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子どもが目をこする動作に注意─睫毛内反症とはどんな病気?

子どもが目をこする動作に注意─睫毛内反症とはどんな病気?
廣冨 浩一 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科 助教

廣冨 浩一 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年03月01日です。

睫毛内反症は、まつ毛が内側を向いて黒目の部分(角膜)に触れ、涙が出る、目がしみるといった症状が現れる病気です。生まれつき発症することが多く、子どもや若い方によくみられます。睫毛内反症に気が付いたら、まずはかかりつけの眼科などでなるべく早く相談し、状態によっては形成外科でしっかりと治療することが大切です。

今回は、睫毛内反症の概要や手術について、横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科の廣冨浩一先生にお話を伺いました。

睫毛内反症

まつ毛が内側を向いて、常に「逆まつ毛」のような状態になっていることを睫毛内反(しょうもうないはん)といいます。上下どちらのまつ毛にも起こる可能性があり、上下同時に起こる場合もあります。

通常のまつ毛は、ある程度水平か、前を向いて生えているため、黒目の部分に触れることはありません。しかし、「睫毛乱生」といって、1本1本が違う方を向いていたり、ある部分だけが違う方を向いていたりすることがあります。また、「睫毛重生」といって、まつ毛が何列も生えている場合にも、眼球に近い部分が内側を向くことがあります。

まつ毛が内側を向いていると、角膜に接触して障害が起こり、涙が出たりチクチクとした痛みを感じたりします。こうした症状を引き起こす状態を睫毛内反症といいます。

睫毛内反症は生まれつき起こることが多く、主に小さなお子さんや若い方にみられます。また、一重の方に多くみられます。

一重まぶたは、眼瞼挙筋の枝分かれしている部分(挙筋腱膜)と皮膚をつなぐ線維が存在しないか、つなぐ線維があまり密ではないことなどから、目を開けたときに二重の線ができない状態です。そのため、一重ではまつ毛が下を向きやすく、睫毛内反症が起こりやすくなります。

睫毛内反症と似ている「眼瞼内反症」は別の病気

まつ毛が内側を向く病気には、睫毛内反症の他にも「眼瞼内反症」があります。加齢性の変化などによってまぶたが内側を向く病気で、まつ毛も一緒に内側を向くため目に触れる状態となります。まつ毛が内側を向く睫毛内反症と似ていますが、別の病気であり、治療法も異なります。

まつ毛の一部が目の角膜に触れるため、涙が出る、目が染みる、目やにが多いといった症状が起こります(角膜刺激症状)。症状が進行すると、角膜に傷がついていることから乱反射して、まぶしく感じることもあります。常に目が痛いと感じる場合、かなり症状が進行した状態だと考えられます。

睫毛内反症が起こっていても、お子さんの場合は自分の症状を具体的に説明することはほとんどありません。そのため、子どもがいつも目をこすっている、目やにが多い、涙がよく出るといったことに親御さんが気づいて眼科にかかり、睫毛内反症が発見されることが多いです。

まつ毛が内向きに生えている「逆まつ毛」の状態であれば、まつ毛の生え方を見ただけで親御さんも気づくことができます。一方、外向きに生えているように見えるまつ毛の場合、まばたきする際に一部が黒目に当たり症状が引き起こされていたとしても、見た目にはわかりにくいといえます。そのため、目をこする動作などが頻繁にみられるときには、まずは眼科にかかり相談することが大切です。

睫毛内反症では、写真を撮影したり、まばたきする様子を観察したりして、角膜にまつ毛が当たっているかどうかを確認します。目にまつ毛が当たっていると考えられる場合、目の表面の傷を調べる検査を行い、傷の位置を確認します。一部の場所だけに傷がついているのであれば、そこに睫毛内反症が起こっていると考えます。また、下のまつ毛が上を向いていることを明らかに目視できる場合などでも、診断をつけられることがあります。

目に傷がついていることが分かれば、それがまつ毛による傷なのかどうかを見分ける必要があります。たとえば、目をうまく閉じられていなかったり、目が乾燥したりして傷がついている場合もあれば、まつ毛でこすられて傷がついている場合もあるからです。

睫毛内反症の治療方法は基本的に手術です。睫毛内反症はまつ毛の生える方向の問題なので、手術は皮膚を切開してまつ毛の向きを変えることを目的に行います。まぶたを開く筋膜と皮膚がくっついた状態をつくることで、睫毛内反症の改善を目指します。二重の線ができると、目を開けたときに皮膚が引っ張られてまつ毛が上を向くため、内反症が起こりにくくなるからです。

手術そのものにかかる時間は通常20分程度です。大人の場合は基本的に局所麻酔で日帰り手術を行います。小さなお子さんの場合は全身麻酔をかけるため入院が必要で、体への影響がなければ翌日以降に退院できます。

幼少期の子どものまつ毛は細くてやわらかく、症状が軽い場合は経過観察を行うこともあります。

横浜市立大学附属市民総合医療センターでは、睫毛内反症の症状が中等度から重度である患者さんの受診が多いため、基本的には皮膚切開法を実施しています。

埋没縫合法は、皮膚の切開は最小限にして糸での固定を行います。処置室で実施できることが特徴ですが、糸が切れると元の状態に戻ってしまう可能性もあるため、症状が軽度の場合に行うことが多いです。

治療は保険内で実施可能

睫毛内反症の治療である皮膚切開法と縫合法は、どちらも保険内で受けることができます。受診時にかかる実際の費用は、術式、入院の有無、麻酔方法などによって異なります。そのほか、自由診療の手術をご希望の場合には、担当の医師にご相談ください。

睫毛内反症の治療後の合併症としては、元の状態に戻ること(後戻り)が挙げられます。縫合法の場合、使用した糸が切れたり緩んだりして二重が取れる可能性があります。皮膚切開法の場合も、後戻りが起こる可能性はあります。一般的に、手術してから半年ほど経過しても後戻りがなければ、多くの場合はそのまま再発することなく経過します。

特に、皮膚に張りがある子どもの場合、手術後に後戻りする可能性は高くなります。また、一度取り除いた皮膚は元に戻せないことから、子どもには効果がマイルドな治療を行うことが多いです。

睫毛内反症の手術では、状態が落ち着くまでは安静を保つ必要があります。後戻りを防ぐために、目を強くこすったり、引っ張ったりしないことが大切です。

小さなお子さんの場合、まぶたが気になってもこすらないよう我慢するのは難しいものです。糸が切れる事で生じる後戻りを避けるために、多くのケースでは皮膚切開法を行うことになります。小さなお子さんに対して、糸での固定を行う埋没縫合法を行うことはほとんどありません。

廣富先生

睫毛内反症は小さなお子さんに多い病気です。大人が症状に気づいてあげなければ、本人はつらくてもそれを言えないことがあります。お子さんが片目をすぐにこする、目やにが多いといった症状がみられたら、まずは眼科の先生に診てもらい、必要なら手術を考えましょう。

しかし、形成外科とはいえ、手術を前提として治療を始めるわけではありません。症状が軽いため手術は必要ないという方もいらっしゃいますし、年齢と共にまぶたの形が変わって手術しなくてよくなることもあります。涙が出る、目がしみるといった気になる症状があれば、早めに医師にご相談いただければと思います。

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