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横須賀市の「在宅医療」 連携のとれた地域医療の実現に向けて

横須賀市の「在宅医療」 連携のとれた地域医療の実現に向けて
磯崎 哲男 先生

医療社団法人小磯診療所 理事長

磯崎 哲男 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年03月15日です。

近年、患者さんの住み慣れた自宅で診療・治療をおこなう「在宅医療」のニーズが高まっています。そうしたなか厚生労働省は在宅医療を進めていくために、いくつかの地域を「モデル」とした推進事業をおこないました。

そのモデルとなった地域のひとつが神奈川県 横須賀市です。この事業をきっかけに横須賀市地域で進められた在宅医療の取り組みは、のちに「在宅医療の先進事例」として高く評価されるようになりました。この取り組みの内容を共有するため、2017年11月2日に横須賀市医師会で「横須賀市と山形県の在宅医療推進事例についての会議」が行われました。横須賀市はいったいどのように在宅医療を推進させたのか、会議の内容からそのポイントについて解説します。

横須賀市は神奈川県のなかでも高齢化が進む地域です。高齢化率は約30%で、これは神奈川県全体の高齢化率と比べると高いといえます。

※平成29年(2017年)4月時点

高齢化率が高まることで、亡くなられる方の数も増えていくと予想されますが、横須賀市内の病院での「お看取り件数」はほぼ横ばいです。つまり横須賀市では亡くなられる方が増えているにもかかわらず、病院で亡くなられる方はあまり増えていないといえます。

これは「自宅でお看取りをされている方が増加した」ことが要因ではないかと考えられています。つまり横須賀市では、在宅での療養や看取りをおこなう市民が増えているとも推測されます。こうした市民のニーズに応えるため「在宅で療養し、在宅で看取る」という地域の体制づくりが必要です。

在宅医療ではそれぞれの地域の医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護福祉士、地域包括支援センター職員、ヘルパーといった多くの職種の方がかかわります。そのため横須賀市では「多職種をいかに連携させるか」という課題に向き合い続け、さまざまな取り組みをおこないました。

その結果、横須賀市の取り組みは「在宅医療推進の先進的な成功事例」として評価されるようになりました。取り組みのコアメンバーであった横須賀市健康部地域医療推進課 次長の川名理恵子氏、そして横須賀市医師会副会長の千場純先生は、厚労省の在宅医療推進プラン強化セミナーのアドバイザーにも誘致されました。

平成27年からは「在宅医療・介護連携推進事業」がはじまり、全国の市町村で在宅医療の推進が求められるようになりました。そのため全国各地で「どのように在宅医療を推進させるのか」が課題となっていくと考えられます。

▲(左)横須賀市健康部地域医療推進課 次長 川名理恵子氏、(右)医療法人社団 小磯診療所の磯崎哲男先生

在宅医療をすすめるためには、多職種の方々の関係性構築がとても重要です。横須賀市ではいったいどのように動き、多職種の方々の協力を得ていったのでしょうか。横須賀市健康部地域医療推進課 課長の川名理恵子氏に解説いただきました。

 

川名氏:地域連携のポイントにはこのようなものが挙げられます。

取り組みを進めるうえではデータ集めが重要です。

私たちは当初、横須賀市の在宅医療の現状に関するデータを全くもちあわせていませんでした。ですから「横須賀市の基本情報」「高齢化率」「病院・自宅でのお看取り件数」などは必要に応じて都度あつめていきました。

しっかりとデータを集めていくことは、その後にとても役立ちます。たとえば多職種の方々へ連携の協力を依頼するときや、市民の方への説明のときに、具体的なデータがあったほうが共通認識をもっていただけます。

データをあつめるには、行政内のほかの部署からいただく必要もあり、部署を超えたやり取りが必要です。周囲と連携をとってあつめられるときにそろえていくことがお勧めです。

取り組みがはじまったとき、まず「多職種の連携にはなにが必要だろう?」と考えました。そこで私たちは関係各所へヒアリングに向かいました。

私たち健康部地域医療推進課には、当初、医療や介護といった分野に所縁をもつ人はいませんでした。まずは現場のことを理解しようと思い、それぞれの役職の方々の元へお話を伺おうとしたのです。

市の医師会、介護士、ヘルパー、ケアマネジャーなどさまざまな方に個別にヒアリングすると、さまざまな意見や本音を伺うことができました。このヒアリング内容に多職種を連携させる多くのヒントがありました。

それぞれの立場の意見を伺っていると、みんながしっかりと顔のみえる関係になって、コミュニケーションをとることがとても大切だと感じるようになりました。そこで「多職種が一堂に会して同じテーブルで話し合う」機会をつくることにしました。

この会をつくったところ、参加してくださる方々が想像よりも多くいらっしゃいました。このような機会を通じて、事前に課題を引き出すことがとても重要だと感じました。

私たち市の職員も、熱量をもって取り組むことが重要です。

在宅医療に関わる多職種の方々は、熱い想いを持っている方がたくさんいらっしゃいます。ですから市の職員側も「なぜこうした取り組みが必要なのか」をしっかりと伝えなくてはいけません。市が「やらなくてはいけないからやっている」という気持ちをもっていると、その気持ちは現場の方々に伝わってしまいます。

また多職種の方に協力いただくために、私たちも時間を割く覚悟が大切です。多職種の方々は夕方からの時間に連携会議を行うこともあります。市職員にとって、その時間が職務時間外の可能性もありますが、そうした会議にもできる限り参加していくようにしました。

「これをやったらどうか」という意見が他職種の方から出てきたとき、行政側が足踏みしていては何も進みません。できることから始めたほうがいいと考えています。意見に対してどうしたらいいかを一緒に考えていくことが大切です。ぜひ躊躇しないで行動していくべきだと思います。

