先進国に多いという炎症性腸疾患ですが、過去には米アイゼンハワー元大統領やケネディ元大統領も罹患していたことで知られています。日本でも安倍首相が罹ったことは有名ですが、病名としては知っていても、その実態についてはわからないという方も少なくないと思います。福岡大学筑紫病院消化器内科の平井郁仁先生に炎症性腸疾患についてお話をうかがいました。
代表的な疾患として知られているのが潰瘍性大腸炎とクローン病で、いずれも難治性の腸管障害であり、若年層での発症が多くみられます。長期的な経過をたどるため、患者さんの生活スタイルに応じた治療が必要となるのもこの病気の特徴です。
炎症性腸疾患の中でも特にクローン病は、衛生状態と非常に密接な関係があるとされています。私が医師になったのは20数年程前のことですが、その当時は患者さんの数もさほど多くはありませんでした。ところが、1990年代後半くらいから急速に罹患する人の数が増えてきたのです。
人間の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)のパターンは、3歳くらいまでには形成されます。幼少期にさまざまな細菌にさらされることで、腸は外的から守る免疫システムを構築するのです。しかし、衛生状態が良好な環境で成長した場合、潰瘍性大腸炎やクローン病の発症リスクが高まる免疫システムになりやすいといわれています。
食事の欧米化なども多少関与していると考えられていますが、衛生状態が整っている国において患者数が増加する傾向にあるため、日本も同じような経緯をたどっているものと思われます。つまり、日本における炎症性腸疾患増加の背景には戦後の高度経済成長を経て先進国となり、国の衛生状態が整備されてきたということがあるものと考えられています。
炎症性腸疾患についてグローバルな視点でみてみると、世界の中でも早くに先進国となったヨーロッパや北米に多くみられ、続いてオーストラリアや日本といった国々で増えています。アジアであれば、最近では韓国も増加傾向にありますし、中国でも徐々に患者数が増えてきています。
クローン病は、1932年ニューヨークの内科医クローン医師によってはじめて報告された病気で、当時は限局性回腸炎と診断されました。若年層での発症が多く、好発年齢は10歳代後半から20歳代。口腔から肛門まで消化管のあらゆる部位に炎症や潰瘍が起こります。本邦では男女の比率は2:1で男性に多く発症する傾向にあります。
クローン病の患者さんの数は増加傾向にあり、特定疾患医療受給者証の交付件数でみると2013年には39,799人と報告されています。1976年には128人だったことから考えると、かなり急速に増えていることがわかります。特徴的な症状としては、患者さんの半数以上にみられる腹痛や下痢のほか、発熱や血便、体重減少や倦怠感などです。
発症年齢のピークは20~29歳ですが、小児や50歳以上でもみられるなど、幅広い年齢層で発症します。特定疾患医療受給者証の交付件数から患者数は、2013年で166,060人と報告されています。
性差はなく、症状としては下痢や腹痛をはじめ血便や粘血便などがみられます。軽症の場合は必ずしも血便を伴うわけではありませんが、重症化した場合は血性の下痢などが現れます。その他にも発熱や食欲不振、貧血などを呈することも少なくありません。
福岡大学筑紫病院 准教授 、福岡大学筑紫病院 炎症性腸疾患センター 部長、日本大腸検査学会 会員
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