喫煙によって肺が障害を受け、労作時の息切れや咳、痰などの症状が現れる慢性閉塞性肺疾患(COPD)。COPDの症状は、“年のせい”などと思い病院を受診していない患者さんも多く、なかなか治療につながらないことが問題となっています。
今回は、COPDについて国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長の放生 雅章先生にお話を伺いました。
COPDとは、主に長期間にわたる喫煙によって、空気の通り道となる気管支や酸素と二酸化炭素のガス交換を行う肺胞が壊れてしまう病気です。これによって、労作時の息切れなどの呼吸器症状が生じます。
また風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症にかかると、COPDの症状がさらに悪化します。これを“COPDの急性増悪”と呼びます。そして急性増悪を繰り返していくうちに、だんだんと自力での呼吸が難しくなり、在宅酸素療法*が必要となる場合もあります。
またCOPDが進行するにつれて心臓にも大きな負担がかかるため、心不全**を合併することもあります。
*在宅酸素療法:自宅で酸素供給機器から持続的に酸素を吸入することで、体に酸素を取り入れる治療法。
**心不全:心臓のポンプ機能が低下することで、血液の循環がうまくいかなくなる状態。
先ほど少し触れましたが、COPDの主な症状は労作時の息切れです。たとえば、坂道や階段を登ったときに、息切れを強く感じることがあるでしょう。また、咳や痰などが現れることもあります。
これらの呼吸器症状は、病気によるものだと思われず、単なる”年のせい”と思われることも少なくありません。そのため、COPDの患者さんの一部しか診断を受けていないという報告もあります。
一度壊れてしまった肺を元の状態に戻すことはできません。そのため、なるべく早期にCOPDの検査を受け、病気の進行を食い止めるための治療を行う必要があります。
COPDで肺が障害を受けていると、息を吸い込むことはできても、吐き出すことが難しくなります。そこで検査では、最大限の力で空気を吸い込んだ後、空気を最後まで出しきり、そのときの空気の量(肺活量)を調べます。そして吐き出した直後の1秒間で、どれだけの量の空気を吐ききれたかを測定し(1秒量)、そこから1秒率を導きます。
1秒率は、肺活量のうちの1秒量の比率から測定し、その比率が70%以下の場合には、COPDを強く疑います。
検査では、ほかの病気との鑑別も重要です。特に気管支喘息との鑑別をしっかりと行う必要があります。
気管支喘息というと、子どもの病気というイメージを持たれがちですが、実際には成人での発症も多い病気です。なかには80歳で初めて気管支喘息を発症する方もいらっしゃいます。
気管支喘息とCOPDは同じような呼吸器症状がみられますが、治療法は大きく異なります。適切な治療につなげるためにも、気管支喘息とCOPDの鑑別は重要です。
喫煙習慣があり、労作時の息切れ、咳、痰などの呼吸器症状がある方は、一度呼吸器内科を受診して検査を受けていただきたいと思います。
階段や坂道などを登っているときに息切れを感じるだけであれば、軽度であることが多いですが、平坦な道を以前のペースで歩けなくなっている場合には、COPDが少し進んだ状態かもしれません。たとえば、「2人並んで歩いているとき、相手のペースに付いていくことができなくなった」というようなことがあれば、早めに受診するようにしてください。
また息を吐く力が低下すると、だんだんと声が小さくなっていきます。ご自身でそのような自覚がなくても、「最近、話の内容を聞き返されることが多くなった」ということも、COPDの兆候である可能性もあります。
COPDでは以下の4本柱で治療を行います。これらのうちどれか1つではなく、これらを組み合わせた包括的な治療を行うことが重要です。
〈COPD治療の4本柱〉
COPDの治療でもっとも大切なことは禁煙です。
最近、電子たばこを使っている方も多くなってきています。電子たばこは確かにニコチンの摂取量を減らすことはできますが、健康に悪影響を与えるという報告もあります。ですから、電子たばこも含めて禁煙を徹底していただきたいと思います。
患者さんの症状に合わせた薬物療法を行います。薬物療法では肺に空気が入りやすくするために、気管支を拡張させる吸入薬などを使用します。
リハビリテーションでは、残った肺でスムーズな呼吸を行えるようにするためのトレーニングを行います。その1つが口すぼめ呼吸というトレーニングです。横隔膜を鍛えてお腹を使って呼吸することで、肺に空気を取り込みやすくします。口すぼめ呼吸では、口をすぼめお腹に力を入れた状態で息を吸うことで、横隔膜を鍛えます。
リハビリテーションの最大の目的は、身体活動性を落とさないことです。COPDによる息苦しさで体を動かさない状態が続くと、呼吸機能はさらに悪化していきます。COPDの進行を食い止めるためには、患者さんの状態に合わせて全身の筋肉を動かすトレーニングを行うことも大切です。
COPDでは風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症によって、COPDの急性増悪が引き起こされることがあります。急性増悪を防ぐために、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種などを行っていただくことも、大切な治療の1つです。
COPDを発症しているにもかかわらず、診断されていない“隠れCOPD”の患者さんは、非常に多くいらっしゃるといわれています。このような患者さんを拾い上げ、治療につなげることが今後の大きな課題といえます。
先ほどからお話ししているように、喫煙の習慣があり、労作時の息切れや咳、痰などの症状が長く続いているような場合には、なるべく早めに呼吸器内科を受診していただきたいと思います。
国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長 第一呼吸器内科医長
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