
味覚障害とは、甘味、辛味などの味覚に異常が現れることを指します。このような味覚障害はがん患者も生じることがあり、主に食べ物に対する味が感じられなくなる、逆に味が濃く感じる、何も食べていないのに口の中で塩味や苦味を感じるなどの症状があるといいます。そこで本記事では、がん患者が生じる味覚障害の原因や、その対処方法について詳しく解説します。
がん患者における味覚障害は、主にがんの発症、またはがん治療に伴った味覚、口内環境、嗅覚の変化を原因としています。特に抗がん剤治療や放射線治療の後に起こることが一般的です。詳細は以下のとおりです。
舌には味蕾と呼ばれる味細胞が多く分布しており、これに食べ物が触れることで味を感知することができます。しかし、薬物療法や口周辺への放射線照射によって味細胞が傷ついたり、味細胞をつくるのに必要な亜鉛や鉄の吸収が阻害されたりすると味覚障害につながります。
舌や歯、歯茎が汚れたままだったり、口内の乾燥や唾液分泌の減少が起こったりすると、味覚に変化が起きることがあります。口周辺に放射線治療を行った場合は唾液腺が萎縮することがあり、これによって唾液の分泌が少なくなることに伴って味覚障害が起きることもあります。また、がん患者は免疫力が低下していることも多く、それが原因で口の中に感染症が発生すると口内環境が変化して味覚が変わることもあります。
嗅覚の低下は味覚の低下と大きく関係しているため、薬物療法や放射線治療によって嗅細胞が傷つくことで味覚障害が起きることがあります。
そもそも人が味を感じるのは脳が味覚と嗅覚の両方の情報を統合して風味として認識しているため、嗅覚が低下することで味覚にも異常が生じてしまうのです。このことからも、鼻腔がんなどの場合はがんの発症や手術によって嗅覚が変化して味覚障害を生じることがあります。
がん患者が味覚障害を生じている場合、医療機関では薬の処方や口腔内ケアの指導を行います。
味覚障害の原因が体内の亜鉛や鉄の量に関係している場合は、それらを補う薬が処方されます。また、唾液分泌の低下が原因である場合は、唾液の分泌を促す薬や人口唾液が処方されます。さらに、歯磨きや保湿など口腔内のケアで味覚障害が改善することもあるため、口腔内ケアの指導が行われることもあります。薬物療法に伴う味覚障害は薬を使わなくなれば数か月程度で改善するといわれていますが、長く持続する場合もあり、患者によって異なります。
治療や対処法はがん患者によって異なるため、担当医とよく相談しながら治療を進めるようにしましょう。
セルフケアとしては、がん患者は以下の対策を試してみるとよいでしょう。ただし、治療や対処法は患者一人ひとりで異なるため、担当医とよく相談しながら実施するとよいでしょう。
舌や歯、歯茎が汚れていると味覚障害につながることがあるため、食後や就寝前など1日に2~4回程度口腔ケアを行います。歯ブラシは毛の柔らかいものを使い、舌や歯、歯茎を優しくブラッシングします。また、うがいも小まめに行うとよいとされています。入れ歯の方は食後に必ず口をゆすぎ、1日2回は柔らかいスポンジブラシなどで歯茎や舌をブラッシングしましょう。
唾液の分泌が少なくなって口の中が乾燥している場合は口腔内の保湿も行いましょう。水で濡らしたガーゼで口元を拭いたり、市販の口腔保湿剤を使ったりするとよいでしょう。また、ガムをかむ、食事はよくかんで食べることなどを心がけると唾液の分泌を促すことができます。
味覚の変化を感じる場合は味付けや調理法を工夫することで味覚障害を補い、食事を楽しめる可能性もあります。たとえば塩味や醤油を苦いと感じる場合は甘味や酸味が中心の味付けに変えてみたり、ドレッシングや香辛料で味の調整がしやすい料理を選んだりするとよいでしょう。また、肉や魚がサビ臭く感じる場合は、アク抜き、臭み抜きをすることで改善されることがあります。
口の中が乾燥する場合は、シチューやスープなどの水分の多い料理や、ゼリー寄せなどのなめらかなものを選ぶとよいでしょう。また、金属製のスプーンなどで苦味を感じる方は素材をプラスチックや木製に変えてみることで和らげることができるといいます。
がん患者に生じる味覚の変化は、一定期間を過ぎると改善することが一般的です。しかし、味覚障害によって食欲が低下したり、栄養不足に陥ったりすることもあるため、必要に応じて適切な治療やケアを行うことが非常に重要です。いずれにせよ、味覚に気になる異変を感じたら担当医や看護師、栄養士に相談するとよいでしょう。
がん研有明病院 乳腺内科 部長
がん研有明病院 乳腺内科 部長
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医日本乳癌学会 乳腺専門医
東京共済病院、帝京大学病院での腫瘍内科立ち上げに携わったのち、2010年4月から虎の門病院臨床腫瘍科に部長として就任。3つ目となる腫瘍内科を立ち上げた。「日本一の腫瘍内科をつくる」ことを目標としており、診療、教育、研究のすべての面においてこれまでにない新しい試みをしている。
Human-Based Medicine (HBM; 人間の人間に拠る人間のための医療)を掲げ、悪性腫瘍一般の薬物療法と緩和ケアに取り組みつつ、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医、西日本がん研究機構乳腺委員長として、日本における腫瘍内科と臨床試験の発展にも力を注いでいる。
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