インタビュー

クローン病の手術と予後

クローン病の手術と予後
大毛 宏喜 先生

広島大学病院 感染症科教授

大毛 宏喜 先生

この記事の最終更新は2016年01月20日です。

日本におけるクローン病患者は年々増加しており、それに伴い手術件数も増加していると広島大学感染症科の大毛宏喜先生はおっしゃいます。本記事では、クローン病の手術ではどのようなことを目的として、具体的に何を行うのか、また、クローン病の予後についてご説明いただきました。

クローン病の手術の第一目標は、病変を切除することによる通過障害(狭窄により腸管などが狭まり、食べたものが通らないなど、通過に障害がおこること)の解除と、炎症の制御です。

大腸摘出手術とは異なり、小腸は「栄養を吸収する」という重要な役割を持つため、切除範囲は必要最小限とし、腸管の栄養吸収機能を維持することにも注意しなければなりません。広島大学第一外科では、狭窄が短いときには、腸管切除を避ける「形成術」という方法での手術を行っています。潰瘍が多発している場合は、全てを切除して腸を短くすることがないよう、潰瘍が連なっている部分のみを切除します。

また、吻合法(つなぎ合わせる方法)は、変形しにくい大きな吻合口を作ることで、術後の内視鏡検査に支障をきたさず、中長期の再手術率が低いというメリットが得られる「Kono-S式吻合法」を採用しています。

Kono-S式吻合法

手術に際し、患者さんが不安に思われることのひとつに「痛み」があります。そのため、当科では、手術後に麻酔科と連携して痛みをとるための治療にも力を注いでいます。また、クローン病の患者さんには若い方が多く、傷も小さいほど望ましいと考えられます。そのため、手術創が小さい腹腔鏡下手術も積極的に取り入れています。腹腔鏡下手術は、このほか、術後早期の疼痛が軽い・腸管運動の回復が早い・術後の癒着が起こりにくい、といったメリットがあります。

クローン病では、直腸に潰瘍が多発しやすく下痢も増えることから、痔瘻が起こりやすくなります。さらに、クローン病の痔瘻は、一般的な痔瘻に比べて複雑化しやすく、再燃しやすいという特徴があります。しかし、根治術で肛門を締めるための肛門括約筋にダメージを与えてしまうと、便意をコントロールすることが難しくなり、長期的に便失禁などの機能障害をきたしてしまうこともあります。これを防ぐため、肛門括約筋を温存する術式である「シートン法」を第一選択術式としています。

潰瘍性大腸炎の場合は、手術により大腸を摘出してしまえば病気と離れられるとお話ししましたが、クローン病の場合、手術は内科的治療を継続するためのワンステップであると考えるべきです。手術で病変を切除した後も、やはり食事などには気を使っていただかなければいけません。

しかし、患者さんが抱えている辛い症状を緩和できる「前向きな手段」であることは確かです。多くの患者さんは、内科の主治医の先生に手術「しか」ないと告げられると、がっかりとした気持ちになってインターネットなどで手術について検索されます。ですから、私はそのような読者の方に対しても、自分の患者さんに伝えているのと同様に、傷も痛みも可能な限り小さいものにとどめられるので心配する必要はありませんとお伝えしたいのです。潰瘍性大腸炎もクローン病も「こうなったら手術」というはっきりとした定義は存在しません。体重が落ち、食事が思うようにとれず、生活の質がどんどん落ちていってしまっている、手術をした方が幸せな生活を送れる。そう判断した時に、背中を押すような気持ちで手術を勧めています。これから手術を受けられる方は、「これで自分はよくなるのだ」と前向きにとらえて手術に臨んでいただければと思います。

クローン病潰瘍性大腸炎と診断された方は、定期的に内視鏡検査を受けることをお勧めします。というのも、海外からの報告では、クローン病の患者さんが大腸がんを発生する危険性は一般の方と比べて2.4倍、小腸がんは28倍と示されているからです。日本では患者数が少なく、まだ明らかになっていない部分もありますが、同程度の発生率という報告もなされています。

また、クローン病患者さんの予後(治療後、一般的にどのくらい生命を維持できるかについての予測)は、一般の方と同程度であると考えられます。日本でのある報告では死亡率が高いとされていますが、反対に、健常人と同等とするという報告もなされています。現段階では確定的とまではいえませんが、クローン病は生命予後に悪影響を与える疾患ではないといえるでしょう。

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