形成外科で取り扱う体の何らかの問題の中には、美容外科との境界が曖昧で、病気?とまでは断言できないものも多々あります。たとえば、乳房を大きくする豊胸手術は美容外科で行いますが、「大きい乳房を小さくする」手術となると判断は非常に難しくなります。また、小児や高齢者に多い「逆さまつげ」も、形成外科を受診してよいのかわからないと悩む方が多い疾患のひとつです。実際に、逆さまつげを治すために、美容外科を受診される患者さんも少なくありません。本記事では、他科との境界が曖昧な「グレーゾーンの問題」への対応について、和歌山県立医科大学付属病院・形成外科教授の朝村真一先生のお考えをお伺いしました。
形成外科は先天的もしくは外傷による欠損や変形などの「異常」を治療しますが、美容外科は一重瞼(ひとえ)を二重瞼(ふたえ)にしたり変形のない鼻を高くする(隆鼻)など、「正常」な状態の部位に対して手を加える科です。これが形成外科と美容外科の根本的な違いです。
しかし、偽眼瞼下垂など、どちらの科で手術するのか判断が難しい「中間型」の問題も多々あります。
そのひとつが、乳房を小さくする手術です。医学的には何の問題もない乳房を、美容上の観点を重視して大きくする(または形を整える)豊胸手術は美容外科の領域ですが、乳房が大きい場合には、慢性的な肩凝りなどの「症状
が現れることがあります。和歌山県立医科大学付属病院にも、特に中高年の方で身体症状を訴え手術を希望される方は沢山来院されています。
私自身の意見としては、ある程度の症状が生じていれば、QOL(生活の質)改善のために保険適用で手術できることが望ましいと考えます。しかし現実には、保険適用となる乳房を小さくする手術は、乳房にしこりがある方に対して行う「乳腺腫瘍摘出手術」しかありません。そのため、乳房を小さくされたいと希望される人は、美容外科で自己負担の「乳房縮小手術」を受けていらっしゃるのが現状です。
「形成外科か美容外科か」と受診する科を迷われる方が多い疾患のひとつに「眼瞼内反症」、通称「逆さまつげ」があります。逆さまつげは下まぶたの縁の皮膚やまつげが眼球(角膜)に触れて刺激してしまうという機能的な問題が生じるため、形成外科で扱う疾患となります。
逆さまつげには小児にみられる睫毛内反症と、加齢による退行性眼瞼内反症の二種類があり、病態は全く異なるものとなります。
退行性眼瞼内反症は、まつげではなく「瞼板」という脂成分を作る工場のような組織を中心に考える必要があります。退行性眼瞼内反症とは、瞼板を支えている内嘴靭帯(ないしじんたい)と外嘴靭帯(がいしじんたい)などが緩んでしまい、瞼板ごと眼瞼が眼球方向へと回転してしまう疾患です。
一方、小児の逆さまつげは文字通りまつげを中心に考えてよいものです。こちらは、眼瞼の皮膚に押されるような形でまつげのみが眼球方向を向いてしまう疾患で、正式には睫毛内反症(しょうもうないはんしょう)と呼ばれます。
このように同じ逆さまつげでも、病態が異なるために手術法は全く異なるものになります。しかし、いずれも角膜・結膜に傷ができたり、刺激により眼痛や流涙を引き起こすことがあるため、保険適用で治療を受けることが可能です。
退行性内反症の患者様は高齢者のため、わざわざ怖い思いをしてまで手術を望まれない方も多くいらっしゃいますが、実際に手術された後には、「手術を受けてよかった」と笑顔になられます。
下の歯が上の歯よりも前方に出てしまう「反対咬合(はんたいこうごう)」、俗にいう「受け口」や、その反対の「出っ歯」など、噛み合わせに異常がある顎変形症顎の骨を削ることで噛み合わせの不正を矯正する手術は、「歯科矯正」の範疇に入るため、形成外科で手術を行う際にも矯正歯科医の資格を持っている先生とタイアップして治療にあたります。
ただし、同じ顎を削る手術でも噛み合わせには問題がなく、単に顎が長かったりへこんでいるという場合は、自由診療になるか保険診療になるかの判断が非常に難しくなります。定義上は「顎変形症だが噛み合わせに異常がなければ“正常”」とされていますが、医師の解釈によっては形成外科で保険診療による手術が受けられることもあります。
ここまでにご紹介してきた問題のほかにも、何をもって「異常」(形成外科などでの保険診療が可能なもの)となるのか、患者さんご自身が判断するのは難しいと思われる問題は多数あります。ですから、形成外科医からのメッセージとして、どの診療科に行けばよいか迷われる変形や欠損による悩みを抱えている方は、ぜひ一度形成外科を受診していただきたいとお伝えしたいです。
和歌山県立医科大学 医学部形成外科学講座担当教授
朝村 真一 先生の所属医療機関
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