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高血圧治療の未来を考える
血圧は、心臓の動きに連動して1日に10万回も異なる値を示しますが、これは1ヶ月に換算すると300万回に及びます。そのため、1ヶ月のうちたった1回血圧を測定するだけでは高血圧かどうか診断することは...
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高血圧治療の未来を考える

公開日 2015 年 10 月 19 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

高血圧治療の未来を考える
岸 拓弥 先生

九州大学循環器病未来医療研究センター循環器疾患リスク予測共同研究部門 部門長

岸 拓弥 先生

血圧は、心臓の動きに連動して1日に10万回も異なる値を示しますが、これは1ヶ月に換算すると300万回に及びます。そのため、1ヶ月のうちたった1回血圧を測定するだけでは高血圧かどうか診断することはできません。ですから本来は、毎日できるだけ多く血圧を測定することが望ましいのです。

ダイエットをするとき、毎日体重計に乗って体重を測定し、日々の生活と体重の現状を毎日把握することが最も重要です。血圧も同様です。高血圧の治療でも毎日の日常生活の中での生きた動く数字として血圧を測定し、そのすべてのデータをもとに診療していくことが今後の高血圧治療に期待されていることです。1日に10万回測定したデータを集めることができれば、これはビッグデータにあたります。将来的な高血圧治療について、九州大学循環器病未来医療研究センター准教授の岸拓弥先生にお話をうかがいました。

ビッグデータとしての血圧

現在、治療の際に基本的に指針とするのは家で毎日測定する家庭血圧です。しかし、血圧は本来は1日に10万回、月に300万回測定することができるビッグデータです。このビッグデータを正確に収集・分析できるようになれば明らかに高血圧診療が変わっていくことが期待されます。

たとえば、2015年9月のApple社の発表によれば、新しいAppleWatch®では胎児心拍がとれるようになるといわれています。同じように、ウェアラブルデバイスで血圧(または血圧と相関する指標)が測定できるようになったら、外来という特殊な環境や、家庭血圧とはいえ血圧計の前に座って測定する血圧とは本質的に異なる、日常生活における「本当の血圧」を患者さんの日々の生活の中で記録でき、その情報を主治医と患者本人が共有することが可能になるのかもしれません。

ビッグデータとしての血圧を扱うことで何が変わるか

もし血圧のビッグデータの取得が可能になれば、その解析や判断に人工知能が大いに活躍すると考えられます。まず、ビッグデータをもとにして患者さんや高血圧治療全体の現状を把握することができるようになり、治療のガイドラインは発展性を持ち益々充実したものになるでしょう。そのガイドラインとデータとの関連づけも容易になれば、患者さんひとりひとりに合ったより細かな治療も可能です。

これは、飛行機でたとえるなら自動操縦モードです。また、法曹の世界でも過去の膨大な判例データをリファレンスする部分に関しては人工知能に頼る部分が多くなっています。医療もそのような方向に向かうといよいと思います。もちろん、自動操縦モードを使うかどうかを決定するのは人間ですが、スピード・クオリティともに大いにレベル向上ができる可能性があります。今までは不可能だったようなペースで、今まで不可能だった治療が可能となっていくのではないでしょうか。

往診の経験から

医療における自動操縦モードが必要な理由をさらにお話しします。まず、この背景には自分自身の往診の経験があります。私は以前、高血圧の患者さんのご自宅に往診する機会があり、一緒に食事をいただくことがありました。すると、なぜその患者さんの血圧が下がらないのかよく分かリました。味付けが濃すぎたり、食卓の手の届くところに醤油があったり、コタツの周りにすべての生活に関するものがあって体を動かす機会が極めて少ない、などの様子から生活習慣が分かったのです。

外来の診察室で数字だけを見ても分からないこと、つまり患者さんの生活全体を見ることから高血圧の治療が始まると言っても過言ではないでしょう。「生活習慣病」ですから、生活習慣を把握することなしには本質的な治療はありえない、そんな当たり前のことを忘れていたことをとても反省したきっかけでした。

もちろんすべての人に往診をすることはできませんから、それぞれの患者さんの生活を見ていくためのデータとしてライフログ(生活の記録)が適切に採集できるようにしなくてはなりません。しかしそのための試みは今現在すでに行われています。ライフログをとれば扱う情報は今以上に増えますが、それらをすべて把握することは到底できないので人工知能による自動操縦モードが必要になるのです。医師はそれをもとに適切な「決定」をしていくことが可能になるのです。

明るい未来をつくるために

高血圧治療の目的は、目の前にある数字としての血圧の値を下げることは大前提ですが、それがゴールではありません。脳卒中や心筋梗塞など高血圧による臓器障害を予防して、患者さんが元気に末永く暮らしていけるようにすることこそが目的です。そのためには、もっと多くの血圧データや生活習慣全体を把握する手段が必要です。

高血圧診療における未来の医師の姿は、日々刻々と変化するビッグデータとしての血圧を見て適切な判断をしていくトレーダーのような役割に加え、患者さんの人生を安全に運行させるためのパイロットとも重なるかもしれません。人間は複雑で多様性がありますし、それぞれの人生にはすべて違った背景があります。そのため、医療はもっともっと個別に対応できるようにならなくてはなりません。人工知能の力を借りることにより、よりオーダーメイドな治療が可能になるとともに、医師にしかできないコミュニケーションなどアナログな部分にもより注力していけるようになるのではないでしょうか。

九州大学医学部を卒業後、同大学循環器内科学に入局。現在は九州大学循環器病未来医療研究センターで准教授を務める。循環器内科、特に高血圧や心不全を専門とし、多くの国内ならびに国際学会で評議員を務めるオピニオンリーダー。高血圧、心不全を脳機能から紐解く研究では他の追随を許さず、世界的にも非常に高い評価を受ける。