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新型コロナウイルス感染症に対するがん治療の注意点〜経過観察や治療は継続すべき?〜

新型コロナウイルス感染症に対するがん治療の注意点〜経過観察や治療は継続すべき?〜
久保田 馨 先生

日本医科大学付属病院 化学療法科部長、がん診療センター部長、日本医科大学内科学(呼吸器内科学)...

久保田 馨 先生

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年06月04日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症すると通常は鼻水や咳、発熱、軽い喉の痛み、筋肉痛や体のだるさ(倦怠感(けんたいかん))など風邪のような症状が5~7日間程度続き、重症化しなければ次第に治っていきます。しかし、基礎疾患を持っていると感染リスクや重症化リスクが高まると考えられています。では、がん患者の場合はどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。

今回はがん患者が新型コロナウイルスに感染するリスクや、治療中・治療後のがん患者の生活に関する注意点、通院や治療などの病院の受診について日本医科大学 呼吸器内科学 教授 久保田 馨(くぼた かおる)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年6月4日時点の医師個人の知見に基づくものです。

がん患者さんが新型コロナウイルス感染症にかかりやすいかという点についてはさまざまな報告があります。

各国からの報告ではがん患者が感染しやすいという傾向が見受けられ、中国では一般の人より3倍程度感染しやすいという報告もあります。しかし、いずれの報告ももととなる患者数が少ないため、本当にかかりやすいのか、どのような状態の人がかかりやすいのかはこれから確認が必要です。

また、高齢になるほど新型コロナウイルス感染症にかかりやすいといわれています。がん患者も高齢者の割合が多いことから、がん患者が新型コロナウイルスにかかりやすいという報告ががんによるものなのか、年齢によるものなのか、現段階では定かではありません。

そのほか、がん患者の感染リスクが高い理由として考えられるのは免疫力の低下と病院に行く頻度の高さです。がんにかかると病気あるいは治療の影響で免疫力が落ちる可能性があります。また、がんの治療や診察のために病院に行く機会が多いと病院までの移動や病院内において新型コロナウイルスに感染した人と接触するリスクが高まり、感染しやすくなることが懸念されます。

がん患者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合に重症化しやすいかという点に関しては、1か月以内に手術療法や化学療法などのがん治療を受けた患者が重症化しやすいという報告があります。これは治療による免疫力の低下が原因と考えられます。

新型コロナウイルスに感染しないことが大切です。前述のとおり、抗がん剤などの化学療法を行うと免疫力が落ちてしまい、さまざまな感染症にかかりやすい状態になります。病院では新型コロナウイルス感染症の流行にかかわらず、日頃から化学療法を受ける患者さんに対して感染症対策を指導しています。患者の皆さんも日頃から病院で指導を受けた対策を意識して生活していることと思いますが、これを機に今一度対策を見直してみましょう。

ウイルスへの感染を予防するという観点ではウイルスの特徴を理解し対策することが肝要です。ウイルスは生きた細胞の中でしか増えることができません。感染した人の涙、唾液、痰、尿、便などから排出され、排出されたウイルスが粘膜などからほかの人の体に入ることによって感染が生じます。特に唾液などの飛沫は飛び散りやすく、ウイルスを感染させやすい特徴があります。

たとえばマスクをしていない人と向かい合って会話をすると、相手の飛沫を浴びることになり、目や鼻、口腔の粘膜からウイルスが入り感染してしまうことがあります。また、空気中に舞った飛沫がエアロゾルとなって換気の悪い室内の空気にしばらく存在し、それを吸い込むことで感染するケースもあります。さらに、飛沫が落ちて床にウイルスが付着しており、床に置いた荷物に触れた手で鼻や口を触ることによって感染するケースもあります。このような感染を防ぐため、マスクの着用・こまめな手洗い・換気・床に荷物を置かないなどの対策を取ることが必要です。

化学療法を受けている患者さん同様、手洗い・口腔ケアなど一般的な感染症対策を行いましょう。放射線治療でも免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなる可能性があります。

また、放射線治療で肺や乳房、食道など胸部に放射線の照射を受けている場合、治療後に放射性肺炎が生じることがあります。放射性肺炎は発熱・空咳など新型コロナウイルス感染症に似た症状が現れることがあり、鑑別が難しい場合もあります。そのため肺や乳房、食道など胸部に放射線を照射している人や、照射終了後6か月以内で新型コロナウイルス感染症を疑うような症状が現れた場合、まずはがん治療の担当医に電話で相談するようにしましょう。

化学療法・放射線治療同様、手洗いや口腔ケアなどの一般的な感染症対策を意識して行いましょう。特に手術後1か月間程度は免疫力が落ちますので、自分は今感染症にかかりやすい状態にあるということを意識して生活することが大切です。

現在治療中の患者さんに対しては、がん治療の目的とその期待される効果(治療のメリット)と治療に伴う新型コロナ感染症リスクの増加の程度を天秤(てんびん)にかけて今後の方針を検討します。そのため、治療や通院のスケジュールはがん治療の担当医とよく相談してください。

感染対策を行いながらがん治療を続けることが基本になると思いますが、さまざまな合併症を抱えていて治療の効果がそれほど期待できない患者さんの場合は治療の延期や中止が適切な場合もあるでしょう。

