概要
腸結核とは、腸に結核菌が感染することによって発症する病気です。
結核はかつて国内の死因第1位でもあった感染症で、“不治の病”と恐れられていましたが、予防接種や抗結核薬の普及、衛生環境の改善に伴い発症数は激減しました。しかし、現在でも年間1万人以上の新規結核患者が報告されており、誰でもかかる可能性のある感染症です。また、マラリア、HIV/エイズ(後天性免疫不全症候群)とともに世界3大感染症の1つです。
結核菌が原因で発症する結核症のうちもっとも多い病気は“肺結核”ですが、腸結核のように結核菌が肺以外の臓器に感染を起こすケースを“肺外結核”と総称します。腸結核は比較的まれな肺外結核であり、肺外結核は結核症の約20%、腸結核は肺外結核の約5%といわれています。
腸結核では、腸で最初に感染を起こすもの(原発性)とほかの臓器から感染するもの(続発性)があり、半数以上が原発性であるとされています。
発症すると、発熱や腹痛、下痢などの症状がみられるほか、腸が狭くなっている場合には腸閉塞をきたすこともあります。
治療では複数の抗結核薬を併用し、半年以上治療する必要があります。
原因
腸に結核菌が感染を起こして発症します。
感染しても必ず発症するわけではないですが、糖尿病、がん、血液疾患などを治療中の高齢者は免疫機能が低下しやすく、発症しやすいとされています。
感染経路はいくつかありますが、多くの場合は肺結核に感染している患者が結核菌を含んだ痰を飲み込んでしまうことで発症します。ほかにも、肺に形成された病変から結核菌が血液中やリンパ液中に侵入して腸に移行したり、結核菌に感染した周囲の臓器から腸に感染したりすることで発症することもあります。
症状
腸結核では、発熱や腹痛、下痢、下血、倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身症状がみられます。
特に小腸に感染した場合には栄養状態が悪化し、顔色が悪くなったり体重が減ったりします。さらに進行すると、腸の内腔が狭くなって吐き気・嘔吐や便秘などの腸閉塞の症状を認めることもあります。
一方、腸結核に感染しても症状を自覚しないまま自然治癒するケースもあります。このような場合には治癒した後に腸粘膜に瘢痕(傷あと)、腸管の変形・短縮がみられることがあります。
検査・診断
結核感染が疑われる場合には、血液検査や胸部X線検査、便培養検査、採取した痰の中に結核菌が存在するかを調べる“喀痰検査”などが行われます。そのほか、結核菌の感染経験を調べるツベルクリン反応検査やインターフェロンγ遊離試験*などが行われることもあります。さらに、腸結核の診断では、内視鏡検査で生検した組織から結核菌、あるいは結核の特徴的な病理所見である乾酪性肉芽腫の証明、生検組織の培養検査、さらにPCR法**による結核菌特異遺伝子の証明が行われます。
*インターフェロンγ遊離試験:採取した血液に結核菌の成分を加え、炎症反応の指標であるインターフェロンを測定する方法。
**PCR法:喀痰などの検体から結核菌のDNAを調べる方法。
治療
腸結核の治療では抗結核薬を用いた薬物療法が行われます。イソニアジド(INH)やピラジナミド(PZA)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)などの薬剤を併用しながら、半年以上治療をする必要があります。
また、結核菌に感染しているが発病はしていない患者(結核既感染者)には、潜在性結核感染症の治療としてイソニアジド(INH)を6~9か月間、あるいはリファンピシン(RFP)を4~6か月間投与します。
通常は薬物療法などの内科的治療で軽快しますが、腸が狭くなったり閉塞したりしている場合には、内視鏡を用いて狭窄部分を広げる内視鏡的拡張術や、狭窄部分を切除する手術が必要になる場合もあります。
予防
結核の予防にはBCGワクチンの接種が有効であり、国内では生後1歳になるまでに予防接種が行われます。しかし、予防効果は10~15年とされているため、接種後も感染対策を行う必要があります。
結核既感染者は免疫機能の低下をきっかけに再燃することがあります。そのため、睡眠不足やストレスを避け、規則正しい生活習慣を心がけて免疫機能の維持に努めることが重要です。また、抗がん薬・免疫抑制薬・生物学的製剤*、特にクローン病や関節リウマチの治療として使われる抗TNF-α抗体製剤と呼ばれる薬剤を使用することにより、結核を発症するリスクが高まるといわれています。これらによる治療を開始する前は結核の発症リスクに留意し、予防的な抗結核薬の内服などについて主治医とよく相談することが大切です。
*生物学的製剤:化学的に作られた薬剤と異なり、生物のタンパク質などから作られる薬剤。
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