新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢市で報告され、以後世界各地で感染が拡大している病気です。
基礎疾患(持病)のある人や高齢者がかかると重症化しやすいといわれており、重症化すると命を落とすこともあります。心不全、拡張型心筋症など心臓病にかかっている人も例外ではなく、新型コロナウイルス感染症にかかると重症化リスクが高いため、感染予防対策をしっかり行うことが肝要です。
本記事では、心臓病にかかっている人が新型コロナウイルス感染症流行にあたって注意すべき点などについて、日本循環器学会COVID-19対策特命チームで副委員長を務める国際医療福祉大学 大学院医学研究科 循環器内科学教授 岸 拓弥先生にお伺いしました。
※本記事は2020年4月27日時点の医師個人の知見に基づくものです。
心臓に持病がある人がそうでない人に比べて、新型コロナウイルスに感染しやすいということはありません。感染のしやすさは心臓に持病がない人と同じで、感染症予防対策を十分に行うことで感染を防ぐことができます。
心臓に持病がある人は感染症の症状が出やすく、重症になる可能性があります。また、新型コロナウイルスが体内に入ると心臓に過度な負担がかかり、心臓病が悪化してしまう可能性もあります。これは、肺にウイルスが感染すると血液中の酸素濃度が下がるほか、炎症反応により血圧が下がり、酸素を全身に届ける効率が悪くなってしまうためです。酸素を全身に届ける効率が悪くなると、心臓は大切な臓器に必要な酸素を送るために通常よりもさらにはたらく必要が生じるため、負担が大きくなってしまうのです。
心臓病を抱える患者さんのなかでも、特に危険性があるのは次のような病気を持っている場合です。
また、それ以外の心臓病であった場合でも、以下の条件が重なる場合には感染リスクや重症化リスクが高いと考えられているため注意が必要です。
過去に診断された心臓の病気の内容や状況、さらには以前受けていた治療の内容によって、異なります。その悩みは1人で抱え込まず、現在通院されている病院の主治医や以前受診していた病院の医師に相談するようにしましょう。
中国の論文などから、高血圧薬の一種であるアンテジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(以下、ACE阻害薬)やアンテジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(以下、A2RB・ARB)の服用によって、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすくなるのではないかという話題が挙がりました。
しかし、現段階では臨床データとしてそのような確証はなく、各国の心臓病学会、高血圧学会などでもACE阻害薬やARBの服用を継続するよう呼びかけています。そのため、自己判断で服用をやめずに医師の指示のもと服用を続けていただきたいです。なぜなら、高血圧症の人が高血圧薬を服用しなくなることで血圧が上がり、それに伴う病気が生じてしまう可能性もあるからです。
なお、ACE阻害薬には副作用として咳が出ることがあります。新型コロナウイルス感染症が流行して以来、咳をすると周囲の人の視線が気になり自己判断でACE阻害薬の服用をやめてしまう患者さんもいます。前述の通り、自己判断で高血圧薬の服用をやめてしまうと、血圧が上がり体に悪影響が生じる危険性があります。そのため、ACE阻害薬による咳の副作用がどうしても気になるというときは医師に相談しましょう。
繰り返しになりますが、1人で悩まないようにしてください。現在のような特殊な状況では、通院の必要性や通院頻度が治療状況、病院の方針、病院のある地域やお住まいの地域によってそれぞれ異なります。まずは、次の通院予定日までに通院している病院に電話で相談してみましょう。また、2020年4月13日から初診でもオンライン診療が行われるようになり、病院によって導入している場合もあります。したがって、不安だからといって予定外の受診をしたり、ご自分の判断で受診をやめたりすることのないようにしてください。
なお、受診が必要な場合には、マスクの着用や三つの密(密閉・密集・密接)の回避などを病院内外で十分に行い、帰宅後は手洗いをしっかり行うなど感染症予防対策を徹底しましょう。