経過観察中の場合はがん治療終了から長期間経過している方や現在の体調がよい方は通院の延期を検討します。ただし、体調が悪い場合は感染症対策をしっかり行い通院しましょう。

いずれにしても自己判断で通院や服薬をやめてしまわないようにしてください。

まずは手洗いと口腔ケアの徹底です。外出からの帰宅後、トイレの後などは流水とせっけんで丁寧に手を洗うようにしましょう。ハンドクリームやワセリンを使って手のケアを行うことも肝要です。

口腔ケアに関してはがん治療を受けている人であれば病院や歯科医院で指導を受けていることと思います。1日数回、外出から帰宅後は歯ブラシで歯をブラッシングし、その後ワンタフトブラシや歯間ブラシ・デンタルフロスで細かい部分の汚れを取りましょう。歯の間に水を通すイメージで“グチュグチュうがい”をしたあとに舌ブラシで舌をブラッシングし、最後に舌を含め口腔全体を水で洗い流すイメージで“ガラガラうがい”をします。また、口腔ケアの後は眼鏡や鼻腔、顔を洗い、鼻腔や顔に付いた細菌やウイルスを取り除きましょう。口腔ケアを実践すると口の中の細菌やウイルスの増殖を防ぐことができ、感染症の予防のほか、腸内環境が整うことで免疫力も高まるといわれています。

上述した感染症対策とともに免疫力を高めるような生活を考えましょう。免疫力を高めるためには、バランスの取れた食事、特に加熱調理した野菜を十分に取ること、質の高い睡眠、適度な運動が大切です。免疫が高まるとがんの経過に対してもよい効果が期待されます。

前述のような感染症対策を徹底しましょう。どんな場所にウイルスがいるかを想定し、以下のような対策をするとよいでしょう。

ウイルス感染を防ぐための対策

  • 飛沫対策のため、マスクを着用する
  • 空気中に漂ったウイルスを追い出すために換気をする
  • 床に落ちたウイルスが荷物に付着しないよう、床に手荷物などを置かないようにする
  • 電車の吊り革・手すり・ドアノブなど人が触れる場所をなるべく触らないようにする
  • 手に付着したウイルスを取り除くため、手洗いまたはアルコールで手の消毒をする
  • 手に付着したウイルスが粘膜から体内へ入らないよう、手で目・鼻腔・口腔を触らないようにする
  • 口腔内や顔に付着したウイルスを取り除くため、帰宅時には口腔ケア・洗顔などを行う など

新型コロナウイルスの感染のうち30%は家庭内での感染という報告があります。ご家族が感染すると一緒に住んでいるがん患者さんにもうつしてしまう可能性が高いため、ご家族は「自分自身もがん治療を受け、免疫力が下がっていて感染症にかかりやすい状態なんだ」という意識で感染症対策に臨んでください。

ご家族が注意すべき感染症対策としては手洗いなど一般的な感染症対策のほか、ご自宅のドアノブなどの消毒、トイレ掃除などが効果的です。ドアノブなどの消毒には薄めた漂白剤が有効です。市販の漂白剤の使用方法を守って活用しましょう。また、ウイルスは尿や便などにも含まれるのでトイレ掃除をすることで感染リスクを下げることができるでしょう。

ご家族の中で発熱・咳など新型コロナウイルス感染症を疑うような症状がみられた場合は別室に隔離するなど、がん患者と関わる機会を極力減らすようにしましょう。関わる必要がある場合にはマスクを付ける、患者と距離を取って接する、静かに話すようにするなどの注意をしましょう。

がん治療中や、治療から1か月程度しか経過していない場合、まずはがん治療の担当医に電話で相談しましょう。状況に応じてかかりつけ医から病院の受診などが提案されます。

一方、治療が完了している方の場合は、一般の方々と同じように各都道府県の保健所が運営する帰国者・接触者センターへの問い合わせを行います。厚生労働省によれば、帰国者・接触者センターに相談する目安は以下のとおりです。

<帰国者・接触者センターに相談する目安>

少なくとも以下のいずれかに該当する場合には、すぐに相談してください(これらに該当しない場合の相談も可能です)。

  • 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
  • 重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

*高齢者、糖尿病心不全、呼吸器疾患(COPDなど)などの基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です)

中国春秋時代の『孫子』という文書には、“彼を知り己を知れば百戦(あや)うからず”という言葉があります。これは、敵や自分自身について正しく把握していれば何度戦っても負けることはないという意味です。私は病気やウイルスについても同じことがいえると考えています。まずは、ご自身のがんや現在流行している新型コロナウイルスについてよく知り、今後のことを考えるようにしましょう。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、今一度ご家族とともにご自身の感染症対策を見直してください。

また、免疫力を高めることは、新型コロナウイルス感染症の予防にも、がんの治療にもよい効果をもたらします。免疫力を高める特別な治療や薬はありませんが、上に述べたバランスの取れた食事や質の高い睡眠・適度な運動を習慣化することが大切です。新型コロナウイルス感染対策を行うことで、がん治療にもよりよい効果が出るように行動しましょう。

経済的なことも含めて、問題があればリストを記載して優先順位をつけてください。病院にもがん患者を支援する部署がありますので、内容に応じて担当医や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーにご相談ください。

“ストレスは人生のチャレンジ”と考え、将来への希望を持って行動することで、新型コロナウイルス感染症の流行もがんの治療も乗り越えていきましょう。

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