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妊産婦(妊娠中、産後)における新型コロナウイルスワクチンの効果・リスク・注意点など

妊産婦(妊娠中、産後)における新型コロナウイルスワクチンの効果・リスク・注意点など
重見 大介 先生

産婦人科医 、新型コロナワクチン公共情報タスクフォース メンバー

重見 大介 先生

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年03月08日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

日本では、2021年2月17日より新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されました。まずは医療従事者から接種が始まり、高齢の方、基礎疾患を持つ方など順次接種を進めていくとのことです。妊産婦や授乳中の方のワクチン接種については、接種自体は可能なものの、有効性・安全性などについてまだ十分なデータが得られていないことから、接種するかどうかを本人が検討し判断する必要があります。重見大介先生は産婦人科領域における臨床疫学研究に従事するほか、産婦人科専門医としてHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの啓発など女性の健康に関する活動を積極的に行っています。重見先生に、妊産婦が新型コロナウイルスワクチンを接種する際の有効性・安全性、注意点などについてお話を伺いました。

新型コロナウイルスワクチンを除く従来の一般的なワクチンには主に“不活化ワクチン”と“生ワクチン”の2種類があります。

“不活化ワクチン”とは感染力をなくした病原体からできたワクチンで、接種することによってそのウイルスや細菌に対する免疫をつけます。具体例としてはインフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンなどが挙げられます。不活化ワクチンは妊娠中に接種しても安全で、必要ならば適切に接種する必要があります。とりわけインフルエンザワクチンについては、妊娠中にインフルエンザにかかると重症化しやすいという観点から、妊産婦さんの積極的な接種が推奨されています。

一方、“生ワクチン”は生きているウイルスや細菌を微量接種することによってその病原体に対する免疫をつけるタイプのワクチンです。妊娠中の場合は、生ワクチンの接種を避けなければなりません。具体例としては麻疹風疹(ふうしん)、流行性耳下腺炎(通称:おたふくかぜ)、水痘水ぼうそう)、BCG(結核)などへのワクチンが挙げられます。

新型コロナウイルスワクチンのうち日本で接種が始まったもの(ファイザー社)は“mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン”と呼ばれる、これまでほとんど存在していなかった新しいタイプのワクチンで、前に述べた不活化ワクチン、生ワクチンのどちらにも当てはまりません。従来の生ワクチンのようにウイルスそのものを接種するわけではないため、妊産婦の方でも接種可能であると考えられています。

なぜなら、mRNAと呼ばれる物質自体が不安定な存在で、体内に入ると比較的すぐに分解されてしまうため、ウイルスの免疫をつける以外、体に大きな影響を及ぼさないことが期待されているためです。また、基礎研究における知見からも胎児へ影響を及ぼす可能性は小さいと考えられています。
さらにmRNAワクチンの大きな特徴は、ワクチンの設計図があれば一気に量産できることです。今回の新型コロナウイルスワクチンも、ワクチンの設計図を基に各国で実用化が急速に進んでいます。この技術は感染症のみならず、今後もさまざまな病気の薬・ワクチンを作るうえで活用されるのではないでしょうか。

現在登場している新型コロナウイルスワクチンは、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社という3つの製薬会社によって開発されています。このうち、ファイザー社やモデルナ社のワクチンは共にmRNAワクチンなので、有効性・安全性にはほとんど差がありません。一方、アストラゼネカ社のワクチンはmRNAではなく、ウイルスを体に届ける仕組みである“ウイルスベクター“を利用したもので、mRNAワクチンと比較すると有効性の面でやや劣ることが分かっています。

なお、妊産婦さんに対する安全性という観点では、mRNAワクチンもウイルスベクターを利用したワクチンも大きな差はありません。

ファイザー社とモデルナ社の新型コロナウイルスワクチンの有効性は非常に高く、95%の有効率(非接種者に比べて発症する確率を95%低下させる)といわれています。接種後に局所の痛みや頭痛、倦怠感、発熱などがみられることがありますが、多くは数日で軽快すると考えられます。