慢性心不全の人は新型コロナウイルス感染症にかかわらず感染症が重症化しやすいため、日頃から感染症予防対策を徹底している人も多いと思います。引き続き、日頃の感染症予防対策を行っていただくほか、新型コロナウイルス感染症予防対策として“三つの密”を避け、“ソーシャルディスタンス(社会的距離)”を確保することを心がけていただきたいです。
三つの密とは、換気の悪い密閉空間、多人数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面の三つを指します。これらの環境ではウイルスが人から人へ移りやすくなり、新型コロナウイルス感染症にかかってしまう恐れがあるため、なるべく三つの密が想定される環境に足を運ばないようにしてください。万一、三つの密が想定される場所に行く必要がある場合にはマスクを着用し、帰宅後の手洗いを行いましょう。
また、ソーシャルディスタンスとは、人との間に距離を取ることをいいます。具体的には、人と人の間を2m程度取ることが望ましいといわれています。
なお、心臓病の患者さんのなかには国からの外出自粛要請などに伴い、これまで頑張ってきた心臓リハビリテーションが行えなくなったり、日常生活での運動量が減ってしまったりしている方も多いと思います。これは、慢性心不全に悪影響を及ぼす可能性もありますので、自宅でもできる運動を積極的に行ってください。
心臓病を持っている家族が新型コロナウイルス感染症にかからないよう気をつけることは、これまで述べてきた通りです。それに加え、同居者自身が新型コロナウイルスに感染しないことも大切です。「自分は大丈夫」と思わず感染予防対策を行うことにより、家族を守ることにつながります。
今回の新型コロナウイルス感染症流行により、世界各国で経験したことのない状況が起きています。心臓病を抱えている患者さんにとっては、新型コロナウイルスへの感染・重症化リスクという問題のほか、感染者が増えることで病院が通常の検査・治療を行えなくなることによる問題が挙げられます。たとえば、新型コロナウイルス感染症の患者さんが急増し、病院に多くの患者さんが入院することで医療崩壊が起きた場合、心臓の病気で救急治療が必要になっても受け入れられる病院がないという可能性が生じます。助けられる命が助けられなくなる可能性があるということです。
また、循環器科に限らず病院では、すでに医療従事者の疲弊を感じます。新型コロナウイルス感染症の流行により業務がイレギュラーになったこと、医療従事者の家族が感染を疑われていじめにあうことなど、精神的にも肉体的にも厳しい状態が続いています。このままでは、たとえ感染拡大が落ち着きをみせても、医療従事者の活力が奪われ医療体制が機能しなくなることが懸念されます。今後は、医療従事者のケアにも力を入れていく必要があるでしょう。
まずは、帰国者・接触者相談センターへの相談を検討しましょう。帰国者・接触者相談センターでは、症状や基礎疾患にあわせて対応できる病院の紹介などを行っています。
また、心臓病の症状があるなど不安な場合には、かかりつけ医に相談することもよいでしょう。ただしその場合、医療機関によっては感染症の対応ができない場合もありますので、感染拡大を防ぐためにも突然かかりつけ医や病院を受診するのではなく、まず電話で相談するようにしてください。
日本循環器学会では、新型コロナウイルス感染症に関するスピーディーな情報発信や他学会との連携を進めるため、COVID-19対策特命チームを結成し活動しております。以下のサイトで心臓病にかかっている患者さん向けの情報を公開しておりますので、ぜひご覧ください。
国際医療福祉大学 大学院医学研究科(循環器内科学)教授、国際医療福祉大学 福岡薬学部 教授、医療法人社団 高邦会 高木病院 院長補佐、高血圧・心不全センター外来担当
心不全・高血圧治療におけるオピニオンリーダー
九州大学医学部を卒業後、同大学循環器内科学に入局。九州大学循環器病未来医療研究センター部門長を経て、現在は国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)および福岡薬学部にて教授を務める。循環器内科、特に高血圧や心不全を専門とし、国内ならびに国際学会で評議員やフェローを務め、ガイドライン作成や委員会活動に携わっている。多臓器連関循環動態恒常性維持システムを脳機能から紐解く研究も行っている。
岸 拓弥 先生の所属医療機関
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