近年では自宅で治療・療養を続けて、人生の最期を住み慣れた我が家で過ごしたいという方が増えつつあります。こうした医療は「在宅医療」とよばれ、高齢化が進む日本ではそのニーズがさらに高まりつつあります。「在宅医療」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。しかし、ご自身やご家族が利用されている実際にはどのようなものなのか具体的にイメージしにくいという方も多いのではないでしょうか。在宅医療とはどのよう医療でしょうか。
地域の在宅医療・地域連携の推進に対して精力的に取り組まれている医療法人社団 小磯診療所の磯崎哲男先生にお話を伺いました。
医療機関ではなく、住まいで医療・療養をおこなうことを「在宅医療」といいます。
日本では高齢化が進んでおり、重度の要介護状態の方や疾病にかかる方がこれからさらに増えていくと予想されています。そうしたなか、医療機関や介護施設に入院・入所するではなく、住み慣れた「我が家」で治療・療養を続け最終的には自宅でお看取りをしてもらいたいというニーズが高まっています。
そこで注目されているのが在宅医療です。
在宅医療では、それぞれの地域の医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護福祉士、地域包括支援センター職員、ヘルパーといった多くの職種が連携を取って治療・介護を進めることで、患者さんが住み慣れた「自宅」でも医療や療養を続けられるようにします。こうした在宅医療の体制が整うことで、重度の要介護状態である患者さんでも、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるようになると考えられています。
近年では日本の各地域で連携の取れた「在宅医療」が実現されるよう、国を挙げて地域の医療介護体制(地域包括ケアシステム)の整備が推進されています。
住み慣れた我が家で治療・療養を続けることができる「在宅医療」ですが、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。いくつか具体例を挙げてみたいと思います。
病院に入院して治療を行う場合、入院する部屋のタイプにもよりますが、1つの部屋に複数人で入院する場合があります。すると患者さんは一日中、ほかの入院患者さんと共に同じ部屋で時間を過ごします。
このような環境ではさまざまなストレスを感じることもあると思います。同室の入院患者さんはそれぞれ入院した時期、罹っている疾患、退院するまでの期間がそれぞれ違います。退院していく方もいれば、長く入院生活が続く方もいらっしゃいますし、深刻な疾患を抱える方もいれば、良性の病気で治療に対する不安が少ない方もいらっしゃいます。このようなそれぞれ背景の異なる患者さんが同じ空間で生活を続けることで、さまざまなストレスを感じる方もいらっしゃいます。
一方で、在宅医療の場合には自宅で治療・療養を続けますので、プライベート空間を十分に確保することができます。そのため、患者さん個人のペースで過ごすことができ、より安心感のある生活を送ることにつながります。
在宅医療では自宅で治療・療養をおこないますので、自宅に住むご家族の方が患者さんと過ごす時間をより多くつくることができます。
患者さんにとって「ご家族の方が近くにいる」ということは精神的な安心感を得ることにつながります。こうした気持ちの安定は、痛みを感じにくくなることにも繋がると考えられています。
またご家族の方も、自宅でより長い時間できる限り寄り添いながら治療・療養にあたることで「患者さんと共に、病と闘うことができた」「共に人生を最期まで走り切った」と捉えることができると考えられます。
患者さんが人生の最期を迎えてしまったとき、ご家族の方は深い悲しみを感じられることがあると思いますが、このように最期までそばで寄り添った治療・療養をおこなうことで、悔いのない最期を過せたと感じられます。こうしたことは、患者さんを最期まで支え続けたご家族にとって、一種のグリーフケア(患者さんと死別した悲しみから立ち直っていくための支え)に繋がります。
在宅医療は、入院と比べると費用は抑えられると考えられます。
入院では入院費、食事費といった費用がかかるため、費用はそのぶん高くなります。
また、在宅医療は「外来診療の延長」つまり「患者さんが病院を訪ねて医師に診察してもらう医療が形を変えたもの」と捉えられています。ですから在宅医療は外来診療(病院に訪ねて治療を受ける診療)とおなじように医療費が算定されます。
もしも医療費が高くなってしまった場合には「高額療養費制度」という医療保険制度が適応され、医療費の家計負担が重くならないよう上限額を超えた場合に超過額を支給されますが、この「高額療養費制度」の上限額を考えてみると、入院時よりも外来診療(診察室での診療)のほうで上限額が低くなっています。そのため医療費が高額になった場合、入院と比べると、外来や在宅医療での医療費の患者負担も低くなると考えられます。
一方、在宅医療ではどのような克服すべき課題が挙げられるのでしょうか。
自宅での治療・療養の場合、そばで見守るご家族の方は、病気の症状で苦しんだり、徐々に具合が悪化していくことがある患者さんに寄り添い続けることになります。大切なご家族のそうした様子を見守っていくことは、支える側にとって大きな精神的負担を伴うともいえます。
しかし、在宅医療では患者さんによりそい病気の辛さと共に向き合うことができます。患者さんとご家族の方がより近い距離で、ともに過ごす時間を多く設けることができるということは、患者さん、ご家族、双方の安心感につながるといえます。
病院に入院していると、患者さんになにかあったとき、すぐに看護師さんや医師が駆け付け、医療を提供することが可能です。また病院には治療に必要な薬剤や医療機器が揃い、医療を提供するための体制が整えられています。
一方、在宅医療では自宅での治療・療養となりますので、医師や看護師を呼ぶことや、治療に必要な薬剤を揃えることに時間がかかる場合もあります。こうした点を克服するためには地域の薬局や医療機関との連携がとても大切です。たとえば地域の薬局と連携がとれていれば、より早くスムーズに薬剤を調達することができます。在宅医療ではこうした地域のなかの連携が欠かせないといえるでしょう。
介護の大変さは、患者さんの状態や、抱える疾患によって異なります。
たとえば認知症の患者さんでは、タイプにもよりますが、幻覚・妄想、昼夜逆転、徘徊、暴力・暴言といった行動や症状があらわれることがあります。そうした患者さんの場合、周囲で支える方々にはより大きな負荷がかかると考えられます。
また、そうした患者さんに対する「適切な対応」について、ご家族の方がわからずに困ってしまうケースも見受けられます。
こうした在宅医療におけるご家族の方の大変さというのは、患者さんの抱える疾患や、状態によって変わってきますので一概にはいえません。患者さんの介護に多くの時間などを必要とする場合もありますし、疾患によっては決まった時間だけにケアが必要で、大きな負担はなく在宅医療をおこなえる場合もあります。
こうした認知症の患者さんの「介護の負担」という課題の克服をするために、近年では「認知症初期集中支援チーム」という取り組みが厚生労働省によって進められています。これは認知症患者さんを介護されているご家族の方の訴えなどに応じて、さまざまな認知症医療に関する専門職があつまったチームが、自宅を訪問して患者さんの認知症の評価を行い、かかりつけ医につないでいく取り組みです。こうした取り組みが進むことで、患者さん、そしてそのご家族がより安心して、より適切な自宅での療養・治療を進めていける体制づくりが目指されています。
▼「認知症初期集中支援チーム」については記事5『認知症に求められる介護 適切なサポートに向けた取り組みとは?』をご覧ください。
医療社団法人小磯診療所 理事長
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