可能なキャパシティも広がってきています。ですから、少しでもかぜの兆候やにおいが分かりにくいなどの気になる症状があれば、早めに検査を受けて、陽性が判明したらすぐに治療を行う。こういった検査体制が実現できれば、社会全体への行動制限といった強い措置を講じる必要がなくなるでしょう。

特に、これから春先にかけてはかぜやインフルエンザなどの季節性の感染症の流行時期であるとともに、受験や新生活に向けて人の移動が活発になります。だからこそ、インフルエンザと同じような感覚で「かかったかもしれない」と思ったらすぐに検査を受けて、早期診断・早期治療を行うことで社会活動への行動制限をかけないことが、これからの新型コロナウイルス感染症対策で目指すべき目標になると思われます。

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