こうした姿勢で取り組みを続けると、今まで考えられないような企画が自然に立ち上がっていきました。たとえば介護福祉士、ヘルパーそれぞれの協議会が声を掛け合って、会議を計画されていました。これはお互い顔が見えて議論する環境を作るにはどうしたらいいかと考え、それぞれの職種間で企画された会議でした。このようなことが、行政が企画しなくてもどんどん起こっていきました。地域が動くということを実感した瞬間です。

こうした動きができ、もし会議に行政の参加を呼びかけられたら、職員ができるかぎり参加していくよう心掛けました。こうした姿勢が、より多職種と行政の結びつきを強くします。また、私たちも「地域が動いてきた」ということを実感できる機会になると思います。

行政は部署ごとに業務が分かれ、縦割り行政ともよばれると思います。

しかし縦割りの組織のなかでも「横に連携していくこと」がとても大事だと思っています。また同じ部署内でも、業務の担当者が異なることで情報の共有が不足していることもあると思います。よりよい取り組みにしていくために、同じ部署、同じ組織内でも連携を強化することが大切だと思います。

▲(左)横須賀市健康部地域医療推進課 係長 竹本豊氏、(中央左)横須賀市健康部地域医療推進課 次長 川名理恵子氏、(中央右)医療法人社団 小磯診療所の磯崎哲男先生、(右)横須賀市医師会副会長 千場純先生

また、在宅医療を推進するうえでは地域の「医師会」との密な連携が欠かせません。横須賀市は、横須賀市医師会とどのような連携を取っているのか、横須賀市医師会かもめ広場の組織員である、横須賀市医師会副会長の千場純先生、医療法人社団 小磯診療所の磯崎哲男先生に解説いただきました。

千場先生:もともと横須賀市医師会には、介護支援専門員(ケアマネジャー)との連携会議や、在宅医療勉強会の開催など、地域医療を推進させていく方向性ができていました。そうしたなか平成10年(1998年)厚生労働省の「国/県 地域連携推進モデル事業」平成モデル事業をはじめとして、県や市の公的事業、大学の研究助成なども受けたことで、多くの地域医療連携に取り組んできました。

そして平成23年(2011年)の「在宅医療連携会議」をきっかけに、横須賀市の行政との連携が始まりました。ですから平成23年以降というのは、医師会と行政との連携が進んだ時代に入ってきたといえます。

その後、横須賀市医師会のもっとも大きな節目となったのは、平成24年の厚生労働省「在宅医療連携拠点事業」の開設です。厚生労働省が在宅医療の連携をおこなう拠点を募集し、これに横須賀市医師会の「かもめ広場グループ」が手を上げ、採択されました。これを機に、医師会、横須賀市、神奈川県との三位一体の連携が大きく推進されていきました。

磯崎先生:かもめ広場は、横須賀市医師会のなかにつくられた「在宅医療推進事業の拠点組織」です。かもめ広場が、医師会と行政が連携するときの窓口になっています。

かもめ広場では、地域に住む高齢の方や障害を抱えた方が最後まで自分らしく地域に住み続けることを目的に、必要な医療の確保と支援をしていく活動をおこないます。

これまでにはこのような活動をおこなってきました。

  • 在宅医療にかかわる医療従事者への支援
  • 多職種連携の強化
  • 在宅医療・介護関係者の人材育成
  • 地域の方々へ「在宅医療」についての啓発活動
  • 地域医療の調査研究

地域の在宅医療が推進されるよう、冊子を制作してわかりやすく取り組みを進めたり、ICTシステムを導入したりして多職種の方々の連携をさらに強化できるネットワークをつくるなど、さまざまな活動をおこなってきました。

行政と連携をとりつつ、地域医療づくりの先行事例を数多く推進させていけるよう取り組みを進めています。

川名氏:ほかの県の行政職員の方から「どのように医師会の方々との協力体制を築いたのか?」とご質問いただくことがあります。

横須賀市は昭和56年(1981年)に高齢者の疾患調査、そして昭和57年(1982年)からは訪問介護事業を、厚労省に先立って独自の予算でおこなってきました。

そのような土台があったうえで、平成12年(2000年)から介護保険制度が始まりました。そのときにはまだ「多職種連携」という言葉はありませんでしたが、志ある医師の方々と、地域の保健師、ケアマネジャーの方々が、地域で連携を取っていくための小さな会議をおこなっていました。

横須賀市の行政は、こうした地域の取り組みに注目しました。平成23年度(2011年度)、横須賀市の行政が「在宅療養の体制づくり」に着手しはじめたときには、地域の医師会の方々と連携を取っていきました。助成金をつかって横須賀市医師会に在宅医療推進の活動組織(かもめ広場)をつくり、地域連携をすすめていくことにしました。

また、医師会の方々の協力をいただくうえでひとつのポイントになったのは「病院長会議」だと思います。横須賀市では各病院長に集まっていただく会議をおこなっています。その会議で先生方との共通認識を深め、病院長からトップダウンで情報を伝えていただくという流れをつくることで、病棟医からの理解も深まってきたと感じています。

川名氏:これまでの取り組みで、それぞれの職種間の関係づくりができ、地域連携の土壌ができてきました。つぎに目指さなくてはならないのは、その土壌を耕すこと、つまり地域のみなさんと一緒に地域づくりをしていくことだと感じています。

これは横須賀市健康部地域医療推進課だけではできません。ほかの行政の部署とも一緒に力を合わせなくてはいけません。

横須賀市は気候が温暖で暮らしやすい地域です。そして市のアンケートの結果によると、市民のみなさんは定住意識が非常に高いことがわかっています。この街で暮らしたいという方々のためにも、そして私たちが支えを必要とするときのためにも、地域づくりの文化を構築することがとても大切だと感じています。
 

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