編集部記事

新型コロナウイルス感染症における濃厚接触者の定義〜日常生活における行動制限とは〜

新型コロナウイルス感染症における濃厚接触者の定義〜日常生活における行動制限とは〜
大毛 宏喜 先生

広島大学病院 感染症科教授

大毛 宏喜 先生

目次
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年01月15日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症とは、2019年12月に中国・湖北省武漢市で確認されたコロナウイルスで、“新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)”による感染症です。日本では感染拡大を予防するため、感染者と接触し感染リスクが高いと推定される人のことを“濃厚接触者”と定義し、行動制限の要請や感染症予防対策の指導を行っています。

このページでは、濃厚接触者と判断された場合の生活上の注意点、症状が現れた場合の相談先などについて広島大学病院 感染症科教授大毛 宏喜(おおげ ひろき)先生にお話を伺いました。

※本記事は2021年1月8日時点の医師個人の知見に基づくものです。

新型コロナウイルス感染症における濃厚接触者とは、感染者に接触した人のうち特に感染リスクが高いと想定される人のことをいいます。2020年4月20日に国立感染症研究所感染症疫学センターから発表された定義では、新型コロナウイルス感染症の症状が現れる2日前から隔離開始までの間(感染可能期間)に感染が確定した患者さんと接触した人のうち、以下のような人を濃厚接触者としています。

新型コロナウイルス感染症における濃厚接触者

  • 感染が確定した患者さんと同居、あるいは長期間の接触がある人(電車や飛行機での接触も含む)
  • 適切な感染防護なく感染が確定した患者さんを診察・看護・介護していた医療・介護従事者
  • 感染が確定した患者さんの咳・くしゃみのしぶき・鼻水などに直接触れた可能性が高い人
  • 感染が確定した患者さんと手で触れることのできる距離(およそ1m)で、マスクなどの感染予防策なく15分以上の接触があった人

2020年4月20日に発表された新型コロナウイルス感染症における濃厚接触者の定義では、従来の定義から主に2点の変更がありました。

1つ目は感染可能期間の延長です。感染可能期間とは、新型コロナウイルスへの感染が確定した患者さんからほかの人へウイルスがうつる可能性のある期間のことをいいます。従来の定義では“新型コロナウイルス感染症が疑われる症状が現れてから隔離開始までの間”としていましたが、変更後は“新型コロナウイルス感染症が疑われる症状が現れる『2日前から』隔離開始までの間”となりました。これは、新型コロナウイルス感染症では発症前の感染者からも感染するリスクがあるのではないかと考えられているからです。

2つ目は濃厚接触となる距離・時間の変更です。従来の定義では感染が確定した患者さんと2m以内で接触した場合に濃厚接触者と判断されていました。しかし、変更後は感染が確定した患者さんとマスクなどの感染予防をせずに1m以内、かつ15分以上接触した場合、濃厚接触者と判断されることになりました。ここでご注意いただきたいのは、1m、15分などの数値はあくまで目安であり、“1.1m距離を取っていれば感染しない”“10分の接触であれば感染しない”という意味ではないということです。環境や状況に応じて感染リスクが高いと想定された場合には、これらの条件を満たしていなくても濃厚接触者と判断されることがありますのでご注意ください。

また、新型コロナウイルス感染症についてはまだ明らかになっていないことも多々あります。そのため、今後さまざまなことが分かってくるにつれ、濃厚接触者の定義が再度変更になる可能性もあるでしょう。

濃厚接触者の判定は、感染が確定した患者さんに対して行政が行う聞き取り調査の情報をもとに行われます。万一、濃厚接触者に該当した場合は行政から本人宛てに連絡されます。ただし保健所の業務の逼迫のため、今後は病院や高齢者施設など以外では、感染経路や濃厚接触者を調べる“積極的疫学調査”を行わない自治体も出てきました。

潜伏期間の14日間はご自身の体調に変化が生じないか注意深く観察をするほか、自分が感染している場合を想定し、感染拡大予防を行いましょう。

濃厚接触者向けの具体的な感染拡大予防として、保健所では不要不急の外出を控えること、外出が必要な場合でも公共交通機関の使用は控えることを要請し、外出時のマスクの着用や手洗いの慣行など一般的な感染予防対策を指導します。これらの要請や指導に法的な拘束力や守らなかった場合の罰則はありませんが、特に健康観察期間中はできる限り保健所の指示に従うよう心がけてください。