長期的な安全性については、非常に新しいワクチンなので医師である私たちにも十分わからない部分があります。ただ現段階で知っておいていただきたいのは、今のところ開発した製薬会社や関連学会などから長期的な安全性についての懸念事項は報告されていないということです。長期的な安全性について懸念するような内容があれば必ず報告が出てくるはずですから、「今のところ心配はない」ということだけ理解していただきたいと思います。

また、ワクチンの効果の継続性についてもまだ明らかになっていません。定期的な打ち直しが必要になる可能性もあるため、今後の報道をご確認いただきたいと思います。

新型コロナウイルスワクチンを多くの人が接種することによって、個人の免疫だけでなく多くの人がかかりにくくなる、すなわち“社会的免疫が獲得できる”可能性があります。そのため、私の意見としては有効性・安全性など正しい情報を知ったうえで、自分と周りの人たちのために、なるべくたくさんの人に接種を検討していただきたいです。

社会的免疫が獲得されると社会全体の感染リスクが低下するため、今生じている生活上の制限が緩和されるでしょう。たとえばアメリカの疾病予防管理センター(CDC)では、新型コロナウイルスワクチンの接種が完了した人については感染者との濃厚接触があっても隔離の必要はない、という見解も出ています。この先ワクチンの接種者が増えデータが集まってくれば、多くの国で、ワクチンを接種していれば濃厚接触者を2週間隔離する必要がなくなる可能性もあります。このように社会的免疫を獲得することによって、新型コロナウイルス流行以前の生活に近づけることが期待できるのです。

先にご説明したように新型コロナウイルスワクチンは95%の有効率(非接種者に比べて発症する確率を95%低下させる)といわれていますが、このデータを示す臨床試験には妊産婦さんが含まれていません(これは通常の臨床試験の流れに準じています)。そのため、臨床試験によって妊産婦さんに同じ効果を示すという厳密なデータは得られていないのが実情です。ただしmRNAワクチンの仕組みを鑑みると、妊娠している人が接種すると効果が落ちることは考えにくいため、原理上は一般の方と同等に効果が期待できるはずです。

アメリカではすでに多くの妊産婦さんが新型コロナウイルスワクチンの接種を開始しています。そのため、今後妊産婦さんに対する新型コロナウイルスワクチンの有効性・安全性についてもデータが蓄積されていくでしょう。

新型コロナウイルスワクチンによる妊産婦への特有のリスクとして報告されているものは今のところありません。mRNAは体に入ると比較的すぐに分解されることから、基礎研究や動物実験のうえでは妊娠に関与する胎盤やへその緒、精子・卵子などに対して影響を与えることはないといわれています。

また前述のとおり、新型コロナウイルスワクチン開発の臨床試験には基本的に妊産婦さんは含まれていませんが、実際には妊娠と気付かずに臨床試験を受けていた方も少数含まれていました。そういった方々のデータをピックアップしてみたところ、新型コロナウイルスワクチンを接種しても特別な副反応や有害事象が見られた例はなかったようです。

アメリカで多くの妊婦さんが新型コロナウイルスワクチンを接種している理由は、妊婦さんが新型コロナウイルスに感染するとさまざまなリスクがあることが分かっているからです。

現段階で、妊婦さんが新型コロナウイルス感染症にかかり集中治療室に入るほど重症化するリスクは妊娠していない同年代の女性の3倍ほどで、死亡率は2倍弱にまで高まるという報告があります。また、感染症による炎症反応などの影響で早産となることも少なくありません。なお、肥満や妊娠糖尿病などをお持ちの方はより一層リスクが高まると考えられています。

アメリカでは、このように感染した場合のリスクとワクチン接種による副反応などのリスクを天秤にかけ、その結果として新型コロナウイルス感染症の発症を抑えるためにワクチン接種を選ぶ方が多いと考えられます。

