インタビュー

潰瘍性大腸炎の手術方法とメリット

潰瘍性大腸炎の手術方法とメリット
大毛 宏喜 先生

広島大学病院 感染症科教授

大毛 宏喜 先生

この記事の最終更新は2016年01月16日です。

大腸の粘膜に炎症が起こり、下痢や血便、腹痛などの症状を引き起こす「潰瘍性大腸炎」。治りにくく再燃しやすいという特徴があり、薬物療法による治療を行っていても症状に悩まされ続ける患者さんは後を絶ちません。本記事では、疾患と「離れる」ための大腸切除手術の方法と、手術を受けるメリットについて、累積で250例以上の手術を行っている広島大学第一外科の大毛宏喜先生にお話しいただきました。

広島大学第一外科では、あらゆる診療科が集まる大学病院の特徴を活かし、内科と外科が連携して潰瘍性大腸炎の治療にあたっています。「潰瘍性大腸炎とは」でも述べた通り、潰瘍性大腸炎の治療は主に内科で行いますが、次のような場合には外科での手術を行うことになります。

  • 様々な内科的治療(薬物療法など)を行っていても、病状がコントロールできないとき
  • 大腸粘膜病変にがんが見つかったとき
  • ステロイドなどの薬物治療による副作用がある場合

このほか、大腸に穴が開いてしまい(穿孔)、緊急手術を行うケースもあります。

治療のために服用するステロイドには、肥満やmoon face(顔に脂肪が集まり、丸くなる)、多毛やニキビの増加といった副作用があります。また、患者さんの中には、仕事などが忙しい時期に病気が再燃して入院となってしまう方や、飲み会や家族での食事の際に一人だけ別のものを食べている方、常にトイレの位置を確認し、不安を抱えながら生活している方もいらっしゃいます。手術には、こういった辛い状況や副作用と別れられるというメリットがあります。家族と一緒に好きなものを食べたい、受験や仕事の繁忙期の入院治療を避けたい、こういった生活の質を高めるための前向きな理由でご自身から手術を希望される方もみられます。

潰瘍性大腸炎の手術では、炎症の発生母地となる大腸を全て摘出します。大腸を全てとってしまうことで栄養が摂れなくなるのではないかと心配される患者さんも多いのですが、大腸は栄養吸収にはあまり関与しない臓器ですので、栄養失調になったり、やせ細ってしまうというような心配はありません。ただし、大腸の主たる機能は「便をためること」と「水分を吸収すること」ですので、排便の頻度が増えたり、便が水っぽくなるという欠点があります。

潰瘍性大腸炎の場合は、大腸を全摘出した直後、一時的に人工肛門を作りますが、約1か月半で閉鎖することができます。

潰瘍性大腸炎の手術では、まず大腸を全摘出し、その後小腸の端を15cm程度折り返して、「回腸嚢(かいちょうのう)」という袋を作ります。回腸嚢には便をためる機能を持たせます。この回腸嚢と肛門を手縫いでつなぐことで、肛門から排便できるようになります。

現在、潰瘍性大腸炎には2つの標準術式があります。ひとつめは、回腸嚢肛門吻合術(以下、IAA)、もうひとつは回腸嚢肛門管吻合術(以下、IACA)です。

IAA

IAAでは、肛門を締める筋肉である肛門括約筋を残し、大腸の粘膜を全て取り除きます。これにより、手術後に潰瘍性大腸炎による炎症や癌化の可能性を取り除くことができます。ただし、IACAに比べ、下着にシミがつく程度の少量の便が漏れる「漏便」が術後早期に起こりやすくなります。

IACA

IACAでは、肛門を締める部分の直腸粘膜を残しますので、術後早期の漏便や排便回数は減るといわれています。しかし、残した直腸粘膜から潰瘍性大腸炎が再燃したり、癌化してしまうリスクが残ります。

このようなリスクを回避するため、広島大学第一外科では前者のIAAを採用しています。

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