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インタビュー

皮膚悪性腫瘍の病態と最新治療

皮膚悪性腫瘍の病態と最新治療
眞鍋 求 先生

秋田大学 名誉教授、医療法人惇慧会 名誉院長

眞鍋 求 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年05月11日です。

皮膚悪性腫瘍は体の内部にできる悪性腫瘍と異なり、体の表面に存在します。そのため、患者さんご自身が腫瘍を自分の目で見つけることができるので、早く適切な治療を受けることにより、皮膚悪性腫瘍は完治が期待できます。今回は、皮膚悪性腫瘍の病態と最新治療について、秋田大学医学部皮膚科学・形成外科学講座教授の眞鍋求(まなべ・もとむ)先生にうかがいました。

皮膚は表面に近い部分から順に、表皮・真皮・皮下組織の3つの層でできており、表皮を構成するのが「角化細胞」です。この角化細胞由来の悪性腫瘍として、腫瘍細胞が表皮の中にとどまっている状態が「日光角化症」「ボーエン病」「乳房外パジェット病」です。また腫瘍細胞が真皮・皮下組織へたどり着いた状態が「基底細胞がん」と「有棘細胞がん」です。さらに、表皮の中で角化細胞と共存している「色素細胞」ががん化した状態が「メラノーマ悪性黒色腫)」です。

この記事では皮膚悪性腫瘍の原因と最新の治療法について解説します。先に挙げた腫瘍の詳しい症状について知りたい方は、『皮膚がんの種類と症状を写真で解説!ほくろやシミとの違いは?』 『メラノーマ(悪性黒色腫・皮膚がん)と「ほくろ」の違いは? メラノーマの特徴を写真で解説』をご覧ください。

多くの皮膚悪性腫瘍は日光の当たる部位にできることから、紫外線が大きな原因だと考えられています。また、紫外線以外の原因として、ヒ素やタールなどの化学物質、放射線の被ばく、また子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルスも知られています。

皮膚に悪性腫瘍が発生する理由は、これらの原因によって、私たちの体を作る設計図である遺伝子に傷がつくからです。長期間にわたり遺伝子に傷がつくことを繰り返しているうちに、誤った情報が遺伝子に蓄積されてしまいます。その結果、誤った設計図(傷ついた遺伝子)から生まれ、強い増殖・生存能力を獲得した細胞が腫瘍細胞です。

上に述べた皮膚悪性腫瘍における遺伝子の異常について、もう少し詳しく解説しましょう。

私たちの体を作る設計図(遺伝子)の中で、たんぱく質の作り方が書かれている部分はエクソンと呼ばれています。最近の研究により、有棘細胞がんのエクソン部分には、約1,300個の変異が見つかりました。この変異の大半は、腫瘍細胞が生まれる過程に直接関係の無い変異(パッセンジャー変異)です。一方、腫瘍細胞に特徴的な強い増殖・生存能力に関連した変異は、ドライバー変異と呼ばれています。

有棘細胞がんではTP53CDKN2AHRAS・NOTCHKNSTRN・KMT2D、メラノーマではTP53CDKN2A・NRASBRAFKIT・PIK3CA・PTENNF1TERTなどの遺伝子にこのドライバー変異があることが知られています。これら多くのドライバー変異により角化細胞の性質に異常を生じると有棘細胞がん、色素細胞の性質に異常を生じるとメラノーマにそれぞれ変化します。

悪性腫瘍の遺伝子変異に関する研究成果は,新しい薬剤の開発や薬剤の効果予測などに役立っています。しかし、最近の研究により、さまざまな遺伝子の異常を持った細胞が寄り集まって腫瘍を形成することがわかってきました。つまり、腫瘍を構成しているのは均一の細胞ではないのです。

そのため、ある薬剤が特定の細胞に有効でも、他の細胞には無効なため、腫瘍全体にはあまり効果がない可能性があります。そこで将来においては、患者さん一人ひとりの腫瘍を詳しく調べて、腫瘍全体における遺伝子変異の全貌を明らかにしたうえで適切な治療法を選択していく、いわゆるゲノム医療という方法を導入していく必要があります。

治療の基本は外科手術による切除です。個々の腫瘍によって切除する範囲が異なります。日光角化症ボーエン病では腫瘍の辺縁から1~4 mm、乳房外パジェット病では10mm、基底細胞がんでは4mm~10mm、大半の有棘細胞がんでは6mm~10mm離して切除します。

また、メラノーマでは病変が表皮内に留まっているなら腫瘍の辺縁から5mm、病変の厚さが1 mm以内なら10mm、病変の厚さが1~2mmなら10〜20mm、病変の厚さが2mm以上かリンパ節転移があれば20mm離して切除します。さらに、乳房外パジェット病・有棘細胞がん・メラノーマでは、全身検査によりリンパ節転移が疑われた場合には、リンパ節を郭清することがあります。

日光角化症が多発している場合やボーエン病が超高齢者に生じた場合に、簡便な治療法としてよく選択される治療法が冷凍凝固術です。冷凍凝固術とは、液体窒素を綿棒につけて、病変部に押し当てる方法です。

また、炎症惹起物質であるイミキモド(ボーエン病は保険適用外)や抗がん剤の一種であるフルオロウラシルの外用も有効です。しかし、上記の治療で治りにくい場合には、病変が真皮内に浸潤している可能性があることから、外科手術により切除するべきです。