濃厚接触者といっても人によって感染者との接触の度合いが大きく異なるため、濃厚接触者全体の明確な発症の確率を出すことは難しいでしょう。

今のところ分かっていることは、感染者との距離が近く接触時間が長い場合、感染の確率が高くなる傾向があるということです。たとえば、介護施設・障害者施設などスタッフと利用者の距離が近く、関わる時間の長い環境では感染確率も高くなるといえるでしょう。一方、会社の同僚などある程度距離を保った短期間の接触であれば、感染確率はそこまで高くないと考えられます。

濃厚接触者であっても感染予防対策の内容は変わりません。一般の人と同じように手洗い・マスクの着用を行いましょう。また、食事・睡眠・運動など生活を整え、体を健康に保つことも大切です。そのうえで自分が感染しているかもしれないということを想定し、人にうつさない工夫をしましょう。

濃厚接触者に新型コロナウイルス感染症を疑う症状が現れた場合には、各自治体が指定する窓口に電話で相談しましょう。検査を行う医療機関等の紹介がありますので、速やかに検査を行い、陽性だった場合は保健所の指示に従ってください。

積極的疫学調査を行う自治体では、濃厚接触者の定義に基づき発症の2日前からの行動履歴を行政に尋ねられます。

新型コロナウイルス感染症の場合、基本的に行政が感染者の出た施設などを公表することはありません。たとえば、麻疹(はしか)では感染者の行動履歴が感染拡大防止のための注意喚起につながると考えられるので、情報を公開する場合があります。しかし、新型コロナウイルス感染症では、患者さんが出た施設での感染症対策を徹底していれば濃厚接触者は発生しません。濃厚接触者が発生しないのに施設名を公表しても感染の注意喚起にはならないことから、感染者の行動履歴について情報を公開する必要がないと考えられています。

しかし大学など一部の施設では、感染者が出たことを謝罪的な意味で自ら公表しています。誠意を持って発表した場合でも、それを理由に施設が非難されるケースが多発しています。今こそ報道のあり方、各個人の行動が問われている時期ではないでしょうか。

濃厚接触者が家族などと同居している場合、家庭内でも感染拡大予防をすることが大切です。厚生労働省では、新型コロナウイルスに感染している疑いのある家族がいる場合に注意するポイントについて以下のようにまとめています。

新型コロナウイルス感染が疑われる家族と同居している場合

  • 感染が疑われる人を個室に隔離する
  • 感染が疑われる人の看病・世話は極力健康な限られた人が行う
  • 家の中でもマスクを着用する
  • 手洗い・アルコール消毒を小まめに行う
  • 定期的な換気を行う
  • ドアノブ・トイレなど共用するものは小まめに清掃・消毒する
  • 感染が疑われる人の体液がついた衣服・リネンは小まめに洗濯する
  • 感染を疑われる人が鼻をかんだティッシュなどはビニール袋に入れ密閉して捨てる

家族に濃厚接触者がいる場合、以上のことを注意し家庭内で感染が広がることを防ぎましょう。また、自治体が用意する宿泊施設が利用できる場合もあります。

感染予防対策として政府では“3つの密”を避けることと、手洗いをきちんとすることの2つを掲げています。私は一般の皆さんにこの2つの感染予防対策がそれぞれ別の感染経路に対する予防策であるということを理解していただきたいです。

まず、3つの密を避けることは飛沫感染を防ぐための感染予防対策です。3つの密とは、“密閉・密集・密接”を指します。これは狭く換気の悪い空間で感染者と鉢合わせになった場合、感染者の咳・くしゃみなどの飛沫を吸い込むことによって新型コロナウイルスに感染してしまうことを防ぐ方法です。特に飲食の際など、マスクを外す場面に注意が必要です。

一方、手洗いをきちんとすることは主に接触感染を防ぐための感染予防対策です。接触感染とは、ウイルスのついたものを手で触り、その手で自分の口や顔を触ることによりウイルスが体に入って感染してしまうことをいいます。特にドアノブ・手すりなど不特定多数の人が触れる部分にはウイルスが付着している可能性が高いといわれています。

今のところ、新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染・接触感染の2つといわれており、これらをそれぞれ予防することではじめて新型コロナウイルスの感染予防対策ができたということになります。つまり、“3つの密を避けていれば手洗いは必要ない”“手洗いをきちんとしていれば3つの密が想定される場所へ行っても大丈夫”ということではなく、どちらもそれぞれ行う必要があるということを理解し、感染予防に役立ててください。

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