内科での治療だけでは改善が見られず、仕事の繁忙期や受験期間に再入院となる。症状をおそれ、集団の中で一人だけ別のものを食べている。潰瘍性大腸炎の外科的治療、すなわち大腸の全摘出手術は、このような辛い状況と決別するために行う前向きなものであると、広島大学第一外科の大毛宏喜先生はおっしゃいます。本記事では、大腸全摘出の手術に要する期間と術後の生活について、詳しくご説明いただきました。
大腸の摘出手術を受けられる患者さんにとっては、入院期間もあらかじめ知っておきたい重要な関心事になるでしょう。結論からお話しすると、通常の(緊急手術以外の)手術を受ける場合、入院から社会復帰に至るまでの期間は約3か月になります。具体的な手術スケジュールは次のとおりです。
潰瘍性大腸炎の手術は、通常2回に分けて行う必要があります。まず、1回目の手術では、次の3つのことを行います。
このとき作る人工肛門は一時的なものです。というのも、手術直後は回腸嚢と肛門のつなぎ目が脆弱であり、完全につながるまでは吻合部を保護するために、別の部分から便を排出する必要があるからです。手術と術後の経過が順調に進めば、術後2週間ほどでいったん退院することができます。
退院後、約1か月自宅療養してから、人工肛門を閉じる手術(2回目の手術)を行います。2回目の手術の後、約1か月間は療養期間となりますので、社会復帰にかかるまでの期間はおおよそ3か月間ということになります。
※高齢の方であっても若い方であっても、術後の排便機能には違いがみられなかったため、原則として、年齢を問わず同じ術式での手術を行っています。
上記は予定手術において要する治療期間ですが、出血や穿孔(大腸に穴があいてしまう)を起こして緊急手術を行う場合は手術を3回に分けて行うため、治療期間も少し長くなります。これは、第一に出血や穿孔の原因をとりのぞき、なおかつ全身の状態を維持するために素早く手術を終わらせる必要があるからです。具体的な流れを見ていきましょう。
1回目の手術では、骨盤内の手術を省き、結腸全摘術のみを行います。直腸は摘出せずに残し、人工肛門を作ります。
この手術を行ってから2~3か月後に、2回目の手術を行います。初回手術で残した直腸を摘出し、小腸を使って回腸嚢を作り、肛門と吻合します。このとき、新たに人工肛門を作ります。
3回目の手術は、2回目から1か月半~2か月後に人工肛門を閉鎖する目的で行います。
このようなプロセスで手術を行うため、社会復帰までに5か月ほどの治療期間が必要となるのです。
過去の大腸全摘出手術では、腹部を縦に大きく切開する開腹手術が一般的でした。しかし、腹腔鏡手術の手技や道具が進歩し、広島大学第一外科では現在潰瘍性大腸炎の大腸全摘出術において、完全腹腔鏡下手術と用手補助腹腔鏡下手術(HALS)を導入しています。(2014年時点)
完全腹腔鏡手術のメリットは、傷が小さく、術後の回復も早いことです。ただし、開腹手術に比べて手術時間が長くなるといったデメリットもあります。用手補助腹腔鏡下手術は7cmほどの傷ができますが、手術時間の短縮が可能になります。加えて、術後の回復も早いことが明らかになっていますので、優れた術式と考えています。また、高度肥満などの場合は腹腔鏡手術が困難なため、全例において適応できるわけではありません。
大腸は主に次の2つの役割を担っています。
そのため、大腸を切除すると便が固くならず排便回数が増加します。手術直後は下痢止めを使用して排便回数をコントロールしますが(※下痢止めが不要な方もいます。)、ある程度の期間が経つと、排便回数は1日平均7~8回に落ち着きます。
また、手術では肛門を締める役割を持つ肛門括約筋を残しているので、術後は便意を我慢できるようになり、「常にトイレの位置を確認しながら生活する」という状態からは解放されます。
広島大学第一外科で実施したアンケートでは、手術を受けた患者さんの18%(5人に1人程度)に週1回程度、夜間の漏便がみられましたが、パッドを使用することで、術前と同様の日常生活を送ることができていました。
早期に歩行開始することで、術後の回復が早くなることがわかっていますので、まず、硬膜外麻酔と静脈注射を併用した鎮痛剤を24時間持続的に投与し、可能な限り痛みを抑えます。
手術の翌日から離床をはじめ、翌々日(2日目)に歩行を開始します。早い方は、翌日の午後から歩行を開始できます。
飲食は手術翌日に開始し、翌々日に食事(流動食)を開始します。退院後は、基本的に食事の制限はありません。
大腸を摘出したことが、出産の妨げになることはありません。経膣分娩(自然分娩)も可能です。また、潰瘍性大腸炎患者さんの妊娠と、通常の妊娠での低出生胎児や発育遅延、帝王切開のリスクにも差はありません。
広島大学病院 感染症科教授
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