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インタビュー

COPDの病期分類と危険性-重症でなくとも早期治療と「肺がん検診」を受けよう

COPDの病期分類と危険性-重症でなくとも早期治療と「肺がん検診」を受けよう
西村 正治 先生

北海道大学大学院医学研究院・医学院 呼吸器内科学講座 教授 / 北海道大学病院内科 I 科長

西村 正治 先生

喫煙習慣や受動喫煙などが原因で起こるCOPD慢性閉塞性肺疾患)は、高齢で発症することが多く、軽症の場合は症状も「階段をのぼるときの息切れ」などと重くないことから、患者さんご自身が治療の必要性を感じにくい傾向があります。しかし、COPDは日本人の死因第3位を占める肺炎と相関関係があり、肺がんのリスクともなるため、早い段階で治療を受け、定期的ながん検診を受けることが重要だと、北海道大学病院内科Ⅰ科長の西村正治教授はおっしゃいます。COPDと高齢者の病気の関係性、病院を受診したほうがよいタイミングについて、西村先生に解説していただきました。

スパイロメーター

COPDの確定診断のために行う呼吸機能検査を、「スパイロメトリー」(スパイロ検査)といいます。この検査では、患者さんに息を可能な限り勢いよく大きく「ハーッ」と吐いてもらい、スパイロメーターを用いて努力性肺活量と一秒量、一秒率を計測します。

一秒量とは、最初の一秒間に吐き出した空気量を指し、一秒率とは努力性肺活量のうち一秒量の割合を計算した数値をいいます。

【一秒率=一秒量÷努力性肺活量×100】

COPDとは、末梢気道や肺胞の炎症により息を吐き出しにくくなる病気です。したがって、健常なときと比べて一秒量は低下し、一秒率も小さくなります。

COPDの必須条件は「気管支拡張薬を吸入したあとの一秒率が70%未満」ということであり、一秒率の大小によるCOPDの重症度分類が現在の病期診断の際にも用いられています。喘息もこの一秒率が低下する代表的な疾患ですが、仮に一秒率が70%未満であっても気管支拡張薬を吸入すると多くの場合70%以上と正常化します。

日本でも世界でも、以下のようなスパイロメトリーによる病期分類が、COPD重症度を診断する際のベースとして使われています。

スパイロメトリーによる呼吸機能の分類
スパイロメトリーによる呼吸機能の重症度分類

しかしながら、患者さんの訴えやQOLは、この病期分類と強い相関関係を示すわけではありません。上記のスパイロメトリーで分けられるステージは、あくまで呼吸機能の重症度であり、COPDという病気の重症度を考えるときには、症状や増悪(症状のさらなる悪化)のリスクも組み合わせて総合的に分類することが大切です。

COPDは進行性の慢性疾患であり、病気そのものが元通りなくなるということはありません。しかし、2種類ある強力な気管支拡張薬(抗コリン薬とβ2刺激薬)を片方、もしくは配合薬として使用すると、中等症以上の息切れ症状を確実に軽減することができます。

COPDでは、呼吸機能がある閾値を越えると自覚症状としての「つらさ」が出てきますが、薬により気管支を適度に広げて機能を閾値以上に持ち上げることで、驚くほど楽になるものなのです。

ただし、薬物治療で咳や痰などの症状を抑えるだけの治療は、本当の意味で健康に長生きしてもらうための治療とはいえないのではないかと、私は感じています。

当院では、治療時に必ず「毎日一定の歩数以上歩くこと」を指導しています。

現在、日本全体で取り組んでいる「健康寿命」(ただ長生きするのではなく、身体機能と認知機能を保って元気に長生きすること)を実現するためには、体を動かすことが欠かせません。

そのためには、COPDの患者さんでも体を動かすことを前提とした数値まで、呼吸機能を高めることが重要なのです。COPDの治療目的は、現在出ている症状を抑えるだけでなく、「身体活動性の向上」も含みます。これが、糖尿病認知症といった、COPDとは異なる病気の予防や緩和にも繋がります。

日本では、COPDの発症年齢が世界に比べ高齢へとシフトしています。「安静にしていれば息切れもせず、辛くないから治療を受けない」という考え方は、他の疾患や筋力低下などのリスクを増幅させることにも繋がってしまいます。既にCOPDと診断されている方は、安静時の症状がそれほど辛くない場合でも、体を活発に動かせるよう治療を受けていただくことが大切です。

