編集部記事

喫煙者は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高い~禁煙は今からでも間に合うのか~

喫煙者は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高い~禁煙は今からでも間に合うのか~
尾﨑 治夫 先生

東京都医師会 会長、おざき内科循環器科クリニック 院長

尾﨑 治夫 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年05月21日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症は2019年12月に中国・湖北省武漢市で報告されて以来、世界各地で感染が拡大している感染症です。新しいウイルスによる感染症であるためウイルスの特性については明らかになっていないことが多いですが、基礎疾患のある人やたばこを吸う習慣のある人は重症化しやすいといわれています。

今回は今喫煙している人や過去に喫煙歴がある人の新型コロナウイルス感染症に対する重症化リスク、禁煙の必要性などについて、東京都医師会会長 尾﨑(おざき) 治夫(はるお)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年5月21日時点の医師個人の知見に基づくものです。

中国・武漢市の新型コロナウイルス感染症患者1,099名を分析したデータによれば、喫煙をしている人はしていない人と比較して1.66倍重症化しやすく、約3倍死亡しやすいといわれています。また、喫煙によって慢性閉塞性肺疾患COPD)が生じている人の場合には肺が大きく破壊されてしまうため、一般の人の4.38倍重症化しやすいというデータもあります。

志村けんさんの場合、最近は禁煙をしていたようですが以前は1日の喫煙量がとても多かったといわれています。そのため元喫煙者というだけではなく肺にダメージが生じCOPDを合併していた可能性もあり、残念ながら重症化・死亡リスクは高かったのかもしれません。

喫煙者は呼吸器感染症にかかりやすく、重症化しやすいといわれています。そのため新型コロナウイルス感染症に限らず、ウイルス性・細菌性の肺炎インフルエンザ結核などにもかかる可能性が高く、また重症化しやすいといえます。

過去の喫煙の程度(喫煙歴の長さや喫煙量)にもよっても異なります。喫煙歴が短かった人であれば、1〜2週間禁煙すれば喫煙の影響はほとんど無くなるといわれています。しかし喫煙歴が長い人の場合、喫煙の影響を取り除くには時間がかかります。たとえば喫煙によるがんのリスク、虚血性心疾患のリスクを元に戻すためには10年程度の禁煙が必要といわれています。そのためたとえ今喫煙をしていなくても過去に長く喫煙をしていた人は、新型コロナウイルス感染症にかかった場合重症化する可能性があるといえます。

そもそも喫煙者が呼吸器感染症にかかりやすくなる理由は大きく二つあります。一つ目は、たばこを吸うことによってニコチンなどの有害物質が体に入り免疫力が落ちてしまうことです。これはたばこを吸うことをやめれば比較的すぐに改善されます。二つ目は、たばこを長期間吸って肺へのダメージが加わることで肺の機能が落ちCOPDになってしまうことです。一度落ちてしまった肺の機能はそう簡単に回復することはないため、“今は吸っていない”という人でも新型コロナウイルス感染症が重症化しやすくなってしまうのです。

年齢が若くても喫煙をしていれば重症化リスクは高まるでしょう。なぜなら前述のように、喫煙をすると免疫力が低下してしまうからです。しかし年齢の若い人は喫煙歴が短いケースが多いため、今禁煙を始めれば比較的早く喫煙による重症化リスクを下げることができます。

加熱式たばこの喫煙であっても、紙巻たばこと同様に新型コロナウイルス感染症の重症化リスクは高まると考えられます。加熱式たばこは紙巻たばこと比べ発がん性物質の量は少ないといわれていますが、ニコチンは十分に含まれています。新型コロナウイルス感染症の重症化にはニコチンが関与していると考えられているため、加熱式たばこによる喫煙であっても重症化リスクは高まります。

受動喫煙であってもたばこの煙との距離が近ければ重症化リスクを高めてしまう可能性は十分あります。たばこは口に含んで吸われているときには酸素が十分取り込まれるため、火のついた部分の温度が900℃程度まで上昇しそれによってある程度有害物質が分解されています。加えて喫煙者本人はたばこのフィルターを通して煙を吸っているため、有害物質の量はさらに減ります。しかし、たばこを吸っていないときに発生する副流煙は空気中の酸素だけで燃えているため、火のついた部分は300℃程度にしかならず不完全燃焼となります。そのため有害物質があまり分解されずさらにフィルターも通さないため、副流煙のほうがより有害だということが分かっています。

