新型コロナウイルス感染症の収束に向けて、注目が集まっているワクチン。接種することで発症や重症化を予防することが期待されています。日本ではファイザー社のmRNAワクチンが2021年2月14日に承認され、17日には接種が開始されました。では、皆さんはワクチンにも種類があることはご存知でしょうか? また、新型コロナウイルスワクチンの有効性と安全性、副反応はどのようなものなのでしょうか?
ワクチンとは病原性(病気を発症させる力)をなくした、または弱めた病原体から作られる薬剤のことです。ワクチンを接種することで、私たちの体はその病原体に対する免疫を得て対抗できるようになります。そのため、ワクチンを打っておけば有害な病原体が体に入ったときに発症を防ぐ、もしくは発症したとしても軽く済むようになるのです。ワクチンで接種する病原体は、病原性をなくすか弱めてあるので、体に入っても基本的には安全です。
ワクチンは、以下の種類に分けられます。
これまでに日本政府と供給契約を結んでいるファイザー社(米)、モデルナ社(米)、アストラゼネカ社(英)のワクチンのうち、ファイザー社、モデルナ社のものがmRNAワクチン、アストラゼネカ社のものがウイルスベクターワクチンです。
いずれも病原体の遺伝情報を体内に入れるものですが、卵子・精子を含めた人の遺伝情報に影響を与えることはなく、将来の子どもにウイルスの遺伝情報が受け継がれることもありません。また、数分~数日で分解されるものなので長期的に体内に残るものでもありません。
日本では、全国民に行きわたる量に相当する1億5,700万人分のワクチンが供給される見通しです。ファイザー社のワクチンは2021年2月14日に承認され、2月17日には医療従事者を対象に接種が開始されました。
接種場所は医療機関や今後設置予定の接種会場になる見込みで、接種回数は2回ですので、期間を空けて再度出向いて打つことになります。費用は公費負担のため無料で受けられます。
なお、ワクチン接種は義務ではありませんので、受ける人の同意なしに接種が行われることはありません。
ワクチンは徐々に供給され、当面確保できる量に限りがあることから、接種順位の高い順に接種が始まります。まず優先されるのが、感染のリスクが高い医療従事者や重症化リスクの高い人です。具体的な優先順位は以下のとおりです。
なお、妊婦の優先順位や子どもの接種については安全性・有効性を見ながら検討されます。
新型コロナウイルスワクチンは、”有効率90%以上”であるといわれています。
インフルエンザワクチンの有効率は50%前後といわれており、有効率90%以上のワクチンというのは優れたワクチンであると考えられます。また、ファイザー社のワクチンに関しては、ワクチンを接種したグループと生理食塩水を接種したグループで比較したところ、接種後2週間後から新型コロナウイルス感染症の発病数が抑えられたというデータも発表されています。接種した人全員が発病しなくなるわけではありませんが、有効性は科学的に証明されているということは紛れもない事実でしょう。
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ各社による数万人規模の治験では重症化予防にも一定の効果が期待できたとされています。ただし重症患者は数が限られているため、効果を確定するためにはより多くの例を集積することが必要です。
ただし、有効性についてはまだわからない部分もあります。たとえば、効力の持続期間です。開発されて間もないため、接種から半年以上たっても予防効果があるかどうかはデータがありません。また、75歳以上は対象者が十分でないため効果の検証が十分でなく、基礎疾患ごとの差異、人種による差異も明らかになっていません。
新型コロナウイルスワクチンの接種を考えるにあたって、もっとも気になるのが安全性ではないでしょうか。そもそもワクチンには副反応がつきもので、100%安全なワクチンは存在しません。どのようなワクチンであっても、何らかの副反応が生じる可能性があります。
なお、副反応と似ている用語で”有害事象”というものがありますが、この2つは別物です。有害事象とは「ワクチンを接種した後に生じたすべての好ましくない出来事」のことで、ワクチンとの因果関係がないこと、つまり「たまたまワクチンを接種した後に起こったこと」も含みます。これに対して、副反応は「ワクチンを接種したこととの因果関係が否定できないこと」を指します。
現在、日本での供給が決定している新型コロナウイルスワクチンでは、有害事象として発熱、倦怠感、筋肉痛、関節痛、頭痛、疲労、接種部位の痛みなどが現れる場合があることが分かっています。ほかのワクチンと比較するとこれらの症状が現れる頻度はやや高く、特に接種部位の痛みが現れる頻度が比較的高いですが、多くの場合は1週間以内に治まっています。
海外ではすでにワクチン接種が始まっており、少数ながらアナフィラキシーの発生例もいくつか報告されています。万が一アナフィラキシーが起こった場合、接種会場などですぐに治療を行います。ただし、2月14日に発表されたファイザー社製ワクチンの添付文書を見ても死に至るほど重篤な副反応の報告数は対照群(生理食塩水を接種した群)と差異がなく、有効性と同様に安全性についても接種を開始できるだけのデータは揃っていると考えられます。
それでも、有効性と同じように、安全性についてもまだわかっていないことはあります。たとえばアナフィラキシーなどよりももっとまれな、重篤な副反応が感知できていない可能性があること、年齢・基礎疾患・人種による差異についてなどです。デング熱など一部のワクチンでは、ワクチンを打った人が自然にその感染症にかかった場合に重症化する可能性も指摘されていますが、こういった長期的な重症化のリスクもまだわかっていません。
副反応が起こった場合は救済制度があり、医療費や障害年金等の補助を受けることができますので、確認しておくとよいでしょう。
前述のとおり、ワクチンの接種は個人の判断です。そのため、私たち一人ひとりがワクチンについての有効性やリスクについて適切に理解し、意思決定することが重要です。また、根拠のない噂に惑わされず、信頼のおける発信元から情報を集めることも大切です。
ワクチンを接種した場合の有効性とリスク、また受けなかった場合の感染リスクを比較し、納得したうえで受けるかどうか決めるようにしましょう。
川崎医科大学附属病院 小児科 部長
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