日本でも医療関係者を対象に先行接種が始まった新型コロナウイルスワクチン。感染拡大を阻止する期待がかかる一方で、副反応が気になるという方もいるでしょう。では、実際にどの程度の割合で、どんな副反応が起こると考えられるでしょうか。公開されているデータで確認しましょう。
一般に、ワクチンや薬品の使用が許可されるためにはヒトを対象にした臨床試験(治験)を行い、その結果を公表する必要があります。治験は通常、第1~3相の3段階に分けて行われ、徐々に規模を拡大しますが、新型コロナウイルスに対するワクチンは、緊急に開発することが求められたため第2相と第3相の治験が合わせて実施されたものもあります。本稿で紹介する3つのワクチンに関する治験はいずれも、参加者をワクチン接種群とプラセボ(偽薬=生理食塩水や、安全性が確認されている別種のワクチン)接種群に分けて行われました。グループの分け方は、参加者の質が均一になるようにランダムに割り付けられます。こうしたやり方を、「ランダム化比較試験」と呼びます。その結果は、著名な医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」、「ランセット」に掲載されました。掲載される雑誌の質は、査読(内容を複数の専門家がチェックする)の質に係りますので、報告の信頼性を担保する重要な要素の一つです。日本での先行接種により副反応の報告の報道もなされていますが、副反応などの診断を厳密に定義し、2群比較を行った治験結果は信頼性が高く全ての基本になりますので、ここではそれについて見ていきましょう。
その中から、副反応に関する記述を一覧にまとめました。
日本でもすでに特例承認され使用が開始されているファイザーのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンから見ていきましょう。
NEJM誌で公表された論文によると、この結果は「現在も観察が続けられている第2、第3相治験からの、安全性などについての所見」とされています。世界で16歳以上の4万3448人が参加。ランダムにほぼ半数ずつをワクチン接種群とプラセボ(生理食塩水)接種群に割り当てて行われ、1、2回目の接種後の反応をまとめています。
局所的反応(注射部位の反応)で一番多くのワクチン接種群の人が経験したのは注射部位の痛みで55歳以下の人は1回目の接種後に83%、2回目で78%。56歳以上では同71%、66%でした。ただし痛みはほとんどの人で軽度から中等度で、激しい痛みがあった人は全て全ての年齢層で1%未満だったとされています。一方で、注射部位の赤みや腫れがあった人は全ての年齢層で5~7%と低い割合でした。こうした反応は1~2日で解消しています。
全身性の反応は、全般的に若い年齢層(55歳以下)でより多くみられ、1回目よりも2回目接種後により頻繁に報告されたとしています。報告が多かったのは倦怠感と頭痛で、55歳以下では2回目の後にそれぞれ59%、52%が経験。56歳以上では同51%、39%でした。
38.0℃以上の発熱は、55歳以下が4%から16%、56歳以上では1%から11%へと、2回目投与後に顕著に割合が上昇しました。いずれも1〜2日で出現し、早々に改善しています。
ファイザーと同じmRNAワクチンのモデルナ製ワクチンの臨床試験結果も、同じくNEJM誌で公表されました。
18歳以上の3万420人の参加者はランダムに1万5210人ずつに分けられました。28日間隔でそれぞれワクチンとプラセボ(生理食塩水)の接種を2回受け、観察が行われました。
注射部位の反応は痛みが最も多く1回目の後で84%、2回目の後で88%、腫れはそれぞれ6%、12%、赤みが3%、9%でした。また、重症度は主に軽度から中等度です。症状は1回目の後は平均2.6日、2回目の後は3.2日続いたとのことです。
全身性の反応についてもファイザー同様1回目より2回目の後で多く、64歳以下で65歳以上より多かったです。2回目の後での倦怠感が65%、頭痛が59%でした。38.0℃以上の発熱は16%でみられています。症状の持続期間の平均は1回目2.9日、2回目3.1日でした。
アストラゼネカのウイルスベクターワクチンに関しては、ランセット誌で第2相臨床試験結果までが公表されています。
