前記事(遺伝子情報に合わせたがん治療「がんゲノム医療」とは―北海道大学 木下一郎先生へのインタビュー)では、せっかく検査によって遺伝子変異が明らかになってもその結果に伴った治療を受けられないことがあることをお伝えしました。そこでがん治療では、厚生労働省が行う「患者申出療養制度」を活用し、患者さんの申し出によって適応外の治療薬の使用を検討できる臨床試験が始まっています。今回は、北海道大学病院がん遺伝子診断部長・教授の木下一郎先生に患者申出療養制度の概要や対象となる患者さんの特徴、申出後の流れなどについてお話を伺いました。
患者申出療養制度とは、その病気に対して未承認・適応外の治療薬がある場合に、患者さんの申し出があれば、医師が安全性・有効性を確認したうえで未承認・適応外の治療薬を使用することのできる制度です。
患者さんが「海外では認められている治療薬を日本で使用したい」「自分は治験の対象にはならないが、同じ治療を受けてみたい」などの希望を持つ場合に、主治医と相談して患者さん側から申し出ることができます。
たとえばがん治療の場合、標準治療後にがん遺伝子プロファイリング検査を受けると、さまざまな遺伝子変異が見つかることがあります。本来なら見つかった遺伝子変異に合わせた治療薬を使いたいところですが、効果が期待される治療薬が未承認薬や適応外薬で、その時点で治験や臨床研究も行われていなかった場合、「試したい薬があるのに試せない」という状況に陥ってしまいます。このような場合に患者申出療養制度を利用すると、医師が安全性・有効性を考慮し、この治療薬を使用してもよいかどうかを確認したうえで投与を検討することができます。
この制度を利用すると、一定の制限はあるものの患者さんが自ら望んだ治療を受けられるというメリットがあります。また実際に患者さんに未承認・適応外の治療薬を使用することによって、有効性や安全性の確立に役立ち、将来的にこれらの薬が保険適用となるための評価の足がかりにつながることも期待できます。
患者さんから患者申出療養制度の申出があった場合、まずは地域の臨床研究中核病院が治療計画書を作成し、厚生労働省に申請をします。厚生労働省が計画書などを基に安全性・有効性を検討し、実施してもよいと判断した場合、実際に治療が行われます。
ただし、治療計画書の作成は非常に時間がかかり、厚生労働省の検討期間を含めると実際に治療が行われるまでに6か月以上かかることが予想されます。この待ち時間を解消するために、がん医療では国立がん研究センター中央病院が中心となって、より多くの患者さんに希望する治療を受けてもらえるよう、患者申出療養制度を活用した「受け皿試験」を実施しています。
受け皿試験では、あらかじめ複数のがん種・遺伝子異常の患者さんに適応外薬を投与する研究計画書を作成することにより、患者さんの申し出後、速やかに治療を受けられます。また、医療従事者も資料作成をする時間が短縮されます。
患者申出療養制度を活用した受け皿試験の対象となるのは、がん遺伝子プロファイリング検査を受けた固形がんの患者さんです。また、単にがん遺伝子プロファイリング検査を受けただけではなく、がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院などで実施される「エキスパートパネル」というがんゲノム医療の専門家が集まって行うカンファレンスで話し合われ、臨床的な有用性の報告があって適応外薬が推奨された結果があることが申出の条件となっています。現在約20種類の薬剤が使用可能です。なお、本試験では未承認薬は対象としていません。
ただし、もし使用したい適応外薬に対してその時点で条件の合致した治験があった場合には、患者申出療養制度よりも治験が優先されます。これは、治験はその治療薬の承認を目指して行われるものであり、患者申出療養制度よりも明確に治療薬の適応拡大につながるチャンスがあるからです。そのため、患者申出療養制度を利用する患者さんは必然的に治験が行われていないような珍しいがんや遺伝子変異を持つ方が多いということになります。
通常、日本では混合診療(保険診療と保険外診療を組み合わせること)が認められていませんので、未承認薬や適応外薬で治療を行う場合には入院料などを含めて全てが保険外診療となり、自己負担額が高額になってしまいます。しかし患者申出療養制度では、保険診療と保険外診療を併用することが認められているため、未承認薬や適応外薬を使用する場合でも医療費の負担が軽く済むことが期待できます。
患者申出療養制度下の受け皿試験に参加して治療を行うと、保険診療でかかる費用とは別に試験を適正に実施するために必要な費用として最初に40万円ほど患者さんに負担していただくことになります。しかし、実際に使用する治療薬に関しては治験同様、製薬会社から無償で提供されますので、薬剤にかかる費用は無料です。長期間治療を継続しても追加で薬剤の費用がかかることはありません。
当院は臨床研究中核病院として、患者申出療養制度に基づく本試験の実施を推進しています。患者申出療養制度の利用を希望する患者さんの中には、残された時間が短い方も少なくありません。そのような患者さんにも速やかに治療を受けていただけるよう、当院では、がん遺伝子診断部と腫瘍内科を中心とした診療科医師、がんゲノム医療コーディネーター、臨床研究コーディネーターなどの医療スタッフの連携を強めて、治療や申出に対する対応を行っています。
北海道大学病院 がん遺伝子診断部 部長・教授、同 腫瘍内科 (兼任)、同 腫瘍センター (副センター長、兼任)
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