外側からみえる体の変形や欠損を、外科的手術により治療する「形成外科」。形成外科の守備範囲は非常に広く、眼科、皮膚科や口腔外科など、他科と重複する疾患も多々あります。
たとえば、「ほくろの除去手術」は、皮膚科と形成外科、どちらの科で受けるのがよいのでしょうか。
それぞれの診療科の特質や差異について、和歌山県立医科大学付属病院・形成外科教授の朝村真一先生のお考えをお伺いしました。
ほくろ(色素性母斑、黒子)の除去は、皮膚科でも形成外科でも受けられます。
このうち、形成外科では、外傷や腫瘍など、皮膚における異常を解剖学的に「正常な状態」にするための治療も行っています。
ただし、皮膚病理をみることの専門家というと、一般的には皮膚科となります。ほくろの中にはメラノーマという悪性の皮膚がんもあるため、病理をみることができる施設の診療科において、ほくろの除去手術を受けることが望ましいとされているのです。
しかし近年、がんといえども術後の整容性を保たれるべきであるという、オンコプラスティックサージャリー(腫瘍形成外科)という概念が提唱されるようになりました。そのため、「がんの手術なので見た目に問題が残ることは仕方がない」という考え方は、いまや時代遅れとなっています。
ほくろを除去した後の「傷跡の修正」までを含めて一つの治療と捉えると、皮膚科と形成外科の役割や目的は異なります。たとえば皮膚がんを切除するとき、皮膚科が重きをおくべきものは「再発しない徹底的な切除」になります。
一方、形成外科の仕事には、切除後に「傷跡を目立たなくすること/いかに美しく成し遂げるかということ」まで含まれてくると考えます。
ですから、手術の傷跡が体表に残り、目立っているようであってはいけません。また、移植した皮膚と元の皮膚の色に差などが生じないよう、美しく治療を成し遂げるのが、形成外科の役割といえます。
がんではない良性のほくろをレーザーによって除去するだけならば、皮膚科や形成外科だけでなく、他科で行うことも可能かもしれません。
しかし、和歌山県立医科大学付属病院には、他科でのほくろ除去後の陥凹した傷跡にコンプレックスを抱き、その修正のために来院された方もいらっしゃいます。治療後、表情や言動が明るくなられだけでなく、他の箇所のほくろの除去を希望され、最終的には3回の手術を行いました。
この患者さんをみて、「手術により患者さんの心を変えること、また、患者さんの声に応えられる高いレベルの治療をすること」が形成外科の役目であると感じました。
ほくろからは話が逸れますが、眼瞼下垂症の手術により症状はなくなったものの、二重の幅に左右差ができてしまっていれば、それは形成外科の手術としては合格点とはいえないと考えます。
形成外科医は、患者さんの心に不満を残さないよう、整容に対するこだわりを持ち、テクニックを磨くことが大切なのです。
「外科医とは科学者であり、職人でもある」といわれますが、形成外科医はとりわけ後者の要素が強いと感じます。
体の奥深くのがんや潰瘍の治療状況や進行度合いなどは、患者さんから判断することは難しいため、医療者が評価することしかできません。
しかし、形成外科医が扱う患者さんの体表の傷跡は外にみえる部分ですから、治療がうまくいったかどうかを評価するのは患者さんご自身になります。ほくろ除去後の傷跡が目立っていたり、眼瞼下垂症手術後の眼瞼の左右差などが強く出ていれば、患者さんはその手術を合格とは評価しないでしょうし、精神的劣等感からも解放されないでしょう。
「手術をしたなんて、外からみてもわからない」と患者さんにいっていただけるよう、「正常にすること、また、より美しくすること」に重きをおいて治療にあたるのが形成外科医の使命であると考えます。
和歌山県立医科大学 医学部形成外科学講座担当教授
朝村 真一 先生の所属医療機関
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