とくに思い当たる原因がないのに、お腹の痛みや下痢が続いていませんか。便に血が混じったり、お尻が腫れたりする場合、IBD(炎症性腸疾患)の可能性が考えられます。IBD(炎症性腸疾患)とは、潰瘍性大腸炎やクローン病を含む、原因が明らかになっていない腸の病気の総称です。進行すると、腸を切除するといった手術が必要になることもあるため、気になる症状があるときは病院で相談することが大切です。
本記事ではIBD(炎症性腸疾患)とはどのような病気なのかについて解説していきます。
腸に炎症を繰り返す病気を「IBD(炎症性腸疾患)」といいます。IBD(炎症性腸疾患)には、「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」などがあり、いずれも腹痛や下痢などを繰り返す病気です。
IBD(炎症性腸疾患)が起こる原因は、はっきりとは分かっていません。しかし、近年の研究では、人間の免疫を担当する細胞のはたらきが過剰になって、自分自身の正常な細胞や組織に攻撃をしてしまうことや、腸内細菌のバランスなどが、IBD(炎症性腸疾患)の発症に関わることが分かってきています。
潰瘍性大腸炎は、IBD(炎症性腸疾患)のひとつで、大腸の粘膜に炎症や潰瘍、ただれができる病気です。2015~2016年に行われた全国疫学調査によると、日本の潰瘍性大腸炎の患者さんは、およそ22万人と推計されています1)。10~30代の若い方に多い病気で、50歳以上の方でも発症することがあります。
大腸の粘膜に沿って、直腸から連続して広がるような浅い潰瘍が生じ、主に腹痛、下痢、肛門からの出血などが起こります。調子のよいとき(寛解期)と悪いとき(活動期)があり、症状の現れ方は患者さんによってさまざまです。症状が出ない時期のほうが長いという方が多いようです。調子のよい時期(寛解期)に大腸の粘膜が回復し、健康な方と変わらないくらいの状態にまで炎症が治まる方もいらっしゃいます。
また、潰瘍性大腸炎は、気持ちが落ち込んでいるときや、自律神経のバランスが崩れているときに、症状が出ることが多いといわれています。たとえば、生活環境に変化がある春、気温の寒暖差が大きい初秋、衝撃的な映像や写真を見たときなどに、急に症状が悪化することがあります。
クローン病は、IBD(炎症性腸疾患)のひとつで、口からお尻までの消化管のどの部分にも炎症や潰瘍が発生する病気です。2015~2016年に行われた全国疫学調査によると、日本のクローン病の患者さんは、およそ7万人と推計されています1)。多くの患者さんが、10代後半から20代までに発症します。男女比は2対1で男性が多いです。
大腸や小腸などに、深い傷のような潰瘍が生じ、腹痛、下痢、肛門からの出血、体重減少などが起こります。炎症がみられる場所によって、肛門の痛みや腫れ、肛門が狭くなって便が出にくくなる狭窄などが起こることもあります。調子のよいとき(寛解期)と悪いとき(活動期)を長期にわたって繰り返し、症状の現れ方は患者さんによってさまざまです。
また、クローン病は、切れ痔のような傷が肛門の皮膚に生じることがあり、そこから感染を起こして膿がたまると、肛門が腫れて強い痛みが引き起こされます。当院では、お尻の痛みや腫れがある若い男性に、下痢や体重減少がみられる場合、まずはクローン病の可能性を考えて診察を行っています。
IBD(炎症性腸疾患)の診療では、主に、カメラのついた細い管を肛門から挿入して大腸を観察する「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」を行います。クローン病にかかっていると、腸の粘膜に深い傷がみられ、潰瘍性大腸炎にかかっていると、大腸の粘膜がやけどしたように真っ赤になっている様子がみられます。クローン病で生じる深い傷は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)だけでは見つけられないことがあり、ほかの検査が必要になることが多いですが、潰瘍性大腸炎は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)によって症状を確認することができます。
