編集部記事

日本における新型コロナウイルス感染症の感染拡大スピード〜医師が考える今後の感染動向とは〜

日本における新型コロナウイルス感染症の感染拡大スピード〜医師が考える今後の感染動向とは〜
大毛 宏喜 先生

広島大学病院 感染症科教授

大毛 宏喜 先生

目次
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年05月22日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

世界各国で感染が拡大している新型コロナウイルス(COVID-19)感染症は今後もさらに感染の拡大が予想されることから、世界保健機関(WHO)は2020年3月11日に今回の流行をパンデミック(世界的流行)であると宣言しました。

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し医療崩壊や死亡者数の増加がみられる国もあるなかで、日本はどのような状況に立たされているのでしょうか。今回は日本の新型コロナウイルスの感染拡大スピードや、実際に行われている感染症対策、今後の発生動向などについて、広島大学病院 感染症科教授 大毛 宏喜(おおげ ひろき)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年5月22日時点の医師個人の知見に基づくものです。

新型コロナウイルスでは各都道府県別に感染者数の報告が行われています。しかし、数字だけを見て「〇〇県は感染者数が増えたから感染拡大が広がっている」「感染者数が減ってきたから感染拡大が収まっている」と考えることは適切ではありません。

今後の感染の様子を推測するうえで特に注目すべき点は“感染経路の追えない感染者がどれだけいるか”です。たとえば集団感染が起きた場合には一時的に感染者数が急増します。この場合、感染経路を特定できる可能性が高く、感染者の行動履歴などから濃厚接触者を特定し行動制限の要請などの対応ができるためその後の感染拡大をある程度予防することが可能です。

しかし、感染経路の追えない感染者が多い場合はどこでどのように感染者と接触し感染が広がっているか分かりません。そのため、知らないうちに感染者が増える確率が高く感染者数が急増する恐れがあるのです。

2020年4月の時点で感染拡大のスピードが早かった地域として東京都や大阪府などの”都市部”が挙げられます。これらの地域では人口が多く人の出入りも激しいため、感染拡大のスピードがほかの地域と比較して早かったと考えられます。

特徴としては前述のように感染経路の追えない感染者が多いことでしょう。感染経路の追えない感染者はそれぞれの生活圏で集団発生の原因となりうる可能性があり、その周辺で感染者がさらに増加することが懸念されます。

また新型コロナウイルスでは感染した人のうち2割が発症し残り8割は感染しても発症しない(不顕性感染)というデータもあり、不顕性感染の人からもウイルスが感染する可能性があると考えられています。そのため感染経路の追えない感染者が多い場合は検査をしていないだけでウイルスを持っている人がかなり多くいると考えられるうえ、気付かないうちにその感染がさらに拡大する可能性があるといえます。

日本ではさまざまな対策や国民性が功を奏し、今のところ感染拡大スピードを抑えて時間を稼ぐことができています。感染拡大スピードを鈍化させることは医療崩壊を防ぐほか、ワクチンや治療薬の開発を待てるためより多くの人の命を守ることにつながるでしょう。

日本で感染拡大スピードが抑えられている理由としては徹底したクラスター対策や国民性の特徴が挙げられます。クラスター対策とは新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)を特定し、必要に応じて国民に行動制限を要請するなど、ウイルスを封じ込めるための対策です。新型コロナウイルスではクラスター対策を行った国と行っていない国で感染拡大スピードに大きな差が出ていると考えます。

また国民性という点ではもともと風邪やインフルエンザ予防のために健康であってもマスクを着用する人が多かったことや、法的拘束力がなくても行政の指示に従い外出などの行動を自粛する人が多かったことなどが挙げられます。

日本でロックダウンが不要な理由は法的な拘束力がなくても国民が外出を控えるなどの行動変容を自主的に行っているからでしょう。今後も新型コロナウイルスに感染しない・感染させないよう、それぞれのできる感染防止策を行うことが大切です。

また世界各国のロックダウンの効果については現段階で結論を出すのは難しいと思います。感染者数・死亡者数など感染拡大の側面からも経済的な側面からも具体的な効果・影響が分かるのは数年先になるのではないでしょうか。

一般の人に対する新たな行動対策については今のところ話は出ていません(2020年5月22日時点)。現在は国家レベルでの経済対策、あるいは医療部門におけるワクチン・治療薬の開発、抗体測定による規制緩和の是非などが注力されています。

(※編集部追記:日本では2021年2月から各社ワクチンが承認され、接種が開始されました。)

引き続き外出を極力控えたうえで一般的な感染予防策を行うことです。手洗い・健康管理・咳エチケットを徹底しましょう。

手洗いは外出先からの帰宅のほか、調理の前後や食事の前など小まめに行うことが大切です。また手洗いのできない環境ではアルコール消毒液による手指の消毒も効果的です。

次に、食事・睡眠・運動などによる健康管理も免疫を高め感染症にかかりにくくするうえで大切です。

最後に、万一自分が感染していた場合を想定して他人にうつさないための咳エチケットを行いましょう。咳エチケットとは咳やくしゃみをする際にその飛沫をマスクやハンカチ、洋服の袖などで受け止め、拡散しないようにすることをいいます。なお、咳をおさえる際に手で受け止めてしまうとウイルスが手に付着しその手で何かを触ることでほかの人への感染を招くことがあるため、手で抑えることはやめましょう。

先のことを予測するのは難しい状況ではありますが、今後の感染拡大スピードや感染者数の増加については“集団発生をどれだけ食い止められるか”と“規制緩和の方法”がカギになってくると予想します。

集団発生に関しては今日までに集団発生しやすい環境が徐々に分かってきています。たとえば、医療機関や介護・社会福祉施設では人と人との距離が近くなりやすく、いわゆる“3つの密”を防ぎにくいため集団発生のリスクが高いと考えられています。このような場所で次々に集団発生が生じれ、感染拡大スピードは一気に早まることでしょう。そのため、医療機関や介護・社会福祉施設では引き続き感染拡大防止策を徹底して行う必要があります。

また規制緩和に関しては今後の都道府県の対応や、国民の行動にかかっています。今のところ行動自粛の要請が続いていますが、今後規制が緩和されれば場合によっては一気に感染が拡大することも懸念されます。たとえば、「もう大丈夫」と考え感染予防策を怠る人や積極的に外出する人も出てくるからです。そのため、各地域がどのように規制の緩和を実施して国民がそれをどのように受け止めるかが重要といえます。

現在は感染拡大スピードを鈍化させワクチンや治療薬の開発や免疫の獲得を待っているところです。この感染症の流行が収束するまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。また、すでに地域によって感染拡大スピードや感染者数に大きな差が生じているため、収束の時期に関しても国全体に一律ではなく各地域によって異なると予想します。

一人ひとりが感染予防策を徹底しながら各都道府県の方針に合わせて役割分担をきちんと行うことが肝要です。しばらくは大変な時期が続くと思いますが、医療従事者自身の健康にも注意しながら日々の業務をこなしていくことになるでしょう。

現段階では日本はオーバーシュート(爆発的な感染拡大)を防ぎ、感染拡大スピードを鈍化させることに成功しています。これは国や医療機関の行う対策による効果だけでなく一般の人が感染予防策をしっかり行っているからです。今後も引き続き感染防止策を継続し、新型コロナウイルスに感染しない・感染させないことを心がけていただきたいです。

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