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新型コロナウイルスの流行により進行がんが増える?〜医師が抱くがんの検知遅れへの危機感とは〜

新型コロナウイルスの流行により進行がんが増える?〜医師が抱くがんの検知遅れへの危機感とは〜
佐野 武 先生

公益財団法人 がん研究会有明病院 病院長

佐野 武 先生

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がんとは細胞の遺伝子に傷がつくことで発生する悪性の腫瘍(しゅよう)です。日本のがん統計では、2017年に新たにがんと診断された方の数は977,393人、2018年にがんで亡くなった方は373,584人といわれています。がんは臓器や遺伝子異常の種類などによって進行の速さや有効な治療が異なりますが、早期に発見できれば治癒の可能性が高まることが一般的で、早期発見・治療のために各機関ではがん検診などさまざまな取り組みが行われています。しかし、2020年は新型コロナウイルスの流行に伴いがん検診の実施数が大幅に減少し、がんと診断される患者の数も減少傾向にあるといいます。そこで今回はがん検診をテーマに新型コロナウイルスが日本にもたらした影響について、がん研有明病院 院長の佐野(さの) (たけし)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年9月3日時点の医師個人の知見に基づくものです。

日本のがん検診には“対策型検診”と“任意型検診”の2種類があり、これらはがんの早期発見に役立ちます。“検診でがんが見つかった”という場合には、いずれかの検診でがんが見つかったことを指します。まずはそれぞれの検診についてご紹介します。

対策型検診とは?――無料で受けられる公的な検診

対策型検診とはある集団や地域のがんによる死亡率を減少させる目的で、国や自治体が主体となって行う公的ながん検診をいいます。現在は検診の効果が確立している5種類のがん(胃がん大腸がん肺がん乳がん子宮頸(しきゅうけい)がん)に対して行われており、がんによって対象となる年齢や検診の間隔が異なります。

対策型検診は、基本的には対象の年齢になると無料で受けられます。しかし、日本では欧米と比較すると国民、特に女性の検診に対する意識が低く、受診率の低さが問題になっています。たとえば、乳がんや子宮がんの場合、欧米での検診受診率は80%以上といわれていますが、日本では40%に満たないという報告もあります。

任意型検診とは?――人間ドックなど自費で受ける検診

任意型検診とは、個人が自分の健康管理のために自費で受ける人間ドックや、保険組合などの補助で行う総合検診などのことをいいます。

任意型検診は、対策型検診よりも広い年齢層の方が受けられるほか、検査内容もさまざまに選択できます。たとえば、対策型検診では検査項目に入っていないPET検査*やCT検査、超音波(エコー)検査なども、受診者の希望に合わせて受けることが可能です。ただし、これらの検査のがん検診としての真の有効性はまだ確立していません。

*PET検査(陽電子放射断層撮影検査):放射能を含んだ薬剤を体内に投与し、特殊なカメラで撮影することによって腫瘍の有無や形状、悪性・良性の区別などを行う検査

検診に加えて、日本は医療機関を受診しやすい“アクセスのよさ”が強みとなっており、がんの早期発見につながっています。たとえば、日本では大きな医療機関でなくても本格的な検査機器を持っていることが多く、“ちょっとお腹が痛い”といった軽い症状でも医療機関を受診でき、必要に応じて本格的な検査を受けることができます。そのため、症状が軽いうちに検査を受けられ、まだ治療可能な段階のがんを見つけやすいといわれています。

一方、海外では一般的にここまでスムーズに検査を受けることができません。たとえば、イギリスでは胃痛などがあるとまず家庭医(General Practitioner)が診察を行います。ある程度の段階まで薬で様子をみて、どうにもよくならないということが明らかになって初めて病院を紹介され、検査を受けることになります。ただし、病院は混み合っていて検査まで1か月待ち、といったことが普通に起こります。こうして検査までに時間がかかってしまうために、早期がんを見つけることが困難になってしまうわけです。

