高血圧は1つの原因からではなく、複数の原因によって起こります。よく知られているのは塩分の摂りすぎですが、そのほかにも交感神経の作用や、マグネシウムの不足によって高血圧のリスクが上がります。特にマグネシウムの摂取不足は日本人に多く、高血圧の原因としてはあまり知られていませんが、高血圧を含め人体にさまざまな影響を及ぼすことが分かってきています。
今回は高血圧の原因とマグネシウムの不足について、済生会呉病院 院長の松浦秀夫先生にお話を伺いました。
血圧は血管の壁にある平滑筋という筋肉と、心臓の筋肉である心筋の収縮によってコントロールされています。平滑筋には血管の抵抗を調節する役割があり、心筋は血液を血管に送り出す役割を持っています。このバランスによって人間の血圧は正常な値に保たれています。
高血圧の原因といえば“塩分の取りすぎ”がよく知られています。しかし、高血圧に至るにはこのほかにもさまざまな原因があるといわれています。ここではいくつかの代表的な原因について、詳しくご説明します。
代表的な高血圧の原因
食事の中で塩分を摂りすぎると高血圧を招きます。これにはいくつかの原因が考えられています。
1つめは、塩分過多が起きることで循環血液量が増加してしまうからです。血液には体内の塩分が少ないと循環血液量が減り、塩分が多いと循環血液量が増加する仕組みがあります。
実は動物の体は元来塩分を蓄えやすい性質を持っています。これは海から陸へと生活環境を変えた生物の歴史に影響しているといわれています。海で生活していた頃の生物は、海水中に十分な塩分が常に溢れていたため、塩分を溜め込む必要がありませんでした。しかし、陸に上がった生物は塩分を摂取できる機会が少ないため、体の中に塩分を溜め込むメカニズムが進化しました。
そのため塩分の多い食生活を送っていると、体内に塩分を溜め込みやすくなります。それに伴って循環血液量が増加し、高血圧を発症してしまうのです。
2つめは塩分の増加が細胞内のカルシウムの増加を引き起こし、血管の収縮を促すことで高血圧を起こしてしまうからです。カルシウムには血管の壁にある平滑筋にはたらきかけ、血管を収縮させる役割があります。
塩分が多く体の中に取り込まれると、平滑筋の細胞にも過剰な塩分(ナトリウム)が入り込んでしまいます。平滑筋にナトリウムが多く含まれると、それを追い出すはたらきが起こります。そのはたらきに伴って必要以上のカルシウムが平滑筋の細胞内に入り込んでしまうのです。
塩分過多と高血圧は上記のように密接に関わっています。しかし塩分を過剰に摂取している方が必ずしも高血圧を引き起こすというわけではありません。
人間の体には人それぞれの“食塩の感受性”があります。食塩の感受性が高い方は、食塩をたくさん取ればその分食塩が体の中に蓄積され、血圧が上昇します。その一方で食塩の感受性が低い方は不必要な食塩を自然に排泄してしまうため、食塩を多く摂ったとしても血圧にさほど大きな影響が出ることはありません。
しかし“食塩感受性”を評価することは難しく、個人個人が食塩の摂りすぎに注意することが非常に大切です。
血圧は交感神経の緊張によっても上昇します。交感神経とは自律神経の一種で、体の活動力を高めるはたらきがあります。同じく自律神経の一つで、交感神経と対抗する副交感神経は体を休めるはたらきを持ち、これらのバランスによって人間は活動と休息を繰り返しています。交感神経がはたらくと、血管の収縮が強くなり、心臓からたくさんの血液が送られるようになります。
運動や活動などで一時的に交感神経が優位となり血圧が上がる分には、自然な反応といえます。しかし自律神経が乱れて、交感神経が優位の状態が続くと血圧の高い状態が続いてしまうため、注意が必要です。
マグネシウムは血圧に直接的に影響することはありません。しかしマグネシウムには血管を収縮させるカルシウムと密接な関わりがあります。マグネシウムはカルシウムが血管を収縮させるはたらきを抑制し、血圧を正常に保つ役目があります。そのためその役目を果たすマグネシウムが不足してしまうと、高血圧を引き起こす原因の1つとなります。
ここでマグネシウムについてご説明します。マグネシウムとは、カルシウムなどと同じく5大栄養素として知られるミネラルの一種です。マグネシウムは体内で300以上の酵素のはたらきを調節する重要な栄養素として知られています。
ミネラルの5大栄養素
マグネシウムはカルシウム、カリウム、ナトリウムに次いで体内に多く見られます。また、全てのマグネシウムが体内で機能を発揮するわけではありません。“イオン化”したマグネシウムのみ生存に必要なはたらきをします。
イオンとは“電離した元素や分子”のことで、水に溶けた際に電気を通す電解質(ミネラル)などの物質のことを指します。イオン化したミネラルは、人の体の中でさまざまなはたらきをします。
現在臨床の現場では、血液検査でマグネシウムを測定しています。もちろんこの検査によってマグネシウムの量が適正値よりも低ければ、高血圧やその他のマグネシウム不足による症状が懸念されます。
しかしこの検査では、計測されたマグネシウムがイオン化しているのか、そうでないのかを知ることはできません。マグネシウムがイオン化しているかどうかを調べるには専用の医療機器を用いた専門的な検査が必要となります。そのため臨床の現場でイオン化したマグネシウムを測定することはほとんどできません。
理論上、マグネシウム不足が高血圧を引き起こすことは間違いないのですが、このような背景からマグネシウム不足が厳密にどの程度高血圧と強く結びついているのかを評価するのは難しいという現状があります。
マグネシウム不足は高血圧以外にも体内にさまざまな影響を及ぼします。マグネシウム不足が引き起こす病態としてよく知られているものは下記のとおりです。
マグネシウム不足による人体への影響
社会福祉法人恩賜財団済生会支部 広島県済生会 済生会呉病院 院長
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