ほくろとは、メラノサイトという色素細胞が集まってできた良性腫瘍で、医学的には色素性母斑や母斑細胞母斑と呼ばれます。この細胞にはメラニンが含まれているため茶色や黒のしみのような見た目をしており、平坦なものもあれば隆起しているものもあります。ほくろは良性腫瘍であるため通常治療を行う必要はありません。本人が希望する場合はほくろの除去が行われる場合もありますが、美容目的では保険適用外であることが一般的です。しかし、ときにほくろだと思っていたものが実は皮膚がんである可能性も考えられます。
では、どのようなほくろの場合にがんの可能性が考えられるのでしょうか。
ほくろは良性であり誰にでも生じるできものです。しかし、なかにはほくろによく似た皮膚がんもあり、がんの場合にはもちろん治療が必要となります。以下では、ほくろと似たがんについて解説します。
ほくろと見た目が似ているがんの1つに“悪性黒色腫(メラノーマ)”があります。これはメラニンを作り出す細胞(メラノサイト)の悪性化やほくろの悪性化によって発生するものと考えられています。数年かけて色が変化したり、サイズが大きくなったり、形や硬さが変わったりすることがあります。
基底細胞がんとは、表皮の中でもっとも内側に位置する基底層や毛が生える部分である毛包などから発生するがんです。初期症状として黒色や黒褐色の盛り上がった皮疹ができるため、ほくろと勘違いされることがよくあります。悪性黒色腫と同様に、数年かけてサイズが大きくなったり硬くなったりすることがあります。
ほくろとがんを自身で見分けるのは困難です。そのため、気になるほくろがある場合は皮膚科の受診を検討するとよいでしょう。
病院では、悪性黒色腫や基底細胞がんなどが疑われる場合は、まずダーモスコピーによる検査を行います。ダーモスコピーとは、特殊な拡大鏡で対象部分を10~30倍程度に拡大し明るく照らして観察するものです。そのほか、エコー検査、CT・MRI検査が行われることもあります。
また、がんの検査では生検(がんが疑われる部分の組織を切除して顕微鏡で観察する検査)を行います。基底細胞がんでは病変の一部を採取して検査することが一般的ですが、悪性黒色腫では可能な限り腫瘍一部ではなく腫瘍全体を切り取って生検を行うことが推奨されています。
悪性黒色腫の早期の症状として、ABCDE基準(ルール)と呼ばれる指標があり、下記の条件を満たしている場合は悪性黒色腫の可能性があるといわれています。
そのため、これらの条件に当てはまる場合は受診を検討しましょう。
ほくろを取り除くために、手術による切除とレーザーを照射する方法のいずれかが選択されます。どちらを行うかはほくろの形状や患者の希望によりますが、ほくろのがん化を心配するのであれば、手術によって完全に取り除いたほうが安心だと考えられます。ただし、手術の場合はケロイドや傷あとが残ることもあるため注意が必要です。
また、ほくろの治療は美容医療領域とも重なる部分があり、健康保険が適用されるかどうかは個々のケースによります。基本的に、ほくろによって生活に物理的な支障があり、切り取る必要がある場合は健康保険適用が可能なことがあります。一方、見た目の変化のみを目的としている場合は健康保険が適用されないといいます。
検査の結果ほくろではなく悪性黒色腫だった場合、リンパ節やほかの臓器への転移がなければ切除手術、転移がある場合は手術に加えて薬物療法や放射線治療などが状況に応じて選択されます。なお、基底細胞がんも治療の第一選択は手術による外科的切除です。必要に応じて薬物療法や放射線治療などが検討されることもあります。
ほくろはありふれたものなので、がんかどうかを過度に不安視する必要はありません。ただし、ごくまれに悪性黒色腫や基底細胞がんであることもあるので、ABCDE基準などに当てはまる場合やほくろの大きさ、色、硬さなどに変化を感じる場合は皮膚科の受診を検討するとよいでしょう。
また、悪性黒色腫では多量の紫外線による影響が示唆されているため、日焼け止めの使用や帽子、長袖の着用、日傘などでできるだけ紫外線を避けるとよいとされています。そのため、普段から紫外線対策を心がけるようにしましょう。
愛知医科大学 皮膚科 教授
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