高血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力(血圧)が高い状態のことを指します。血圧は日常生活や時間帯、季節によっても左右されますが、持続的に血圧が高い状態を“高血圧症”と呼びます。
高血圧になると血管に持続的に負担がかかるため、血管がしなやかさを失う“動脈硬化”によりさまざまな病気を引き起こすほか、心臓に負担がかかるために心不全へとつながることもあります。そのため、原因を理解したうえで予防に努めることが大切です。
このページでは、高血圧の原因や予防方法などについて詳しくご紹介します。
血圧の高い状態が続く“高血圧”には、はっきりした原因が分からない“本態性高血圧症”と病気など原因が明らかな “二次性高血圧症”があります。日本では90%程度が本態性高血圧で、生活習慣や遺伝的な要素が深く関係して発症すると考えられています。
そのため、高血圧を予防するには、原因となる生活習慣を改善することが重要なポイントになります。
高血圧の90%程度を占める本態性高血圧では、主に以下のような生活習慣が関係して発症するといわれています。
食塩を取り過ぎると血液中の塩分量が高くなるため、その濃度を下げるために体が自然と水分をため込みやすくなります。その結果、体の中の血液量が増えて血圧が上昇します。
また少し複雑な話になりますが、人間にはもともと“鉱質コルチコイド受容体(MR)”といって、腎臓で塩分を再吸収し塩分の少ない環境でも生き続けられる仕組みが備わっています。しかし近年は、生活習慣の変化によって人々が塩分を取り過ぎるようになり、これによってMRが過剰に活性化するようになってきています。
MRの過剰な活性は、血圧の上昇、心血管病、慢性腎臓病(CKD)など、さまざまな病気に影響を与えていることが分かってきています。
肥満になると、高血圧が発症する確率が2〜3倍高まるといわれています。特に内臓に脂肪が付く“内臓脂肪型肥満”では、以下のような理由で高血圧が生じやすくなります。
前述のとおり、塩分と高血圧は密接に関わっていることから、高血圧では塩分をコントロールすることが基本です。しかし、高血圧の中でも塩分の摂取量を減らすと顕著に血圧が改善するタイプの高血圧(食塩感受性高血圧)と、塩分の摂取量を減らしてもさほど血圧に変化がないタイプの高血圧(食塩非感受性高血圧)があることが分かっています。
一見、食塩感受性高血圧は塩分摂取量を減らすことで改善が期待できるため、治療しやすい高血圧と感じるかもしれません。しかし、食塩感受性高血圧はそうでない高血圧と比較して心臓や血管に負担がかかりやすく、これらに関係する病気にかかるリスクが2倍以上になると考えられています。また塩分を取り過ぎてしまうと、血圧を下げる治療薬が効きにくくなってしまうことにも注意が必要です。
食塩感受性高血圧にかかりやすい方の特徴として、両親も食塩感受性高血圧であることや腎臓障害があること、中高年であること、塩分を取った後顕著に血圧が上昇することなどが挙げられますが、そのほかに肥満や肥満気味であることも挙げられています。
日本では、高血圧患者の40%程度が食塩感受性高血圧であると考えられています。
過度の飲酒は血圧を上昇させてしまうため、高血圧を招く恐れがあります。
人間はストレスがたまると交感神経のはたらきが高まり、心拍数などが上がることで、血圧が上がることもあります。
たばこに含まれる“ニコチン”が血管を収縮させるため、血圧を上げてしまう恐れがあります。
運動不足の状態が続くと血圧を調整する機能が低下し、血圧が上がってしまったり、肥満を招いて高血圧の原因になってしまったりすることがあります。
血圧が高めになりやすい体質は遺伝すると考えてられており、本態性高血圧症のおよそ60%に遺伝が、残りの40%に生活習慣が関与していると考えられています。
一方で、原因が明らかな“二次性高血圧症”は、若い方や治療抵抗性(治療を行っても効果がみられないこと)がある方などで疑われる高血圧です。この場合、以下のような病気や治療薬によって高血圧が生じていると考えられており、安静時採血やエコー検査などを行い原因を特定します。
高血圧は自覚症状のない場合も多いため、定期的に健康診断を受けることが大切です。
また、高血圧であると指摘されたときや気になることがあったときには医療機関を受診しましょう。生活習慣が主な原因となる本態性高血圧の場合には、生活習慣を見直すことで予防・改善が期待できます。
まずは、塩分を取り過ぎない工夫をすることが大切です。減塩と聞くと大変だという印象を抱く方もいますが、以下のような工夫を積み重ねることで、無理なく減塩を続けられることが期待できます。
飲酒量が多い方は1日の飲酒量をビールで中瓶1本、清酒で1合までにとどめましょう。
そのほか、塩分を体から排出するカリウムや、血管を広げて血圧を下げるはたらきが期待できるマグネシウム、不足すると血圧上昇につながるカルシウムなどの栄養素を積極的に摂取することも大切です。具体的には、以下のような食材に多く含まれています。
軽い運動習慣を取り入れることにより、心肺機能が高まり、血圧が徐々に低下していくことがあります。また、肥満やほかの生活習慣の予防にもつながります。
具体的には、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動がおすすめです。
喫煙は高血圧の原因となるため、喫煙習慣のある方は禁煙を検討しましょう。またストレスも高血圧の原因となることから、日頃からストレスをため込まないよう、穏やかな生活を心がけてみましょう。
生活習慣の改善は1人で取り組むことも可能ですが、より無理なく適切に行ううえで、専門家の力を借りることもおすすめです。
医療機関では医師や管理栄養士が一人ひとりの暮らしに合った生活習慣の改善を提案してくれることもあります。血圧が高くなってきたなど気になることがあれば、まずは一度医療機関に相談してみるとよいでしょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
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