皆さんは「形成外科」という診療科に対し、どのようなイメージを持っていますか。頭のてっぺんから指先まで取り扱う疾患が多岐に渡るため、漠然とした印象を抱くまでにとどまっている方も多いかもしれません。本記事では、和歌山県立医科大学付属病院・形成外科教授の朝村真一先生に、形成外科とはどのような診療科で、形成外科医はいかなる目的をもって治療にあたっているのか、具体例を交えながらお話しいただきました。
形成外科とは、外部からもみえる体の形態異常を治療することで、患者さんが抱える「精神的劣等感」を取り除き、「心」や「性格」を変えることを目的とした診療科であると考えます。
具体例として、和歌山県立医科大学に来院された80歳近くの女性の患者さんにみられた心理的な変化を紹介しましょう。この方は顔面に真っ赤な腫瘍(血管腫)の治療のために来院され、「この顔では(自分が)いずれ棺桶に入るとき、他人にみられるのも辛い」と訴えられておりました。血管腫を手術により切除したところ、その後は化粧も楽しまれるようになり、外来に華やかな装いで通院されるようになりました。これが、治療により「心を変える」ということであると考えます。
形成外科は患者さんの体の欠損や変形を治療する診療科ですが、患者さんが来院されるきっかけは、必ずしも欠損のために物理的な意味で不便が生じているからというわけではないのです。
ある男性の患者さんは手の指が1本欠けておられましたが、ご自身で工夫されながら日常生活を送られていました。そのため4本の指で生活を続けることも考慮されていましたが、お子さんの授業参観の折、「お父さん、手袋をして」と頼まれたことにショックを受け、当院に来られました。つまり、この患者さんは欠損してしまった指それ自体というよりも、欠損が原因となり生じた精神的ショックを取り除くことを目的として手術を希望されたというわけです。
このような患者さんの心の声に応えることが形成外科医の役割だと、私は常々感じています。
上述の患者さんには足の指を手に移植する手術を行いました。これによりコンプレックスを取り除くこともでき、現在その方は手袋無しでの生活を送っておられます。
また、顔半分の骨と軟部組織が成長期に発育しない形成不全により、左右非対称の顔になってしまわれた患者さんの顔面を左右対称に近づける治療を行った経験があります。
治療前には常に伏し目がちで曇った表情をされていた患者さんの表情が、治療後には生き生きとしたものに変わり、瞳には強い力が宿られたことを、今でも印象深い経験のひとつとして記憶しています。
形成外科の役割とは、このように先天性ないし後天性の疾患や事故により外見に生じた何らかの異常を治療するだけでなく、その後患者さんが「幸せに生きていくためのサポートをする」ことであると考えています。
和歌山県立医科大学 医学部形成外科学講座担当教授
朝村 真一 先生の所属医療機関
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