消化管のさまざまな部分に炎症が起こる可能性があるクローン病は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)では、炎症している部分までカメラが届かないことがあります。クローン病が疑われるときは、主に小腸の検査を行います。小腸の検査方法には、造影剤を飲んでX線撮影を行う「小腸造影検査」や、カプセル型の内視鏡を飲んで行う「小腸カプセル内視鏡検査」があります。腸管が狭くなる合併症が起こっている患者さんは、カプセル型の内視鏡が詰まってしまう恐れがあるため、基本的には小腸造影検査を実施することが多いです。
お腹の痛みや下痢が続いたり、健康診断などの便潜血検査(検便)で異常を指摘されたりしたら、潰瘍性大腸炎やクローン病の可能性が考えられます。どちらも悪性の病気ではなく、基本的に命に関わることはありません。しかし、進行すると、腸が詰まる腸閉塞や、腸が破れる穿孔などの合併症を引き起こし、手術が必要になる場合があります。できるだけ早く受診し、症状をコントロールすることが大切です。
とくにクローン病は、消化管の炎症が顕著にみられ、消化管の筋層に及ぶ深い潰瘍(深堀潰瘍)ができやすい病気です。傷ついた部分が自然にもとに戻ることはないため、症状が悪化して日常生活に大きな支障が生じる場合、腸を切除する大きな手術が必要になる可能性があります。下痢やお尻の症状について相談するのは恥ずかしいと感じるかもしれませんが、IBD(炎症性腸疾患)に詳しい医師に相談し、診断がついたら早く治療を始めることが大切です。
【参考文献】
1)西脇祐司,他. 潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数推計に関する全国疫学調査 調査結果報告. 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)分担研究報告書. 2017:62-76.
関連の医療相談が10件あります
下腹部左下の鈍痛
下腹部左下に鈍痛があります。 今も耐えられない痛みでは無いんですが、キリキリ痛みが続いてます。 何が原因でしょうか。
便秘気味で、腹痛を伴って出る
以前から便秘気味ではあったが、最近は頻繁に腹痛がある。(下腹がキリキリと痛む) そしてそれにしばらく苦しんでいると、急に便意がして排便となる。 以前は3日に1回程度の便通。今はもう少し間隔が空き、数日に1回ぐらい、少量しか出ない。 以前は2ヶ月に1回程度の腹痛だったのが、最近は毎週のように痛い。 急に苦しくなるのはどうにかならないかと思う。
繰り返す発熱、体の不調
11月12日頃から 微熱、平熱、倦怠を繰り返し カロナールも効かず 大きな病院でPCRして陰性 血液検査(2回行っており、2回目は5本採血してもらいました)、異常なし レントゲン異常なしで 腹部エコーで脾臓が腫れてたため なんらかのウイルス感染症との診断。 来週月曜日に どのウイルスに感染したか検査結果がでます。 今週の火曜日、水曜日、木曜日は とても体調が良く 回復したと思われましたが 昨日の朝から嘔吐、38.9の熱 お腹の不快感で 小さなクリニックを受診 聴診でゴロゴロお腹の音がしたようなので なんらかのウイルスによる腸炎との診断。 カロナールや 整腸剤を処方され いまは熱は下がり お腹だけ不快感。 ここ最近ずっと 熱を繰り返し 体の不調を繰り返し 回復してもいつまた 体が不調になるか不安で 仕事もずっと休んでます。 他に、原因があるのか 他に、病気が隠れてるのではないかと心配で 原因が知りたいです 今回大きな病院で受けた 検査以外に なにか、追加で検査を受けるとしたらどんな検査でしょうか。 考えられる病気があるとしたら どのような病気でしょうか。 今回の腹痛や嘔吐も 最初に診断されたウイルス感染症と関係があるものなんでしょうか。
鈍い腹痛と下痢
一昨日の夕方頃から僅かな腹痛、翌朝未明に鈍い腹痛と下痢を数回、その後37.1℃の発熱がありました。朝に整腸剤、昼に37.4℃まで上がったため解熱剤を服用し、そのまた次の日には熱は下がったのですが、不定期で訪れる鈍い腹痛と下痢が現在も続いています。一昨日と昨日は水っぽい便、今日は柔らかくて少し水っぽい便が出ました。 お腹を指で押したところ、おへその左側が痛みます。また、腹部膨満感もあります。 生物などはその数日前から食べていません。 何の病気が考えられるでしょうか? また、病院にかかった方が良いでしょうか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「炎症性腸疾患」を登録すると、新着の情報をお知らせします