医療システムは国によってまったく異なり、それぞれにメリット・デメリットがあり一概には言えませんが、日本は国民皆保険制度が整備されているため医療機関へのアクセスがよいことが強みといえるでしょう。検診を定期的に受ける、あるいは、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することでがんの早期発見が期待できるといえます。

新型コロナウイルス流行の影響により各検診施設が数か月ほど一時休止になったほか、再開後も受診者の受診控えが生じている施設もあり、今もがん検診の受診数が例年より減少した状態が続いています。たとえば、対策型のがん検診を実施している日本対がん協会では、2019年度の受診件数はおよそ1,100万件でしたが、2020年度は新型コロナウイルス流行の影響により受診件数が減少しており、例年より30%ほど減少すると予想しています。

新型コロナウイルスの流行によってストップしたのはがん検診だけではなく、医療機関の受診を控える方も増え、特に軽い症状による受診数が激減しました。そのため、これまでのように些細な症状がきっかけで医療機関を受診し、がんが見つかるということがとても少なくなりました。これに加え、感染拡大防止の観点からこれまでよりも実施が慎重に判断されるようになった検査もあります。日本内視鏡学会では、胃の内視鏡検査(胃カメラ)中の飛沫の発生が新型コロナウイルスの感染を拡大する危険があるということで、内視鏡検査を必要最低限にするようにという声明が発表されました。この声明によって医師が内視鏡検査をこれまでよりも控えるようになり、内視鏡検査の実施数も大幅に減少しました。つまり、医療機関を受診する方の数も減り、さらに内視鏡検査の実施件数も制限されてしまったために、がんが見つかる確率が大幅に減ってしまったということになります。

がん研有明病院に紹介されてくる患者の数も減少

多くの検診機関が一時休止し、医療機関の受診控えが顕著だった4~5月は、当然がんが見つかる数も大きく減りました。実際、がんと診断されて新たにがん研有明病院に紹介されてくる患者さんの数も、前年同月と比較して35%も減少しました。

現在は検診施設の再開や医療機関の受診数の回復によって、少しずつ紹介されてくる患者さんの数も増えてきましたが、それでもまだ完全に戻りきっていません。以前は平均して1日に35~45人の方が初診でお越しになっていましたが、今は30人を切ることも多いです。がんが見つかる数が減ったのはがんの発生数そのものが減ったからではなく、がん検診や医療機関への受診の流れが滞ったためです。つまり、本来なら見つかったはずのがんがいまだ見つかっておらず、知らないところで進行しているということですので、今後進行がんの発見数が増えることが懸念されます。

体調不良を我慢する人が増加

また、新型コロナウイルスの流行後は体調不良を極限まで我慢してから医療機関を受診する方も増えているようです。医療機関を受診したところ、かなり悪い状態でがんが見つかるという方もいます。

たとえば、ステージ4で胃がんが見つかると手術治療はできないことが一般的ですが、その患者さんの全身状態が悪くなければ、抗がん剤などの薬物療法で延命が期待できます。しかし、新型コロナウイルスの流行後は新型コロナウイルスにかかることが怖くて医療機関を受診できず、同じステージ4でも腹水がたくさん溜まっていたり、栄養状態が悪かったりして薬物療法が始められないほど悪化した状態でがんが見つかるという方もいます。このような患者さんに出会うと、私たち医師としても“もっと早く相談してほしかった”と悔しい気持ちになります。

現在は検診施設に限らず、医療機関では感染防止対策が行われています。新型コロナウイルスについてさまざまな情報が錯綜し、一般の方の中には“感染が怖い” “街を歩いているだけでも感染してしまうのではないか”と強い不安を感じている方もいます。しかし、新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染・接触感染であり、いわゆる3密を避けることで感染リスクがほとんどなくなるということも明らかになっていますので、医療機関ではそれに則した対策を行うことで感染拡大を防いでいます。

