下痢や腹痛などを主な症状とする炎症性腸疾患は先進国での発生が多く、日本でも患者数は増加傾向にあります。慢性的な経過をたどり、類似した症状を呈する他の疾患とも間違われやすいため、診断においては他の病気との鑑別がとても重要となります。炎症性腸疾患の診断について福岡大学筑紫病院消化器内科の平井郁仁先生にお話をうかがいました。
潰瘍性大腸炎は、病変が主に大腸であるのに対してクローン病は口腔から肛門に至るまで全ての消化管に発生するなど、同じ炎症性腸疾患でも発症する部位が異なります。症状も似ている点が多いことから、互いの疾患を間違えて診断することもあるため診断時には注意が必要です。
下痢や血便(粘血便)および腹痛を主な症状とする潰瘍性大腸炎は、30歳以下の若者に最も多く発症しますが、一方で小児や50歳以上の高齢者など幅広い年齢層で発症します。病変は直腸から口腔側に向かって連続性に広がり、全ての大腸に病変を有する「全大腸炎型」、病変の範囲が直腸から脾湾曲部までの「左側大腸炎型」、直腸に限局した「直腸炎型」、「右側あるいは区域性大腸炎型」に分類され、病変の拡がりや重症度によって治療法も異なります。
慢性の血便や粘血便、腹痛や下痢などの臨床症状があって潰瘍性大腸炎が疑われる場合は、最近の海外渡航歴や服薬状況、家族歴や禁煙の有無などについて聴取し、同様の症状を呈する感染性の腸炎や薬剤性の腸炎などを除外していきます。
潰瘍性大腸炎の診断の基本は臨床上の所見を正確に把握することと、内視鏡による検査です。しかし、症状にしても内視鏡の所見にしても感染性の腸炎と類似したところがあるため、細菌学的および寄生虫学的検査によって、それらとの除外鑑別を行うことが非常に重要です。
内視鏡検査における所見としては、下記のような典型的な所見が連続性に認められることです。また、粘膜がびまん性に(局所でない広範囲に)侵され血管透視像の消失や粘血膿性の分泌物の付着、多発するびらん(ただれ)などを認めます。
・血管パターンの消失…腸粘膜の下の細い血管の走行が視覚的に見えない様子。
・顆粒状粘膜…炎症で腸粘膜がざらざらになってしまう。
・易出血性…炎症により腸粘膜が内視鏡の接触などわずかな刺激で出血すること。
・潰瘍…粘膜がクレーターのようになって傷ついた様子
口から肛門に至るまで消化管の全域に炎症や潰瘍が起こる病気がクローン病です。 若年層での発症が多く、 好発部位は小腸と大腸で、腸の狭窄や瘻孔(ろうこう)などの合併症をともなうこともあります。内視鏡検査などの画像診断で、縦に長い縦走潰瘍(じゅうそうかいよう)や石を敷き詰めたような敷石像(しきいしぞう)、狭窄や瘻孔といった特徴的な所見がみられるとクローン病が疑われます。縦走潰瘍は、大腸では上行結腸や下行結腸に多くみられ、敷石像は通常活動性潰瘍と浮腫をともないます。クローン病は潰瘍性大腸炎と異なり、一般的に連続性を示さないこと(非連続性)も特徴です。
診断に関しては、潰瘍性大腸炎と同様にクローン病においても他の病気との鑑別を正確に行うことが重要となります。特に注意しなければならないのが腸結核です。腸結核は結核菌による感染ですが、気づかないうちに慢性化して、クローン病と類似した症状を呈することがあるからです。間違った診断で腸結核の患者さんに免疫を抑えるクローン病の治療を行うことがないようにしなければなりません。
クローン病の診断基準は、以下に示す通りです。
(「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班平成24年度統括・分担研究報告書」から)
①主要所見
a)縦走潰瘍
b)敷石像
c)非乾酪性類上皮細胞肉腫
②副所見
a)消化管の広範囲に認める不整形から類円形腫瘍またはアフタ
b)特徴的な肛門病変
c)特徴的な胃・十二指腸病変
確診例
①主要所見の a または b を有するもの
②主要所見の cと副所見の a または b を有するもの
③副所見のa、b、c 全てを有するもの
福岡大学筑紫病院 准教授 、福岡大学筑紫病院 炎症性腸疾患センター 部長、日本大腸検査学会 会員
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