【インタビュー】
血圧はなぜ変動するのか―脳の大きな影響
公開日 2015 年 10 月 17 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日
- 高血圧


九州大学循環器病未来医療研究センター循環器疾患リスク予測共同研究部門 部門長
岸 拓弥 先生
「高血圧」「血圧が高い」とよく耳にしますが、なぜ「高血圧」は問題なのでしょうか。
高血圧は血管に動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞などの危険な循環器疾患の要因になります。心筋梗塞は、血管が詰まってしまうことにより心臓が致命的なダメージを受けてしまう病気です。もちろん、この心筋梗塞の治療も最近は進歩してきており、必ずしも死に至る病気ではなくなっていますが、依然として危険な病気です。心筋梗塞を防ぐためには、その大きな要因となる高血圧を適切に管理していく必要があります。
高血圧はどのようにして起こるのでしょうか。九州大学循環器病未来医療研究センター准教授の岸拓弥先生にお話をお聞きしました。
血圧は変動する
血圧の変化は株価の変動と類似しています。株価は、経済や国際情勢、場合によっては天変地異などさまざまな要因によって変動します。血圧も同じように、一日のうちでも測定するたびに毎回違う値を示します。一瞬たりとも同じ数字はありません。これは、血圧が異なる時間軸を持つ種々の要因により決定されるからです。
歴史を紐解いてみると、すでに1970年代には長期的な血圧を決定するのが腎臓で短期的には種々の反射であると提唱されています。その後の研究で、神経体液性因子や炎症など様々な要因が影響していることがわかってきました。しかし一貫して変わらない重要なことは、循環調節に関わる複数の臓器が連関して維持する恒常性の破綻が高血圧であり、その臓器連関システムの中枢が脳であるということです。たとえ一時的に血圧が上がってしまうことがあっても、血圧が不必要に上昇したことを脳が認識して調節してくれれば、血圧はもとに戻ることができるのです。脳が血圧を感知して血圧を調節するシステム、それが圧受容器反射です。
血圧を感知するセンサー「圧受容器」
頸動脈にある圧受容器は、血圧を常に感知することによって血圧を一定に保とうとするためのセンサーです。
たとえば、血圧が上がったことを圧受容器が感知します。すると、脳に「血圧が上がった」という報告が伝わり、神経を通して体内の各臓器に「血圧を下げて一定に保つように」指示をするのです。これを圧受容器反射といいます。圧受容器によって危険を感知し圧受容器反射によってその危険を回避する、つまりこの2つの働きは「血圧を常に監視しながら血圧を決めることのできる生体固有の大事なシステム」といえます。このとき活躍する神経が「交感神経」です。交感神経は血圧を上げるアクセルのような働きをします。
血圧の変動を察知し一定に保とうとすることは「生体の恒常性(生物が外からの影響に左右されず身体を一定の状態に保とうとする習性)」を保つためのしくみのひとつで、とても重要な働きです。それにもかかわらず、これがきちんと機能せず高血圧になってしまうのは、中枢である脳の働きが正常でないからです。
次の記事「高血圧の原因―塩分のとりすぎで脳がきちんと機能しなくなる」では、脳が正常に働かない理由について説明していきます。
高血圧 (岸拓弥先生)の連載記事
- 記事1: 血圧はなぜ変動するのか―脳の大きな影響
- 記事2: 高血圧の原因―塩分のとりすぎで脳がきちんと機能しなくなる
- 記事3: 高血圧治療の未来を考える

九州大学循環器病未来医療研究センター循環器疾患リスク予測共同研究部門 部門長
岸 拓弥 先生
九州大学医学部を卒業後、同大学循環器内科学に入局。現在は九州大学循環器病未来医療研究センターで准教授を務める。循環器内科、特に高血圧や心不全を専門とし、多くの国内ならびに国際学会で評議員を務めるオピニオンリーダー。高血圧、心不全を脳機能から紐解く研究では他の追随を許さず、世界的にも非常に高い評価を受ける。
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