たとえば、当院の検診センターでは受診する皆さんにマスクの着用を徹底していただくほか、待合室に工夫を施し、間隔を開けて椅子に座っていただくようにしています。受付などにもシールドを設置し、スタッフと対面で会話するときの飛沫感染を予防しています。胃の内視鏡検査(胃カメラ)では前述のとおり、検査中に飛沫が飛びエアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子のこと)が生じるリスクがありますので、医療従事者はフェイスガード・マスク・ゴーグルを着用し、手袋などの消耗品は受診者ごとに取り替えます。また、検査台などを逐一消毒することによって、医療従事者や他の受診者への感染を予防しています。

新型コロナウイルスの流行によって“受ける予定だった検診がなくなった” “気になる症状があったが医療機関を受診しなかった”という方には、“もし新型コロナウイルスの流行がなければ、自分はどのような行動をとっていたか”ということを考えて行動していただきたいと考えます。たとえば受ける予定だった検診がなくなったのであれば、来年の検診を待つのではなく、今年中に検診を受けることを検討していただきたいですし、気になる症状があっても医療機関に行っていない方には、ぜひ医療機関を受診していただきたいです。後々進行したがんが見つかって“あの時検査を受けておけばよかった”と後悔することが一番残念なことだと思うからです。

毎年検診を受けている方は今年も受診してほしい

特に検診を受ける対象は現在何の症状もない方ですので、“また来年受ければいいか”と今年の検診を見送ってしまいがちだと思います。しかし、今年の検診を見送ってしまうとがんの発見が丸一年遅れてしまう可能性もありますので、可能な限り今年のうちに受診をしていただきたいと考えます。がんの進行スピードは発生する臓器やがんのタイプなどによって異なります。たとえば、早期の胃がんであれば、発見が3か月遅れたとしても3か月前と同じような治療ができる可能性が高いでしょう。一方、膵臓(すいぞう)がんや肺がんなどは進行スピードが早いものが多く、発見が3か月遅れると進行してしまい、治療が困難になる危険性があります。

早期発見により患者への負荷が軽減することもある

がん治療では早期発見が重要であることがよく知られています。これは、早期がんのほうが進行がんよりも根治しやすいからという理由ももちろんあるのですが、より早期に治療を開始したほうが患者さんにとって負担の少ない治療で済む可能性があるからという理由も大きいです。たとえば、同じ胃がんであってもごく早期のがんであれば、手術をせず内視鏡治療で治せる可能性があります。また仮に手術治療が必要でも、胃のはたらきを残す手術ができることもあり、手術後の抗がん剤治療が不要になる可能性もあります。

医療技術の進歩によって、進行したがんであっても根治や延命が可能になりつつありますが、早期に見つけたほうが患者さんの体への負担が小さい治療を選択できますので、やはりがん治療において早期発見は重要です。このような観点から、新型コロナウイルスの流行によって検診を受けないこと・医療機関を受診しないことで後々後悔しないでほしいと思っています。

検診で異常が指摘された場合は、次に大きな医療機関での精密検査に進みます。もし、この段階で躊躇している方がいらっしゃるなら、早急に受診をしていただきたいと思います。

今は“がんよりも新型コロナウイルスにかかることのほうが怖い”と考え受診を控える方もいますが、医師からすると新型コロナウイルスに怯えて適切な医療機関の受診をしないことのほうがよほど危険なことだと思います。たしかに新型コロナウイルス感染症は重症化すれば怖い病気ですが、感染経路が明らかになっており予防方法も明確です。また前述のとおり、医療機関では新型コロナウイルスに対するさまざまな感染防止対策を行っていますので、マスクの着用・こまめな手洗いなどの基本的な感染症予防をしたうえで来院し、精密検査を受けていただきたいと思います。

次記事では、新型コロナウイルスの流行によってがんの治療領域ではどのような影響があったのか詳しくご説明します。

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