第2相のため参加者は560人と小規模になります。新型コロナワクチン群420人、プラセボ群140人のグループに分けられ、観察されました。この臨床試験ではワクチンの投与回数や投与量を変えた多数のグループが設定されているのですが、このうち標準容量を2回接種した群(128人)についての結果を参照します。
18~55歳のグループでは88%、56~69歳のグループでは73%、70歳以上のグループでは61%で、1回目の接種後に何らかの局所反応がありました。2回目の後は順に76%、72%、55%でした。注射部位の反応で最も多くみられたのは接種部位の痛み(49%、35%、10%)で、接種後48時間以内に頻出しました。
全身性の反応は、1回目の後が順に86%、77%、65%、2回目の後が65%、72%、43%でした。最も多かったのは他のワクチンと同様に倦怠感で、1回目の後の頻度がそれぞれの年齢層で76%、50%、41%でした。38.0℃以上の発熱については、標準容量群では18〜55歳のグループの1回目の接種で24%みられたのみで、2回目ではみられず、他の年齢層では1回目、2回目ともにありませんでした。
局所反応、全身反応とも、ほとんどの項目で2回目の方が1回目よりも出現率が低くなっているのが、前者2つのmRNAワクチンと異なるところです。
臨床試験ではみられなかったものの、アメリカで承認されて接種数が増えると、重篤な副反応としてアナフィラキシーがごくまれに生じることが分かりました。最新のまとまった報告として、JAMA誌に掲載された文献を参照しましょう。
まずはアナフィラキシーとは何かを確認しましょう。アナフィラキシーとは急性の激しいアレルギー反応を指し、端的に2つ以上のアレルギー症状が急に起こる状態を言います。重篤な場合はアナフィラキシーショックといって、血圧や意識状態の低下に至り、いずれにしても適切な処置をしなければ命に関わることもあります。ただし、すぐにエピネフリン(アドレナリン)という薬を投与すれば回復する、つまり、確立した治療法があるということが大事な点です。
ファイザーのワクチンでは、994万3247回の接種で47例(100万回あたり4.7例)の発生が確認されました。77%の人に何らかのアレルギーの病歴があり、さらに34%の人がアナフィラキシーの病歴がありました。44例(94%)が女性でした。89%の人が30分以内に症状が出現しています。
モデルナのワクチンでは758万1429回の接種で19例(100万回あたり2.5例)の発生が確認されました。84%の人にアレルギーの病歴が、26%の人にアナフィラキシーの病歴がありました。全員が女性で、89%の人が30分以内に症状が出現しています。
いずれも適切な対応により回復し、死亡例はありません。
アレルギーの病歴のある方が多いことを心配される方も多いかと思いますが、逆にアレルギーのある方全体からみると発症例はあくまでごく少なく、アレルギーがあるからといって、このワクチン接種を避ける必要はないと考えられます。
日本では、2021年3月10日現在、14万8950回接種のうち、25例がアナフィラキシーとして報告されています。上記と比べると頻度が多いように思われますが、アナフィラキシーの診断基準が同一でない可能性が指摘されています。これについては政府の審議会における判断が進むことで、本当に諸外国と比べて多いのか、あるいはそうでないのかが明らかになってくると思われます。また、いずれの症例も我が国においても適切な対応により改善していることも大事なことです。
比較対象として、インフルエンザワクチンの副反応について簡単に触れておきます。
厚生労働省によると、インフルエンザワクチンの副反応として比較的多くみられるのは接種した場所の赤み、腫れ、痛みなどで、10~20%に起こりますが、通常2~3日で消失するとしています。また、全身性の反応としては、発熱、頭痛、寒気、倦怠感などが5~10%に起こりますが、これも通常2~3日でなくなると説明しています。
まれな反応として、インフルエンザワクチンでもアナフィラキシーが起こることがあります。直近の集計では2019~2020年シーズンの5649万6152接種中8例(100万回あたり0.14例)が国際的な基準を満たすアナフィラキシーと判断されています。
千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター 特任助教、こびナビ 幹事
岡田 玲緒奈 先生の所属医療機関
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