日光角化症やボーエン病は放置すると有棘細胞がんへと移行することがありますが、早期に発見し早期に治療することにより完治します。

基底細胞がん・有棘細胞がん・乳房外パジェット病などの角化細胞由来の腫瘍は、放射線に高い感受性を示します。そこで、何らかの理由で手術ができない場合には、外科手術と比較すると治療成績は劣りますが、放射線の局所照射が選択されます。また、再発する危険性が高い場合にも、術後に放射線の局所照射を行うことがあります。

色素細胞由来の腫瘍であるメラノーマは、放射線への感受性が低いと考えられています。しかし、メラノーマが脳へ遠隔転移した場合には、転移や再発に伴う痛みなどの身体的症状を和らげる効果を期待して、ガンマナイフなどによる定位放射線照射が行われることがあります。

細胞障害性抗がん剤

皮膚悪性腫瘍に対する抗がん剤の効果は、残念ながら限定的です。そのため現時点では、抗がん剤を用いた治療法は、手術や放射線療法の代替療法として、症状の進展を少しでも抑制することを期待して行われます。

しかし最近、複数の薬剤を組み合わせたり、放射線療法と抗がん剤を併用したりする治療法が試みられていますので、これまでより治療成績が向上することが期待されます。

分子標的治療薬

病態の項目で述べた「ドライバー変異」を有する遺伝子に由来するたんぱく質を標的とした薬剤(分子標的治療薬)の開発が盛んに行われています。BRAF遺伝子はBRAFたんぱく質を作る遺伝子ですが、BRAFたんぱく質は細胞の増殖に重要な役割を果たしています(図1)。メラノーマにおいてBRAF遺伝子が変異すると、BRAFたんぱく質は恒常的に活性化した状態になり、そのため細胞の増殖が亢進します。さらに、活性状態となったBRAFたんぱく質は、次にMEKたんぱく質を活性化させ、メラノーマ細胞の中で細胞の増殖や生存に関連したシグナルが次々に伝達されていきます(図1)。

分子標的薬

図1 分子標的薬の仕組み

これらの研究成果をもとに、BRAFたんぱく質やMEKたんぱく質の作用を阻害する薬剤が開発され、メラノーマに対する分子標的治療薬として用いられています。BRAF阻害剤は変異を起こしたBRAFたんぱく質の作用、MEK阻害剤はBRAFたんぱく質が次に増殖のシグナルを伝えるMEKたんぱく質の作用を各々阻害することにより、メラノーマ細胞の増殖を抑えます(図1)。実際にこの2剤を同時に併用すると、海外の臨床試験では腫瘍が遠隔転移したステージ4の患者さんにおいて、早い効果発現と高い奏効率(腫瘍縮小効果)が認められています。しかし、日本人の3割程度にしかBRAF遺伝子の変異がないため、本剤の適応となる患者さんは限られています。

また、薬剤の即効性が注目される一方で、投与を継続しているうちに効果が減弱する、有棘細胞がんなどの他の皮膚腫瘍ができる、他の臓器に障害を起こす、などという問題点も指摘されています。そのため、他の治療法とどのように組み合わせていくかが今後の課題です。

免疫チェックポイント阻害薬

「免疫チェックポイント阻害薬」による免疫療法が、新しい治療法として大きな注目を集めています。腫瘍細胞は自分を攻撃する免疫細胞の働きにブレーキをかけて生き延びようとしますが、免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを解除する作用のある薬です。その結果、免疫細胞が活性化して、腫瘍細胞を攻撃できるようになります(図2)。

分子標的薬 2

図2 免疫チェックポイント阻害薬の仕組み

皮膚悪性腫瘍の中では、手術ができない場合や再発転移した場合のメラノーマに免疫チェックポイント阻害薬が用いられています。海外の臨床試験では腫瘍が遠隔転移したステージ4の患者さんにおいて、投与2年後における生存期間の延長が報告されており、奏効例では長期間効果が持続しています。

今後は複数の免疫チェックポイント阻害薬を併用する、放射線療法・抗がん剤・分子標的治療薬などと組み合わせることで、より高い効果が得られる治療法が開発されていくものと思われます。しかし、免疫チェックポイント阻害薬は、免疫関連有害事象と呼ばれる独特の副作用があり、他科と緊密に連携したチーム医療が求められます。

さらに、高額な治療費も問題となっており、これに対する適切な対応も今後の課題といえます。

腫瘍溶解性ウイルス

ウイルスに感染した小児がん患者の腫瘍が小さくなることが報告されて以来、ウイルスに抗腫瘍作用があることが予想されてきました。そして、ここ数年の間に、腫瘍溶解性ウイルスを用いた治療法の開発が飛躍的に進んでいます。

腫瘍溶解性ウイルスは正常な細胞内ではほとんど増殖せず、腫瘍細胞の内部だけで増殖します(図3)。抗がん剤や放射線と異なり、腫瘍溶解性ウイルスは腫瘍細胞を選択的に破壊するのが特徴です(図3)。

腫瘍溶解性ウィルス療法 3

図3 腫瘍溶解性ウイルス療法の仕組み

日本でもメラノーマに対して「自然変異弱毒型単純ヘルペスウイルス」と先に述べた免疫チェックポイント阻害薬を併用した臨床試験が進められています。

ウイルスは様々な感染症を引き起こすことから、よいイメージがありませんが、ウイルスを利用した悪性腫瘍の治療法が近年中に実現するでしょう。

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