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4つの側面から考える在宅医療の必要性とは?

4つの側面から考える在宅医療の必要性とは?
磯崎 哲男 先生

医療社団法人小磯診療所 理事長

磯崎 哲男 先生

「在宅医療」という言葉をよく耳にするようになりました。今の日本の状況を冷静に考えると、「在宅医療」が注目されるのには様々な必然性があります。一方で、在宅医療の実施水準はまだまだ低いところにとどまっており、在宅医療のことをもっと知ってもらうことは社会的に有意義といえるでしょう。そこで今回は、神奈川県横須賀市を中心として精力的に在宅医療に取り組まれている小磯診療所の磯崎哲男先生に、在宅医療の必要性が一体どこにあるのか

・財政的な理由

・患者さん目線での理由

・社会構造的な理由

・現場環境の変化

の4つの側面からお聞きしました。

1.国家財政面から見た在宅医療への期待

ご存知のとおり、2016年4月現在、我が国の債務は 1,000兆円を超え、歴史的にも国際的にも例を見ない水準まで高まっています。債務が今後、増えていかない水準、つまり歳入と歳出を等しくなる水準を「プライマリーバランス」といいますが、プライマリーバランスにまで持っていく際に大きな障害として立ちふさがるのが医療費の問題です。

財務省ホームページより

医療費は平成27年度時点で40兆円にまで膨らんでいます。その10年前の平成16年度が約30兆円だったことを考えると、1年で約1兆円ずつ増加している計算になります。現在も急速な高齢化社会が進展しており、医療費の増加は今後も収まりそうにないのが実情です。

厚労省の発表によると、平成25年ではそのうちの約40%の15.5兆円が公費(すなわち税金)から賄われています。内訳は、国庫から10.3兆円、地方から4.1兆円です。財務省の発表によると、平成27年には国庫負担が11.5兆円に増加しています。2年で10%以上増加したことになります。

 

さてこの公費(国+地方)がどの程度の金額か、他と比較して考えてみましょう。

平成27年度で見ると、法人税が年間で12兆円程度、消費税と所得税がそれぞれ17兆円程度の税収です。国庫負担分だけで法人税がふっとび、国+地方で考えると所得税が消えてしまうという水準にまで医療費は上昇しているのです。

平成27年度の一般会計予算が全体で96兆円ですから、医療費がいかに大きいかが分かるかと思います。そして医療費の割合は今後も増えていく、という点に不安を覚えずにはいられないのではないでしょうか。そして、医療費の抑制こそ、我が国の債務残高の行方を占う上では大きな要因となるのです。

厚生労働省が考える病床再編

2.在宅医療は医療費を抑制する

平成25年度国民医療費の概況(厚生労働省)より抜粋

医療費の抑制が重要だといいましたが、在宅医療はその抑制に大きく貢献できると期待されています。ポイントは、医療需要の大部分が一般的疾患にある点です。

治療が難しいとされる疾患の治療の場合、設備が揃っている病院に入院する必要があります。しかし一般的な疾患というのは、それほど高度な設備を求められるわけではありません。つまり一般的疾患の治療には、在宅医療で補完が可能ということなのです。もちろん、入院と比べると在宅医療の医療費は安く済むので、全体の医療費を抑制できる、というのが現在の大きな流れです。

3.患者さんの看取り場所は在宅でも代替可能 -2016年4月の診療報酬改変後、患者の負担額はどのように変化したのか

平成25年度国民医療費の概況(厚生労働省)より抜粋

次に、年代別に医療費を確認してみましょう。65歳未満の人の場合、ひとりあたりの医療費は年間平均17.7万円です。それが65歳以上の人になるとひとりあたりの医療費が年間平均72.4万円と、65歳以上の人の4倍の水準にまで膨らんでいるのです。これは、医療費全体の6割を65歳以上の人が使っていることを意味します。

一生分の医療費のうち、半分が最後の1年にかかるといわれています。最後に医療費が膨らんでしまう理由として、病院が「お看取り場所」として機能していることが挙げられます。一般的な感覚では、病院で看取られるのが当たり前になっているのではないでしょうか。病院で「お看取り」になる場合、患者さんは入院することになりますので、患者さんを看取るためには相応の費用がかかることになります。しかし「お看取り」は在宅ですることも可能です。つまり「お看取り場所」を病院から在宅にシフトすることで、医療費の抑制が可能です。

2016年4月、診療報酬の改変されましたが、在宅医療で「お看取り」することにどれくらいの抑制効果があるのか、医療費の大まかなイメージをご紹介しましょう。

がん終末期の平均的な訪問期間である4週間をベースに比較すると、

肺がん:54,216点・95,543点・153,748点

膵臓がん:45,542点・88,692点・142,534点

肝臓がん:45,349点・103,690点・162,457点

となります。これに対して在宅医療では、がんは「在宅がん」という一つのカテゴリに分類され、点数の加算もがんの種類を問わず統一化され、在宅がん:25,200点・50,400点・117,000点となります。平均訪問期間も変化しているので、4週間経過した時点で入院時と在宅を負担を比較すると、一番費用の負担が軽い肝臓がんでも3万円以上、膵臓癌に至っては半分以下に金銭的な負担を抑えることができます。1点は10円ですので、膵臓がんに対する入院と在宅の費用の差は約50万円になるということができます。

毎年約37万人の日本人ががんで死亡してることを考えると、在宅医療へのシフトが医療費抑制につながることがお分かりいただけるのではないでしょうか。このように、財政的な面から在宅医療に向けられる期待は非常に大きく、またさらなるシフトが必要といえるのです。

