
前の記事「血圧はなぜ変動するのか―脳の大きな影響」では、血圧の変動にはさまざまな要素が関係していること、圧受容器と圧受容器反射が血圧をコントロールするうえで非常に重要であることをお話ししました。通常、一時的に血圧が高い状態になっても、脳がしっかり機能していれば高血圧になることはありません。しかし、何らかの理由で圧受容器反射における脳の役割が機能不全になると高血圧になります。
この圧受容器反射を狂わせてしまう、つまり脳の働きを鈍らせる原因のひとつに塩分の過剰摂取があります。塩分制限の重要性について、九州大学循環器病未来医療研究センター准教授の岸拓弥先生にお話をうかがいました。
塩分は血圧を上げる要因のひとつです。食塩は、塩化ナトリウムとも表現されますが、私たちの身体にはナトリウムを一定に保とうとする働きがあります。少なくなりすぎれば体内から出さないようにする必要がありますし、多くなりすぎれば体外に排出できるようにします。とりすぎてしまったナトリウムは尿として体外に排出されますが、これは血圧を上げることによって起こる作用です(圧利尿のメカニズム)。
この機能がきちんと働いているうちは、塩分をとって一時的に血圧が上がっても圧受容器が感知し、脳が交感神経を抑制して圧利尿関係が活性化して塩分を排出し血圧を下げることができます。
しかし、過剰な塩分摂取で血圧が上がる機会を何度も何度も頻繁につくると、次第に脳内のレニン・アンジオテンシン系活性化を介して酸化ストレスや炎症が惹起され、圧受容器反射が正常に起こらなくなってしまうのです。この、血圧が上がっていることに脳が気付かず、血圧が常に高いままになった状態が高血圧と考えることができます。
高血圧は、上がってしまった血圧を自分の体内でうまく下げることができず起きてしまった結果にすぎないので、血管を開く薬を飲んで血圧を下げることはある意味では対症療法に過ぎないとも言えます。そもそもの原因である「塩分のとりすぎ」を解決しなければ、根本的な解決にはならないのです。脳は今の身体の状態をもとに次の指示を出すので、塩分制限をすればふたたび血圧の上昇に気づくことができるようになり可能性があります。
塩分コントロールをして圧受容器反射が起きる状態を保つ以外には、副交感神経を活性化させることが重要です。副交感神経は、交感神経をアクセルとすると、ブレーキのような役割をしています。最近の我々の研究で、副交感神経を活性化する事で圧受容器反射の脳の役割が回復する可能性があることがわかりました。つまり、このブレーキとアクセルの両方の役割がうまく機能するように身体を管理することが望ましいのです。
では、副交感神経を活性化させるにはどうすればよいのでしょうか。肺や消化管・骨格筋から脳への神経が副交感神経を活性化しますので、肺をしっかり膨らまして筋肉を使う適度な運動や楽しく食事をすること、すなわち「生活習慣を整える」ということが重要です。
減塩をはじめとした生活習慣の改善が高血圧治療に欠かせないことは、以前から指摘されていることです。この記事では、それが欠かせないことの理由を科学的な根拠をもとに説明してきました。生活習慣の改善がこれほど重要視されることには、以上のような理由があるのです。
国際医療福祉大学 大学院医学研究科(循環器内科学)教授、国際医療福祉大学 福岡薬学部 教授、医療法人社団 高邦会 高木病院 院長補佐、高血圧・心不全センター外来担当
心不全・高血圧治療におけるオピニオンリーダー
九州大学医学部を卒業後、同大学循環器内科学に入局。九州大学循環器病未来医療研究センター部門長を経て、現在は国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)および福岡薬学部にて教授を務める。循環器内科、特に高血圧や心不全を専門とし、国内ならびに国際学会で評議員やフェローを務め、ガイドライン作成や委員会活動に携わっている。多臓器連関循環動態恒常性維持システムを脳機能から紐解く研究も行っている。
岸 拓弥 先生の所属医療機関
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