特に妊婦さんは定期的に妊婦健診を受ける必要がありますから、外出を完全に控えることはできません。感染予防のために100%家に引きこもるということは難しいため、ワクチンを接種したほうがよいと考える方も多いでしょう。

ただし、妊産婦さんの新型コロナウイルスワクチンの接種義務については国によって方針が異なり、接種を積極的に推奨する国もあれば、まだ様子を見ている国もあります。

日本でも現在は接種の努力義務が外されたため、妊産婦さん自身が判断することになっています。どの国でも共通しているのは“妊産婦さん自身が接種する・しないを判断する、ということが尊重されている”ことです。妊産婦さんの体の状態や基礎疾患(糖尿病など)の有無によってもリスクは異なるため、できればかかりつけ医と相談しながら判断していただきたいと思います。

授乳中の方が新型コロナウイルスワクチンを接種することは、妊産婦さん以上に安心であるといわれています。そのためアメリカのCDCや産科婦人科学会、日本の関連学会も、授乳中の方に対しては一般の方と同じようにワクチン接種を検討してよいと明言しています。

こちらに関して臨床試験は行われていませんが、基礎研究によればワクチンの成分が母乳に移行して赤ちゃんにうつる可能性は極めて低いとのことです。また、仮に微量のワクチン成分が赤ちゃんにうつったとしても、それが悪い影響を起こすことはないといわれています。

妊娠を考えている方、不妊治療を行っている方の中には、新型コロナウイルスワクチンを接種することで妊娠の確率が下がるのではないかと懸念される方もいるようです。

こちらも臨床試験が行われているわけではありませんが、基礎研究の結果ではmRNAワクチンの成分が精子・卵子に影響を及ぼすことはないと考えられ、接種によって妊娠の確率が下がる心配はないと考えてよいでしょう。ちなみに、これまで使用されてきたほかのワクチンにおいても、妊娠に大きく影響を及ぼすものはないとされています。新型コロナウイルスワクチンの接種を理由に不妊治療を中断したり、妊娠を諦めたりする必要はありません。これは、やはりアメリカのCDCや産科婦人科学会、日本の関連学会がそのように見解を述べています。

日本産婦人科感染症学会が2021年1月に発表した資料によれば、妊産婦さんが新型コロナウイルスワクチンを接種する際は、一般の方と同様に本人の同意を得てから接種し、ごくまれに起こる副反応“アナフィラキシー・ショック”の可能性を考え、接種から30分は病院内で経過観察を行うこと、できる限り接種の前後に超音波検査を行い赤ちゃんの心拍や状態を確認することなどが提言されています。

ワクチン接種時の具体的な流れについてはまだ決まっていないことも多いのですが、妊産婦さんの接種はかかりつけの病院で赤ちゃんの状態を見ながら行われる可能性もあると考えています。

新型コロナウイルス感染症は高齢の方や基礎疾患のある方が重症化するというイメージが強いかもしれませんが、30〜40歳代など若い方でも重症化して命を落とす方がいますし、妊婦さんの重症化リスクも高いです。そのため新型コロナウイルスワクチンが普及することによって、年齢や基礎疾患に関係なく、重症化して命を落とす方が減ることを非常に期待しています。ただ、ワクチンがあればもう安心、というわけではないので、引き続き感染対策などは続けていく必要があるでしょう。

私は産婦人科医として、さまざまな原因で妊婦さんが重症化して集中治療室に入ることを経験してきましたし、妊産婦さんの意識がない中で赤ちゃんを助けるために帝王切開をするのかどうか、決断を迫られ葛藤するお父さんの姿も見てきました。新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されることで、このような切迫した状態を1つでも防ぐことができると思うと、産婦人科医としてこれほど嬉しいことはありません。

  • 産婦人科医 、新型コロナワクチン公共情報タスクフォース メンバー

    日本産科婦人科学会 産婦人科専門医日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医師

    重見 大介 先生

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