 

1.病院が「お看取り場所」になった歴史背景

上記のグラフは死亡場所の推移を紹介したものです。1951年は82.5%の方が自宅で死亡し、病院での死亡は9.1%です。これが1977年頃を境に逆転し、2010年では自宅の死亡が12.6%、そして病院での死亡が77.9%となりました。

このような変化が生じたのには病床数が増えたことが考えられます。病床数の増加には大きなふたつの原因があげられます

●病棟(病床数)を増やせば病院が儲かる構造

1950年当時、核家族化が社会問題となりました。当時は現在のような介護保険制度が整備されていなかったため、家庭では介護しきれない場合の代替措置として、病院のベッドが利用され始めたようです。医療機関からすると、病棟を増やせば高齢患者さんでベッドが埋まり、その分収益が上がるという構図ができあがってしまったのです。

●1県1医科大学構想

同じく1950年当時1県につき1医科大学医学部を作ろうという構想が持ち上がりました。1県に1医科大学ができるということは、必然的に附属病院ができるので、病床は増えることになります。

これらの理由から、病床数が増え病院が「お看取り場所」として機能するようになったと考えられています。

2.患者さん側から増加する在宅療養ニーズの高まり

財政面から考えた在宅医療の必要性をご紹介しましたが、実は患者さん側からも「自分の家で看取られたい」という在宅医療のニーズが増えています。

これは全国の20歳以上の国民から終末期の療養場所についてアンケートを行った結果です。この調査では60%以上の国民が「自宅で療養したい」と回答をしました。また要介護状態になっても、自宅や子供・家族の家で介護を望む方が4割を超えています。

このようなニーズからも、住み慣れた環境でできるだけ長く過ごせるよう、在宅医療の環境をより整備し、在宅医療を進めていく必要があるといえます。横須賀市においても総合病院と診療所が連携し、さまざまな取組が進められています。

日本では今急速に少子高齢化が進んでいます。2005年には65歳以上の高齢者1人を、20~64歳の生産年齢人口3人で経済的に支える構造でした。それが今後の人口推移の予測では、2030年には1.7人を1人、2050年には1人を1.2人で支える構造となるとされています。そのような社会構造の変化においても、日本の医療財政や医療システムを守っていくにあたり、今後在宅医療は鍵を握ることとなるでしょう。

1.医療は「キュア」から「ケア」の時代に

キュアは英語で治癒を意味する言葉であり、まさに病院など医療機関で提供されている医療はキュアを目的としたものが多いと思います。一方ケアには「気配り」「世話」、日本でいうと広く「看護や介護」も含まれるのではないでしょうか。今後の在宅医療が目指す医療は、キュアよりもこケアに分類されることが多くなることが考えられます。在宅医療のミッションは、患者さんの生活の場で行われ、患者さんの生活の質を維持していくことです。結果、自然とケア志向の医療になっていくはずです。

●キュアとケアの違いを理解する

それでは、キュアとケアでの細かな違いを確認してみましょう。

猪飼周平著「病院の世紀の理論」有斐閣2010の資料を改変して提示しております 

対象となる疾患や対象、かかわる医療スタッフはこの通りです。在宅医療ではキュアの対象疾患を除いた、あらゆる疾患が対象となると考えてもよいかもしれません。

●疾患の経過と、在宅医療の関わり

終末期の体の機能の低下は、かかっている疾患の種類によってある程度パターン化することが明らかになっています。上記の表の通り、がんと心・肺疾患の末期、また認知症・老衰では進み方が異なってくるのです。在宅医療の患者さんとの関わり方は、このような推移を予測した上で進めていくのが望ましいといえるでしょう。

もちろん医療機関側だけでなく、ご本人やご家族もこのような推移をたどる可能性が高いことを頭に入れた上で、急激な機能の低下にも備える体制をとることが「家での看取り」を完結させるためには必要と考えています。

近頃では、在宅医療の現場にも大きな変化が生まれはじめています。在宅に持っていける機器も進歩しており、また私が院長を務める小磯診療所(神奈川県横須賀市)では在宅医療システムも大きく向上しています。今までなかなか在宅では対応できなかったところまで対応できるようになりつつあります。また、システムの向上により情報などの管理の部分で相当な手間が省けるようになりました。

(患者宅を訪問する際に持っていくバッグの中身)

 

(ポータブルエコ―)

 

(携帯用超音波機器)

 

これら現場環境の向上により、ひとつの医療機関が受け入れられる患者の人数が増加しています。2015年、小磯診療所(神奈川県横須賀市)では207名の患者さんを看取りました。在宅医療の環境は、今後も改善を続けるでしょうし、在宅医療の受け入れ可能人数も今後もさらに増えていくことが予想されます。

  • 悪化する国家財政
  • 患者さんのニーズの高まり
  • 社会構造の変化
  • 在宅医療の現場環境改善

の4つの側面から、在宅医療の必要性を考えてきました。

日本は世界に先駆けて高齢社会を迎えるといわれています。これまで世界中のどこの国も経験したことのない高齢化の波に対する課題は、山のようにあります。今回ご紹介しました在宅医療の分野が抱える問題も、そのなかにある氷山の一角でしかありません。

しかし前例がないということは、同時にどんなことでもトライできる、可能性にあふれている分野であるとも言い換えることができます。日本の将来の医療のありかたについて、社会だけでなく個人でも考える時期を迎えているのではないでしょうか。

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