特に今は外出の自粛を求められていることから自宅などの狭いスペースで喫煙する人もいるでしょう。狭いスペースだとたばこの煙が室内に充満しやすく、たばこを吸わない人まで受動喫煙による被害を受けやすいといえます。家族や周囲の人を守るためにもどうしても喫煙がしたい場合には場所に注意する、吸わないたばこはすぐに火を消すといったことを意識しましょう。

屋内の原則禁煙新型コロナウイルス感染症の感染拡大予防の観点からみても有効と考えます。前述の通り、狭い屋内でたばこを吸うことは周囲の人への受動喫煙につながることが懸念されます。また、喫煙者がたばこを吸いにくい環境をつくることにより禁煙のはたらきかけにもつながるのではないでしょうか。

たとえ風通しのよい喫煙所であったとしても喫煙所は感染リスクの高い場所であると考えます。まず、喫煙をするときはマスクを外さなければなりません。また、喫煙前に手を洗うという人は少なくウイルスのついた手でたばこを触りそれを口に含めば、たばこに付着したウイルスが口に入るため当然感染の可能性があります。さらに喫煙所は不特定多数の人が利用し、吸った後の吸い殻を捨てていきます。もし感染者が喫煙所を利用していれば吸い殻にウイルスが付着している可能性が高く、そこから感染してしまうこともあるでしょう。

そのため、もしどうしてもたばこを吸いたいのであれば喫煙所を利用するのではなく人に迷惑のかからないところで一人で吸い、吸い殻を必ず持ち帰ることが大切です。

喫煙者であればどんな人でも禁煙をすることで新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを下げることができます。喫煙歴の長い人で「今更禁煙しても意味がないのではないか」とおっしゃる方もいますが、そんなことはありません。たしかに喫煙歴の短い人と比べると効果は小さいかもしれませんが、禁煙をすることによって咳や痰を減らすこともでき呼吸器感染症の重症化リスクを下げることに繋がります。

新型コロナウイルス感染症に対するデータはまだ出ていませんが、一般的にたばこを吸う本数を減らしただけではたばこによる健康被害を和らげる効果は期待できないといわれています。たとえば1日20本たばこを吸っていた人が1日10本に喫煙量を減らしたとしても、結局1本のたばこを吸う時間が長くなり血中のニコチン濃度はほとんど変わらないというデータがあります。そのため、たばこを吸う本数を減らすのではなく完全にたばこをやめることが大切です。

まずは治療を受けることだと思います。まだ医療機関を受診していない人は、新型コロナウイルス感染症の流行を機にぜひ禁煙外来の受診を検討していただきたいです。

今は新型コロナウイルスに感染する可能性を心配し医療機関に行きたくないと考える人もいます。そのような人でも受診ができるよう、現在日本医師会と協力し初診でもオンライン診療を受けられるような仕組み作りに取り組んでいます。

新型コロナウイルス感染症が流行したことによって医療体制を維持できるかどうかの瀬戸際を迎えています。現在私たちは感染者に適切な治療を行い、必要な場面でPCR検査を行えるような万全の体制を築くためさまざまな取り組みを行っています。

一般の方々には引き続き感染予防対策を徹底し、感染者を増やさないようにしていただきたいです。特に感染予防対策の一環として喫煙者には禁煙に取り組んでいただきたいと考えています。東京都医師会では新型コロナウイルス感染症の予防対策として、8項目を提示しています。以下の資料を参考に新型コロナウイルスに感染しないこと、周囲の人にうつさないことを心がけましょう。

新型コロナウイルス感染対策について

受診について相談する
  • 東京都医師会 会長、おざき内科循環器科クリニック 院長

    尾﨑 治夫 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    関連記事

  • もっと見る

    「新型コロナウイルス感染症」に関連する病院の紹介記事

    特定の医療機関について紹介する情報が掲載されています。

    関連の医療相談が941件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「新型コロナウイルス感染症」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。