高齢男性が階段をのぼっているようす

COPDは、「自分は病気である」という病識を持ちにくい疾患です。COPDの症状には慢性的に続く咳や痰のほかに、労作時息切れなどの自覚できる症状がありますが、階段を上ったときや早歩きした時などに感じる労作時息切れは、「歳のせい」と勘違いしてしまいやすい症状でもあります。

階段を上るときにかかる負荷は、セルフチェックという意味でちょうどよい負荷といえます。

ゆっくりとしか上れない、もしくは途中で立ち止まってしまうようであれば、何らかの病気が背後に隠れている可能性もあります。

「30代や40代のときの自分」や「同じくらいの年齢の人」と比べて、息切れ感は強くないかどうかを比較することも、病院を受診するかを判断するためのひとつの方法になります。

喫煙者の方や過去にたばこを吸っていたという方で、上記の症状に思い当たりがあれば、一度検診のようなイメージで、レントゲン検査とスパイロメトリーを受けていただくことをおすすめします。年齢でいうと、60歳や65歳など、退職前のタイミングで受診するのが適しています。

前項では、少しでも疑わしい症状があれば、COPDの検査を受けてほしいと述べました。また、厚生労働省が主導する「健康日本21(第2次)」でも、まずはCOPDという疾患名を国民の皆さんに知ってもらうことを目標のひとつに掲げています。

このように、がんや糖尿病と並び「対策が必要な主要な病気」として取り上げられる理由は、COPDの先に、肺がん肺炎などの重篤な疾患があるからです。

私は北海道大学において、約300例のCOPD患者を登録し、10年間かけて経過などを追跡するコホート研究を行いました。この結果、全死亡例のうち、5人に1人の死因は肺がん、残りの3分の1は肺炎など呼吸器系疾患による死亡だったのです。

つまり、COPDという病気それ自体が原因で亡くなるというよりも、COPDが肺炎・肺がんなど、死に至る疾患を引き起こすリスクとなるということです。

肺がんは、日本人の死亡原因1位を占める非常に多いがんです。ですから、COPDだと診断がついた時点で、毎年がん検診を行うことが重要なのです。

肺がん検診で行う胸部CT検査の有用性は高く、実際に前項で述べた約300人のCOPD患者さんのうち、毎年の胸部CT検査で早期の肺がんが発見された患者さんは多くは救命できています。

COPD自体が軽症の場合、病院を受診して治療を受ける人はそう多くはありません。しかし、肺がんの予防あるいは早期発見に繋げるためには、私たち医師が啓発に力を入れ、軽いCOPDの患者さんを見つけていくことが大切です。

また、こちらも私自身が調査した研究の結果ですが、月間の人口あたりの「肺炎による死亡数」と「COPDによる死亡数」をプロットしていくと、双方の数値はぴったりと相関します。

この結果から、(1)COPDの患者さんが肺炎で亡くなっている、あるいは(2)亡くなった肺炎患者さんにCOPDがあった、という仮説が立てられます。

日本におけるCOPDによる死亡は全体の10位で、男性では8位です。しかし、肺炎は死因の3位を占めており、80歳代や90歳代になると、肺炎による死亡は脳血管疾患などによる死亡よりも多くなります。上記のように高齢者の死亡原因として極めて多い肺炎と結びつけて考えると、COPDの真の危険性と治療の重要性が伝わるものと考えます。

COPDという病気を、「重症になると呼吸がうまくできなくなり、酸素ボンベを手放せなくなる病気」という観点から捉えてしまうと、軽症患者さんや呼吸器を専門としない循環器科の医師の方々には、その危険性が正しく伝わらないこともあります。

それどころか、「70歳代でCOPDだが生活できる程度には歩ける」という患者さんは実際に沢山いらっしゃるため、COPDという病気自体が軽んじられてしまいかねません。

私たち呼吸器を専門とする医師は、COPDの先にあるリスクや、万が一肺炎になってしまったとき、COPDがあると治りにくくなるという情報を広く一般に周知していくことが重要です。

COPD自体が肺がんや肺炎などのリスクとなることを知っていただき、早期診断・早期治療へと結びつけていくことが、「肺の健康」そのものを守ることに繋がると考えます。

 

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