日本国内の患者数500万人以上と推測されているCOPDですが、実際に病院で治療を受けているのは約20万人のみ(※厚生労働省健康局生活習慣病対策室による統計)と公表されています。ここでは、久留米大学病院呼吸器内科の川山智隆先生にCOPDとはー息を吐き出すことが困難となる疾患お話をうかがいました。
慢性閉塞性肺疾患(COPD :chronic obstructive pulmonary disease)とは、肺気腫や慢性気管支炎といった閉塞性の肺疾患の総称で、長期間におよぶ喫煙が主な原因とされています。
肺気腫とは、肺を構成している最小単位である肺胞の壁が破壊され膨れた状態になっているもので、息を吐き出すことが困難となる疾患です。一方の慢性気管支炎とは咳や痰が慢性的(1年のうちに3か月以上症状があり、それが2年以上続く)に続く肺の病気です。
日本が高度経済成長期にあった1970年代には、公害問題が各地で報告されていました。有名なところでは四日市喘息などがあげられますが、肺気腫や慢性気管支炎といった疾患も公害による認定疾患に含まれていました。おそらく、それらの公害に伴う慢性呼吸器疾患は、現在私たち呼吸器科医が診ている喫煙が原因とされるCOPDに似たような病態だったのではないかと考えます。
COPDは閉塞性換気障害、つまり息を吐く時に肺内の気流制限が起こる病気で、気流制限の診断はスパイロメトリーという肺活量や1秒量を調べる機械で行います。以前は、肺気腫と慢性気管支炎というようにそれぞれ別の疾患として扱われていましたが、どちらも閉塞性換気障害を伴うことから、COPDとして統一されるようになりました。
COPDの患者数は、推定で約530万人(※NICE研究 :Fukuchi Y, et al. COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology 2004;9(4):458-65. )とされています。しかし、厚生労働省の発表によると、実際に治療を受けているのは20万人(※厚生労働省健康局生活習慣病対策室による統計)と報告されており、潜在的な患者数の把握が難しい疾患でもあります。慢性閉塞性肺疾患の病態は軽症から最重症まで四段階に分類され、軽症の方で症状が無い方は必ずしも治療が必要ではない場合もありますが、その一方で、治療の必要性が高いにも関わらず、症状に気づかないまま治療を受けていないという方も少なくないのです。
COPDは発症原因の九割以上が喫煙といわれています。喫煙者のうち40歳代で発症する方が約3%、その後は年齢を重ねる毎に発症者数も徐々に増えていき、70~80歳頃には30~40%の方がCOPDに罹患しているとされています。
COPDはゆっくりと時間をかけて進行する疾患です。発症年齢も比較的高齢者が多いため、息苦しいとか、何か体がきついといった症状を感じても、「年のせいだろう」と思って放置されていることも多いのです。そのため、患者さん本人も「タバコによって病気になった」と気づいていないことも多く、そのような背景もあって病院を受診していない方がいるのではないかと考えられます。
多くの場合、高齢になって「健康のために運動をしよう」と思ったときに、運動できない、あるいは同世代の方々についていけない、といったことで気づくようです。そこで、久留米大学病院では、6~7年前からスパイロメトリーから算出される「肺年齢」を用いて、一般の人を対象に測定をしています。肺年齢が実際よりも10歳以上あるいは20歳以上上回っているようであれば、病気かも知れないことをお伝えして病院への受診を勧めています。しかし、それもなかなか普及していないのが現状です。
久留米大学 医学部内科学講座 呼吸器・神経・膠原病内科部門 呼吸器病センター教授
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