
疲れやすい、体がだるい、億劫、集中力が低下するなどの疲れの感覚を“倦怠感”といいます。がんに伴う症状の中でも倦怠感はよくみられるもので、数日でおさまる場合もあれば原因によっては数か月から数年続くこともあります。
原因は多岐にわたりますが、倦怠感に対する治療法は十分に確立されていません。しかし、完全に取り除くことは難しいものの、原因に対する薬物療法、運動やリラクゼーションといった生活上の対策によって軽減することもあります。
がん患者に疲れなどの倦怠感が生じる原因にはがん自体によるものや、がん治療(抗がん剤治療、放射線療法、手術療法など)によるもの、がんに伴った合併症によるもの、がんに関連するストレスによるものなどが挙げられます。これら多くの原因が影響し合って疲れやすくなると考えられています。
がんにかかると、腫瘍が発生したことによる体の中のさまざまな変化によって疲れが生じることがあると考えられています。たとえば、がんの進行に伴って貧血や臓器不全、がん悪液質*が生じたり、免疫機能が低下し感染症にかかったりすることで、疲れが現れることがあります。
*がん悪液質……骨や筋肉が減少し、進行性の機能障害に陥る状態
がん治療においては、特に薬物療法で用いられる抗がん剤の副作用として疲れなどの倦怠感が高頻度に出現することが知られており、日本の調査では抗がん剤治療を受ける患者さんの70%以上に倦怠感が認められています。
また、放射線療法で疲れが生じる場合もあるほか、吐き気・嘔吐、食欲不振、頭痛といった症状が併せてみられることもあります。放射線療法に伴う種々の症状は一般的に治療終了から数日程度でおさまります。なお、がんの摘出手術を行った後に疲れが生じることもあります。
がんであることによるショックや不安がストレスとなって、気持ちが落ち込んだり睡眠不足になったりすることも疲れの原因になります。また、頻回な通院による疲れ、活動制限によるストレスも疲れの原因に挙げられます。
がんに伴う疲れ(倦怠感)に対する治療は難しく、現在のところ有効な治療法は十分に確立されていません(2020年6月時点)。しかし、原因となりうる症状(痛み、貧血、不安、不眠など)がある場合には、それらの症状を緩和させる治療を行うことで疲れが軽くなる場合があります。具体的にはそれぞれの症状に対して効果が期待できる薬を用いたり、運動療法を行ったりします。そのほか、主に終末期の患者に対してステロイド薬を用いることもあります。
このように医師は患者の疲れを取り除くようさまざまな治療を検討しますが、完全に取り除くことが難しい場合もあります。そのため、医師の指導のもと自分自身でできる対処法を行い、生活の中で上手に付き合っていくことも非常に重要となります。
いずれにしても疲れがあると生活の質が落ちてしまうため、疲れが強い場合や長く続いているような場合には、担当医や看護師に相談するのがよいでしょう。
疲れが強い時間帯と弱い時間帯を把握して、疲れが弱い時間帯に1日の中で優先度の高い活動をするように心がけましょう。また、疲れが強い時間帯には身の回りのことを家族や身近な人に手伝ってもらうなど、症状の程度に合わせて生活を送るとよいでしょう。
そのうえで休息時間を確保する、可能な範囲で運動やマッサージをする、リラクゼーションや気分転換をするなどして疲れの軽減を図ることが大切です。
疲れがあるときには症状の程度にかかわらず、無理をせずに楽な姿勢で休息を取りましょう。日中においては活動と休息のバランスを意識し、こまめに休息を取ると疲れが回復しやすくなるといわれています。夜、寝つきが悪い場合には、睡眠薬や抗不安薬などの薬を処方してもらえる場合もあるため、担当医に相談してみるのがよいでしょう。
有酸素運動(ウォーキング、ヨガ、体操など)やストレッチ・マッサージによって全身の持久力が改善することや緊張感が和らぐことで、疲れが軽くなる場合があります。医師に相談のうえ、体調が許す範囲で実践してみましょう。
がんであることに対するショックや将来への不安、つらい症状を抱えながら治療を続けていくことは心身ともに大きなストレスがかかるものです。ストレスは疲れを強くする原因の1つに挙げられ、精神的に安定した状態に保つことが倦怠感の軽減につながります。音楽やアロマテラピー、体調がよいときは散歩や趣味を楽しむなど、リラクゼーションや気分転換をする時間を作ってみましょう。
がんに伴う疲れは、原因によって数か月から数年続くこともあり、その場合には倦怠感と長く付き合っていかなければなりません。主な治療に薬物療法がありますが、薬物療法で完全に倦怠感を取り除くことは難しく、治療には限界があります。そのため、倦怠感を軽くするには自分でできる対処を行うことも重要です。いずれにせよ、疲れなどに対する対策については、担当の医師や看護師に相談するようにしましょう。
医療社団法人小磯診療所 理事長
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